金田淳子

round.6 『声の物語』『1984』『侍女の物語』『82年生まれ、キム・ジヨン』

漫画・アニメ・小説・ゲーム……さまざまな文化表象に、萌えジャージにBLTシャツの粋なフェミニストが両手ぶらりで挑みます。うなれ、必殺クロスカウンター!! (バナーイラスト・題字:竹内佐千子)

 おそらく『声の物語』は、『1984』や『侍女の物語』と比べても、エンターテインメント要素、つまりは「読者が爽快に感じる」という要素を、意図的に盛り込んでいると思う。具体的には、ジーンが従事させられる研究プロジェクトの真の目的についての謎解き、また誰がレジスタンスなのかわからないというサスペンス要素などがそれだ。これらについては(またしても実現不可能性について気になりつつも)、私も「そうだったのかー」「なるほどなー」と、感心する部分もあった。
 エンターテインメント要素の中で私が問題だと思ったのは、「勧善懲悪」要素だ。名前のある登場人物のうち、アンチフェミニストである人物は、その度合いに応じてことごとくその報いを受ける(究極的には、殺害される)。フェミニストである人物は、最終的に抵抗活動が報われてかえり咲く。ジーンもかつてはフェミニズムに批判的な女性だったので、1年間、彼女が極端な被差別状況に置かれたのは、ある意味で報いであったともとれる。

 このように「作品内での正義」に照らして登場人物が報いを受けるという筋書きは、エンターテインメントではよくあることなので、あまたある作品の中でことさらに『声の物語』だけを批判するのは、フェアではないと思う。たとえば第四回でとりあげた『キャプテン・マーベル』も同様の筋書きになっている。
 しかし『声の物語』に関して、私の違和感がぬぐえないのは、エンターテインメントですよという装いでなく、問題提起的なフェミニズム文学ですよという装いで(少なくとも日本では)売り出されているからだ。問題提起をする大真面目な作品で、『さるかに合戦』みたいな結末を見せられると、私としては「お前それでいいのか?」「ジャンルが違うのでは?」という気持ちになってしまうのだ。

 私は『1984』や『侍女の物語』、そして『キム・ジヨン』を読んだとき、これらが一様に、世界を変えるための方法を提案せず、薄暗い道がはるか遠くまで続いていく感じの結末を迎えることについて、初読時には実は、物足りない、はがゆいと思った口だ。もしかしたら、クリスティーナ・ダルチャーもそう思ったのかもしれない。
 しかし、エンターテインメント風の勧善懲悪と、ポジティブな未来予想が描かれた『声の物語』を読み終わったとき、私は、一向に爽快感が得られなかった。言い方が悪いが、悪の首魁が死ねば、民衆が各地で立ち上がって社会が変えられるという結末を、非常に幼稚に感じたのだ。労働問題ひとつとってもそうだが、社会はもっと複雑だ。「こうすれば、世界が変わる」という都合の良い方法など存在しない。変な話だが、『声の物語』を読むことによって、私は『1984』『侍女の物語』『キム・ジヨン』が、あのような結末であることについて、積極的に評価したいという意見に変わった。

 なお、『声の物語』の登場人物の中で、最も興味深いキャラクターは、ジーンの夫であるパトリックだと思う。彼は妻を愛しているが、フェミニズムについては「やりすぎだ」と思うタイプであり、それでいて、現政権を許容することもできず、妻に隠れてレジスタンス活動をしている。パトリックは現政権の重要人物たちの毒殺に成功するものの、その際に射殺される。物語内ではアンチフェミニストほど後で報いを受けるという法則があるので、パトリックが死んだ件について、私は「毒殺実行犯を買って出たぐらいでは許されなかったのか」「規準が厳しい」と思った。ジーンはかねてからロレンツォという男性と熱烈な不倫関係にあるので、勧善懲悪というより単に物語の進行上、パトリックが邪魔だったのかもしれない。
 このように、最終的には一番つごうの良い動きをさせられた男・パトリックだが、もし彼が語り手だった場合、どんな物語になっていたのだろうか。彼にとって、優秀な研究者であった妻(ジーン)が職業と声を失って、家庭に縛り付けられた1年間はどのような日々だったのか。妻が不倫をしていると知って、それでも放っておこうと決めたのはなぜなのか。権力者たちを殺すために、毒を手にした時、彼は「男らしい」ヒロイズムに震えていたのか、それともギリギリまでやりたくなくて震えていたのか。絶対的な悪人や、物語にとって都合の良い存在ではなく、フェミニズムを自分たちの問題として考えようとする男性たちのために、私は、そのような物語が読みたいと思う。

【おまけ】
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