世の中ラボ

【第113回】「れいわ新選組」躍進がおもしろかった参院選

ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2019年9月号より転載。

 48.4%という戦後二番目に低い投票率で終わった七月二一日の参院選。盛り上がりに欠けたという声もあるけれど、私には久々にエキサイティングな選挙戦だった。
 自民党が単独過半数割れに至り、公明・維新を合わせた改憲勢力が三分の二をわずかながら下回ったことも理由のひとつ。だが、それ以上にエキサイティングだったのは、山本太郎率いる「れいわ新選組」が思わぬ躍進をとげたことである。えっ、知らない? 知ってはいるけど、どーせ一時のブームでしょって?
 そっか、あの興奮を経験していないのね、可哀想に、というしかない。たしかに開票時までこの政治団体自体を知らなかった人は多い。選挙戦中、彼らの動きを伝えた大手メディアは皆無に等しかったからである。彼らの選挙は完全に街頭演説とインターネット頼みだった。逆にいうと、テレビと新聞でしか選挙戦に接していなかった多数派と、動画やツイッターで彼らの動きをつぶさに追っていた少数派とのギャップは天と地ほどに大きい。
 といっても知らない人にはピンと来ないと思うので、彼らの何がどうおもしろかったかからはじめよう。

市民参加型の選挙と政策
 れいわ新選組が立ち上がったのは四月一日。新元号が発表された当日だった。体制迎合的とも見える「れいわ」がついた党名に違和感を覚えた人も多かったはずである。だが、結果的に見ると、この命名は戦略的に正解だった。選挙戦中に安倍自民党が「令和令和」と連呼することを封じてしまったからである。
 公示直前にバタバタと発表された候補者も、全員が何らかの当事者である点において、きわめてユニークだった。山本太郎以外の比例代表の候補者は、拉致被害者家族で元東京電力社員の蓮池透、女性装の東大教授・安冨歩、本部から契約解除された元コンビニオーナー三井よしふみ、J・Pモルガン銀行の為替ディーラーだった大西つねき、元派遣労働者でシングルマザーでホームレスの経験もある渡辺てる子、環境保護NGOの職員だった辻村ちひろ、そして今回比例代表特定枠で当選したALS当事者の舩後靖彦と、重度障害者で自立支援団体の事務局長・木村英子の八人。東京選挙区に立ったのは、沖縄の創価学会員でありながら、公明党を真正面から批判する野原ヨシマサ。意表をつく布陣である。
 この感じは、できたてのインディーズ系のバンドに近いかもしれない。最強のボーカリストがリーダーの山本であるとしても、各候補者にもファンがつき、街頭演説は音楽フェス並みの大盛況。個人の寄付で投票日までに四億円を集め、蓋を開けてみれば得票数228万票、比例代表の得票率は4.55%で、政党要件を満たす2%を軽々とクリアし、二人の当選者を出した。代表の山本が99万票で落選したのも、こうなるともう武勇伝である。
 選挙戦開始時には誰も想像しなかった「れいわ現象」。228万人の有権者を動かした力とはしかし、何だったのか。
 勝因はおそらく二点。ひとつは選挙戦あるいは党運営のスタイルだ。彼らの選挙は完全に市民参加型だった。地盤(支持団体)、看板(知名度)、カバン(資金)、すべてなし。そのインディーズ感が「私たちが支えなければ」という意識を生み、演説動画の拡散とカンパの列につながる。メディアに無視されたといっては憤り、新聞に数行載った、テレビに数十秒映ったといっては盛り上がるツイッター。投票日直前、れいわの新聞広告が数紙に載った日などは大変だった。広告は金を出せば載るわけだが、「○○新聞さん、ありがとう」「私のお金がここに使われたかと思うと誇らしい」という反応が支持者からは出るのである。
 もうひとつの勝因は、こうした反応のベースをつくったのが、公約(政策)への期待と共感だったことである。「政権とったらすぐやります」と称して同党が掲げた政策は、消費税の廃止、安い家賃の住まい、奨学金チャラ(奨学金徳政令)、全国一律最低賃金1500円、公務員を増やす(保育、介護、障害者介助、事故原発作業員など公務員化)などだった。いずれも弱者優先、生活密着型の経済政策である。当初は半信半疑だった有権者も、裏付けとしての数字や統計を示され、消費税の廃止分は累進課税と法人税の増税分で十分埋められる、などと聞けば「実現は可能かも」と考えはじめる。れいわの政策には、つまり夢があったのだ。
 以上のような経緯を考えれば、れいわに投票した228万人は、自ら情報を取りにいき、候補者も公約も選挙戦略も熟知した上で、彼らを主体的に選んだ投票者だったと見るべきだろう。「はじめて本気で応援したい党に出会った」「次の衆院選が楽しみだ」といった声の多さがそれを物語っている。
 二〇一三年に山本太郎が東京都選挙区で当選したときの票数は66万票。いったい彼はどうやってここまで来たのか。
 注意すべきは、この現象が山本太郎個人の人気に由来しているわけではないことだ。山本太郎は小泉進次郎じゃないのである。今度の選挙で名をあげたとはいえ、彼はカリスマ型あるいはアイドル型の政治家ではなく、イメージとしてはむしろ国会の異端児だった。もっとも参議院議員としての六年間、彼がかなり地道な活動を続けてきたことは『僕にもできた! 国会議員』に詳しい。
 この本はいわば政治家・山本太郎の成長の記録である。〈国会議員になったはいいけど、プロが事務所に一人もいない状態(笑)〉からはじまった山本は、当初、生活保護や労働問題の専門家からレクチャーを受けても〈要点をメモろうと思うけど、何が要点なのかもわからない〉状態だった。だが彼はその後、現場に飛び込み、当事者の声に耳を傾けることで、数々の成果を上げていく。西日本豪雨の被災地に小型重機100台を入れさせたとか(一八年七月)、オリンピックに向けた野宿者の追い出しに関して「野宿の権利」を国会で質問、野宿者の他公園への移動を勝ち取ったとか(一六年一〇月)、ひとつひとつは目立たない動きである。だが当事者に接することで学んだことは多かったはずだ。アマチュアの力である。
 それらの中でもとりわけ大きかったのは、彼が学んだであろう経済政策だ。私が感動した最大の理由も、じつはここなのだ。

