海をあげる

優しいひと

 沖縄には、ムーチービーサーと呼ばれる時期がある。旧暦の12月8日だから、毎年その日はくるくる変わる。それでもムーチービーサーになると必ずわかる。毎年その日になると風が吹いて本当に寒い。
 ムーチビーサーの時期になると、月桃(げっとう)という葉にもち粉と黒糖を混ぜ合わせたお餅を包んで蒸した、ムーチー(鬼餅)というお菓子をつくる。寒さの底つきのその日にムーチーを食べるのは、外にいる人食い鬼と内に巣食う邪気をやっつけるという意味があるのだろう。月桃の葉に包まれたお餅を蒸していると、蒸した葉の香りが一面にただよってあたりがまるごと清められたようになる。
 今年のムーチービーサーは1月13日で、翌日の1月14日は休日出勤になった友だちの子どもを預かり、娘も一緒にうちで過ごした。ムーチーをつくろうとふたりに提案すると、「私、おばあちゃんとつくったことがあるよ!」と友だちの子どもははしゃぎ、それだけで「いっしょだね!」と娘は大喜びしている。子どもたちが友だちになる瞬間を見るのはいつも楽しい。
 おかっぱ頭のふたりの女の子を台所のテーブル前に座らせて、これからもち粉と黒糖を混ぜて、それをまるめて団子にした一口大の子ども用のムーチーをつくると説明する。ふたつのボールにもち粉と黒糖と水をいれてから、しっかり混ぜるようにふたりに言いつけて、私は月桃の葉を取りに庭に出る。
 取ってきた月桃の葉を冷たい真水でよく洗い、タオルでしっかり拭いてから葉っぱを5センチ程度の正方形にハサミで切る。ハサミを扱いながら、ムーチービーサーになると必ず冷え込むこと、子どもの生まれた家はムーチーをつくって近所にご挨拶に行くこと、ムーチーを食べて鬼をやっつけたという民話があって、ムーチーを食べると強くなるとふたりに話してみるけれど、ふたりは手についたもち粉を食べるのに夢中で、私の話を聞く気配もない。
 生のままのもち粉を食べたらおなかが痛くなるよとふたりに言うけど、頭の上で手を開いて「ちょんちょんぱー、ちょんちょんぱー」と歌いながらふたりはふざけだし、大笑いをしているすきに生のままのもち粉を食べられてしまう。結局、ほんの少しのもち粉でムーチーを作り、文句をいいながら3人で食べる。

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 子どもたちと過ごした休みの翌日、元山仁士郎さんからハンガーストライキのお知らせが届いた。

「県民投票に五市長が参加するというまでハンガーストライキをします」

 元山さんからのFacebookのお知らせは、淡々としたものだった。
 2018年の春ごろから、元山さんたちは、辺野古の埋め立ての是非を問う県民投票の準備を進めていた。普天間飛行場と辺野古新基地の滑走路の長さは違うこと、普天間飛行場にいる飛行機は、辺野古新基地には離着陸ができないから普天間の代替基地にはならないこと、新基地建設予定の海底にはマヨネーズのように柔らかい地盤があって、基地をつくるためには90メートルの長さの柱を7万7000本も立てなくてはならないことが明らかになっても、新基地建設はとまらない。
 元山さんたちは、街頭署名をしながら10万人ちかくの署名を集めた。それから条例が制定されて、新基地の是非を問う県民投票が実施されることがようやく決まった。それでも県民投票が実施される直前になって、宜野湾市、うるま市、沖縄市、宮古市、石垣市の市長が、自分の街に住んでいる住民には投票させないと勝手に決めた。私は自分の住んでいる宜野湾市役所に、「私の声を奪わないでほしい」と手紙を書いたけれど、市役所からはなんの回答も返ってこなかった。
 元山さんからのハンガーストライキの告知を読んで、いても立ってもいられなくなり、私は近所の宜野湾市庁舎にでかけていった。元山さんは、「ハンガーストライキをしています」という看板の隣で、折りたたみの小さな椅子にぽつんとひとりで座っていた。
「おーい、来たよー」と元山さんに声をかけると、「あー、来てくれたんですか」と元山さんはいつものようににこにこ笑っていた。
「なんと、ハンガーストライキになるなんて」と私が言うと、「僕もびっくりしています」と穏やかに元山さんは答える。ああ、元山さんはなんにも変わらないと、私のほうがびっくりする。