佐藤文香のネオ歳時記

第19回「クールビズ」「ケチャップ」【夏】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・夏 分類・生活(飲食)】
ケチャップ

傍題 トマトケチャップ ナポリタン チキンライス

 トマトケチャップといえばKAGOMEかHEINZか、それともDelMonteか。いずれにせよ、各家庭の冷蔵庫に大抵常備されている調味料だが、家でもわりと手軽に作ることができるらしい。トマトに玉ねぎやりんごを少し足して加熱、ミキサーでペースト状のピューレにし、さらにハーブと調味料を加えて煮込めば完成、と。その赤はトマトより出でてトマトより赤し。フランクフルトやアメリカンドッグなどを屋外で食べると、夏の青空や緑に映える。ケチャップ、ケチャップ、音の響きからして夏っぽいとも思う。まぁ、トマトはもともと夏の季語だ。
 ケチャップは、オムレツなどに絵や文字が描けるのもポイントが高い。黄色に赤なので目立ってかわいい。よくあるのはハートマークや名前、キャラクターなどだが、うちでは「ねこ」「くらげ」などよくわからないことを書く習わし。ただし、文字の画数が多すぎると、ケチャップの味しかしなくなるので注意が必要である。
 また、ケチャップは別のソースと一緒に使うことで真価を発揮する。マヨネーズと混ぜればオーロラソース。これは鮭のムニエルなどに合う。ウスターソースと混ぜてハンバーグに。肉汁の残ったフライパンで軽く熱するとさらに美味しい。ウスターソースの代わりに醤油でもいける。ケチャップ味噌は炒め物に重宝。植物由来の酸味と甘みが、他のソースの塩分やコクと融合して食欲をそそる。
 そして、ケチャップ単品でも、火を入れると酸味が飛んで、材料に馴染む。オムライスの中身であるところのチキンライスや、ナポリとは特に関係のないナポリタンがその例で、どちらも日本発祥の洋食メニューだ。かつて、いや今でも、ケチャップといえば日本において“馴染みの洋食”の味の代表で、とくに焼いたケチャップというのは非常に日本食らしい甘みと言えると思う。というわけで、独断でチキンライスとナポリタンも傍題にしておいた。ナポリタンにはバターを使うのと、べったべたになるまでケチャップを入れるのがコツだ。
 ここまでケチャップについて書いてきたら、熱々のチキンカツをケチャップで食べたくて仕方がなくなっている。どなたか! 私のために鶏胸肉を揚げてください!

〈例句〉
ケチャップに羽虫のまはる夢の国  佐藤文香
ナポリタンひとつ!と言ひながら座る
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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