佐藤文香のネオ歳時記

第25回「コミックマーケット」「モロヘイヤ」【秋】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・植物】
モロヘイヤ

傍題 縞綱麻

 前回のズッキーニに引き続き、野菜シリーズ。私のようにオクラやめかぶなどのネバネバ系が好きな人は、モロヘイヤも好物に違いない。葉っぱをちぎってさっと茹で、包丁でみじん切りにして粘りを出す。ポン酢をかけて冷やして食べると美味しい。てんぷらにしてもよく、しゃわしゃわとたくさん食べられる。

 かつて、重病を患ったエジプト王がモロヘイヤスープによって治ったという故事があり、「王様の野菜」とも呼ばれています。このスープは現在でもよくつくられ、各家庭には「マハラタ」と呼ばれるモロヘイヤ専用の包丁があるそうです。
(本多京子『食の医学館』(小学館)より)

 エジプトでは日常的に、スープで食べられているらしい。本格的に入ってきたのは1980年代だそうで、ズッキーニと同じ頃だ。ということは、1980年以降日本にやってきたようなものは、今のところまだ季語になっていないものが多いのかもしれない。ほかに、季語になっていない野菜でいえば、ツルムラサキがあり、これも粘りがあって、暑い季節におひたしなどにして食べると美味しい。中華料理などで使われる空芯菜も季語ではないようだが、こちらも高温多湿のところで育つようだ。モロヘイヤにしても、ツルムラサキや空芯菜にしても、温暖化の影響で日本が暑くなった結果、暑い地域原産の植物の栽培が盛んになったのだろう。
 モロヘイヤという名前は、アラビア語のエジプト方言。「モロ」も「ヘイヤ」も日本語にある音なのに、合体すると初めて聞くような音になるのがいい。季語として俳句に入れるときは、ぜひともこの音を生かした作品にしたいものだ。後藤比奈夫に〈モロヘイヤにもお裾分芋嵐〉(『めんない千鳥』より)という句があり、「モロヘイヤ」の「モ」「ロ」「イヤ」、「にもお」を挟んで、「芋嵐」の「い」「もあ」「ら」と、有声子音と母音が効いていて面白い。「もろへいや」も「いもあらし」も、何度でも言いたくなる五音である。芋嵐は里芋の大きな葉までが揺れまくる秋の暴風のことだが、横に生えているモロヘイヤも大揺れということだろう。お裾分、というのが可愛い。
 和名はシマツナソ(縞綱麻)でアオイ科。アオイ科の植物といえば、芙蓉や木槿(むくげ)、オクラなど、わりと大きくて薄い花びらの花をつけるが、モロヘイヤの花は黄色くて小ぶり。ただ、花や実は毒があるため、食べてはいけない。
 

〈例句〉
地元ではひまになるなりモロヘイヤ  佐藤文香
もろへいやすうぷにあぶら丸く浮く