ちくま新書

人間は間違える

仕事も勉強も災害避難の判断も宝くじも、直観は当てにならないし、熟考しても間違えてしまうのはなぜでしょうか。そのわけを知って上手にいかせば、ミスを減らすことができます。さらに他人のことも思い通りに動かせるかもしれません。不思議な錯覚・錯視から危険な認知バイアスの理由まで明らかにする、ちくま新書『ヒューマンエラーの心理学』の前書きを公開します。

 多くの読者は意外に感じられるかもしれませんが、人間は、他の生物種と比べると、外界や自分の状態の認識において誤ることが圧倒的に多い生物種です。
「人間は『万物の霊長』であり、他の生物種よりも優れた知覚や認知のシステムを持っているから、知覚や認知において誤ることは少ないのでは?」
 こう考える読者は大勢いらっしゃるかもしれません。「霊長」とは、辞書によると「最もすぐれていて、万物のかしらとなるもの」という意味です。
 しかし、人間は他の生物種に比べて、特に優秀な知覚認知過程を持っているわけではないのです。むしろ、周囲にある事物の特性や、自分自身の状態についての知覚や認知において、圧倒的に高い頻度で誤りを犯します。
 本書はそのことを読者に知ってもらうために書いたものです。前著の『錯覚学――知覚の謎を解く』で、比較的初期の過程の知覚認知の誤りについて書いたのに対し、本書では、より高次レベルでの知覚認知系の処理や記憶等の誤りについてまとめました。
 また、読者に、人間がどのような誤りを犯しやすいのかを知っていただくことで、日々の生活の中でそうした誤りによって生じる危険を回避してもらうことも本書の狙いの一つです。さらにつけ加えると、読者には、本書を読むことを通して、人間の知覚認知に誤りが生じやすいこと自体に、人間独特の「のびしろ」があること、そして、人間という生物種にユニークな可能性があることを知るきっかけにしていただければ幸いに思います。
 本書の執筆にあたっては、大学での授業やゼミ、学会などにおける学生、研究者などさまざまな方たち、とりわけ、現在在籍している千葉大学心理学講座の先生方や学生たち、私が代表を務める学内プロジェクト「多元的認知行動解析」メンバーの認知科学や工学領域の先生方とのやり取りの中で得た知識や、彼らとのやり取りの中で考えたことがらが基礎になっています。ここに記して感謝いたします。

【目次より】

第一章 人間は間違える――知覚認知が誤りやすい理由
第二章 音を見る、光を聴く――感覚はウソをつく
第三章 身体と感情――錯覚は知覚や心理にどう影響するか
第四章 直観はなぜ間違えるのか――確率的特性と合理的判断
第五章 認知バイアスに見る人間特性――思い込みと選択ミス
第六章 改変される経験の記録――記憶の誤りとでっちあげ
第七章 機械への依存とジレンマ――合理的判断が最適とは限らない
第八章 人間の適応戦略――錯誤を自覚することの大切さ