佐藤文香のネオ歳時記

第18回「ネモフィラ」「新入生歓迎会」【春】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・春 分類・生活】
新入生歓迎会

傍題 新歓 新歓期 新歓合宿 新歓吟行 新歓句会

 大学に入学してすぐ、授業登録以外にも悩むことがある。言うまでもなく、部活やサークルの選択である。大学時代をどう過ごすかは、入るサークルにかかっていると言っても過言ではない。
 私の母校のキャンパスはものすごい人だった。立看板に旗、配られるビラ、ビラ、ビラ。校門から教棟までの間に所狭しとブースがあって、ゆっくり見てまわることはできない混雑だが、とにかく歩くだけで大量の紙モノをいただく。興味のあるなしでビラを仕分けするのは帰宅してからだった。
 あまり人気のないサークルにしてみれば、新入生をここでゲットできるかどうかが、サークルの存続にかかわってくる。何もしないでも一定数入会希望者がいるメジャーな運動競技でも、大学によってはいくつもサークルがあるから、質のいい新入生のゲットに奔走する。不安そうな1年生、勧誘をがんばる2年生、余裕で仕切る3年生、就活中にスーツで顔を出す4年生。それぞれの姿が、いかにも4月である。
 かつての私は新入生らしく意気込んで、男女混合のフットサルサークルに入るべく、もらったビラに書いてある日付の練習日に参加した。小学校5年間の女子サッカー経験により、サッカーをあまりやってこなかった大抵の女子よりはうまいだろうから、多少は重宝されるだろうという目論見である。が、思ったよりチャラいサークルで、イモっぽさ丸出しの私は全然相手にされず、結局2回行って断念した。
 一方こんな私にもやさしくしてくれたのは、クリケットサークルの人たちだった。クリケットはイギリスの国技だが、日本ではマイナーなスポーツで、サークルの先輩のなかには日本代表の人が何人もいてときめいた。羽子板のようなバットで硬いボールを打つ、本塁がふたつの野球のような競技で、難しいルールを覚えるのも楽しかった。新歓合宿に参加すると、福原愛に似ているという理由で「アイちゃん」というあだ名をもらい、新入生の中ではボールを投げるクセがないと先輩に言われて、ボウラー(ピッチャー)になれるよう練習を始めることになった。その後「俳句かクリケットか」という、今となっては失笑するしかない二択を迫られたことにより、夏合宿に行かずサークルを辞めてしまったが、あのとき自分は新入生としてサークルにいていいと認めてもらえた気がしたから、自信を持って大学生活に踏み出せたのだと思う。結局、気づいたら俳句研究会で勧誘をする側にまわっていたのは、よかったのか、どうだか。
今年も各大学の俳句サークルによる新歓吟行や句会の企画がツイッターで流れてきた。俳句甲子園を経た人も、そうでない人も、気軽に大学の俳句サークルに参加してみてほしい。きっと他のサークルとの掛け持ちもできるはず。余談だが、私の俳句総合誌デビューは大学入学後すぐで、恥ずかしながらクリケットをテーマにした7句である。

〈例句〉
新歓に集ふ大人とぼるがに飲む  佐藤文香
新歓買出し割勘リップティントをオフ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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