佐藤文香のネオ歳時記

第18回「ネモフィラ」「新入生歓迎会」【春】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・春 分類・植物】
ネモフィラ
傍題 瑠璃唐草

 2年前、俳句関係の友人がフェイスブックで婚約を報告した。嬉しそうな二人の写真の背景には夢のような薄青い花畑が広がっており、投稿の末尾には「ネモフィラや」で始まる一句が記されていた。去年は別の友人が、さらに広い同じ花の花畑を「一面ベイビーブルーの世界」「#nemophila 」とInstagramに投稿していた。流行っているのか、ネモフィラ。ムラサキ科ネモフィラ属、和名は瑠璃唐草で、もともとアメリカ大陸に育つ種らしい。見頃のピークは4月末から5月初めの1週間から10日ほどとのこと。晩春の季語でよさそうだ。
 ネモフィラで有名なのは国営ひたち海浜公園で、最寄駅の勝田までは東京駅から特急で80分程度。時間的には行けなくもなかったのだが、ちょっとお金がなかったので、都内でも見られる場所を探した。向かったのは日比谷公園だ。
 地下鉄日比谷駅のA14出口を出て園内に入ると、ほどなくして噴水広場にさしかかる。噴水を過ぎたところ、松本楼の手前にネモフィラの一帯があった。そんなに広くはないため、空と溶け合う花畑とまではいかないが、空を映す高層ビルを背景に、オアシスとして効いている。平日のお昼だったので、ランチに訪れている会社員の人たちも多く、皆、スマホやカメラで写真を撮っていた。私も撮影、たしかに、バエる(Instagram映えする)。なかなか今までこの色味の花壇は見なかった。ラベンダー畑よりは空色に近く淡い。冒頭、「夢のような」と表現したが、やさしいとはいえ寒色で、なんとなく今っぽいとも言えるかもしれない。隣の花壇がチューリップだったので見比べてみたら、平成前期(90年代)と令和くらいムードの差があった。
 ひとつの花に寄ってよく見ると、ベイビーブルーなのは薄い花びらの外側だけで内側は白く、いたってシンプルなつくりの離弁花(5枚)だった。花びらが丸くかわいい。まれに薄紫や真っ白の花(アルビノだろうか?)も混ざっていたが、基本的にだいたい同じ色で、あまり匂いは感じなかった。季語の本意を言い与えるとすれば、やはり集合体として見る花、ということになるだろう。ミツバチたちが丁寧に蜜を集めていた。
 日比谷公園はネモフィラ以外も花盛り。とくに著莪の花(白を基調とした小さいアヤメみたいな花)がこんなに咲いているのは初めて見た。霞門前の常盤満作は、紐状のピンクの花が上下左右に吹き出すように咲いて、アクセル全開といったところ。花水木もいい頃合いだ。最高気温が20度前後の一年で一番過ごしやすい時期、他の花々とは空気感の異なるネモフィラを、新しい景観として体感してみてほしい。

〈例句〉
ネモフィラへ尿(ゆばり)の熱の届きけり  佐藤文香
頭の奥の瑠璃唐草の野を剝がす
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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