漫画家入門

第12回 カナダ

2018年5月

今月来月は、編集部の都合で、番外編のエッセイをお届けします。

 昨年の5月上旬、カナダに行って、そして帰ってきた。トロントで開催される「TCAF」というコミックフェスのゲストに呼ばれ、サイン会や漫画の制作過程を説明するワークショップをしてきたのだ。以前、イタリアのルッカという街で開催されたイベントに参加したときは、アナログの画材とデジタルのPC環境をすべて持ち込んだ大掛かりなワークショップで、漫画の製作過程を実演しようとしたのだが、時間内に絵が全く完成せず大失敗したという経験がある。だから今回はノートPCで準備したスライドを見てもらい、僕はその解説のみという簡素なものだった。しかしイベントは大盛況だったと思う。
 サイン会は2日に分けての計4回で合計200人。日本でサイン会といえばサインに加えちょっとしたイラストも添えることは珍しいことではないと思うが、海外ではこれがかなり喜んでもらえる。特に海外の場合、これが会話のままならない自分にできる精一杯のサービスなのだ。北米の出版担当者には時間的に難しいならサインだけで良いとも言われたが、どうにか全員にイラストを描き入れることはできた。
 こういう海外のイベントの際、僕がどういう状態で空き時間等を過ごしているかというと、担当編集をはじめ、通訳や現地の出版社の方に囲まれずっと大名行列状態なので、正直少し居心地が悪い。どこかに行こうとするたびにみんなを連れ回してしまう手前、終始かなり心苦しく、心の隅でこの大名行列から早く解放されたいと感じてしまうのも、想像に難くないと思う。なので今回はイベント以外の時間や夜はできるだけ自由行動にしてもらって、街をぶらぶらしていた。
 トロントはホテルや飲食店等、基本建物内はすべて禁煙なのだけど、外での喫煙には寛容だった。歩き煙草もそこそこ見かけるし、ゴミ箱には煙草の吸い殻を入れる穴が付いている。自分も久しぶりに歩き煙草をした。しかし煙草を吸っているとやたらと話しかけられる。トロントにいる間、巨大なボロ布のような上着を着ていたせいもあって、ぱっと見我ながらホームレス感が強く、かつ暇そうにしていたからかもしれない。特に深夜は人数こそまばらだが、すれ違う二人に一人は話しかけてくる。僕の英語力は中一レベルまで後退しているので、文章を読めば多少想像できるが、聞き取りは一切できず理解もできない。
 初日の深夜にホテル近くの公園で若者に話しかけられたときは、向こうが何度も「Weなんたら」と繰り返すばかりで何も理解できなかった。僕が口からすんなりと出る英文は「Fuck you」と「Go to hell」だけなので、迂闊に声を出すこともできない。僕がもごもごしていると、向こうはしびれを切らして去って行ったが、後々考えたら彼が言っていたのは「We」ではなく「Weed(大麻)」だったことに気づいた。とにかく煙草を吸っているとそういう用件で話しかけられるので、外出中ずっと早歩きだった。それはそれで疲れた。