反緊縮の経済政策が響いた
 表だって公言してはいないものの、れいわ新選組が打ち出しているのは、新自由主義経済に対抗する「反緊縮」の経済政策だ。反緊縮は、三年前のこの連載でも取り上げた松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』(二〇一六年、大月書店)などが、さんざん主張してきたことである。ヨーロッパの左派政党がこぞって「量的緩和」「財政出動」を掲げているのに日本の野党はわかっちょらん。有権者の心をつかみたければ、民衆のため政府がじゃんじゃん金を出し、景気回復を図ると訴えるしかないだろうが、という。
 新刊の『左派・リベラル派が勝つための経済政策作戦会議』でもほぼ同じ主張がくり返されているのだけれども、この本でおもしろかったのは直近の選挙の分析である。一八年の沖縄県知事選で玉城デニー知事が圧勝したのは、辺野古の新基地建設に反対したからというより〈別に基地なんかに頼らなくてもやっていけるんですよ、基地があるせいで経済発展の妨げになっているんです〉という主張が説得力を持ったためだというのである。失業率が半減するなど、翁長県政の下で、沖縄県はじつは著しい経済発展をとげていた。その実績に加え、縦貫鉄道や観光を盛り上げる、保育料や給食費を無料にする、最低賃金を上げるなど、生活に密着し、経済を拡大させる政策を玉城は積極的に打ち出した。
 ひるがえって同じ一八年の新潟県知事選の場合、柏崎刈羽原発の再稼働反対を掲げ、野党五党が推した池田千賀子候補の経済公約は〈『〝真の豊かさ〟を実感できるにいがた』と題した本文70字の抽象的文章〉だけだった。それに対し、対立候補の花角英世現知事の経済政策は具体的で細かく、〈読んでみると、本当にすごく発展するんだなあという気持ちになってくる〉。当選の決め手は経済政策にあり。それはもう結果が示している。
 れいわ新選組に話を戻すと、彼らが掲げた経済政策はまさに反緊縮のお手本だった。実際、山本太郎は松尾らの研究会が企画した反緊縮講座にもプレゼンターとして参画している。既成の野党が見向きもしなかった一見荒唐無稽な反緊縮政策に、いわばれいわは乗ったのだ。同党の比例代表候補のひとり、大西つねきの『私が総理大臣ならこうする』が異例の売れ行きを見せているのも、選挙で経済政策への目を開かれた人の多さを示していよう。
 もうひとつ、この流れで参照すべきは、三月号のこの連載でも取り上げた世界的な「左派ポピュリズム」の潮流である。貧困層や労働者層に訴える経済政策で躍進した、ジェレミー・コービン率いる英国労働党、パブロ・イグレシアス率いるスペインの「ポデモス」、一六年の米大統領選で社会現象を巻き起こしたバーニー・サンダースらの流れに、れいわも乗っているのではないか。
 もちろん今度の参院選は予兆にすぎず、228万票ぽっちで全然足りない。左派ポピュリズムは危険だという人もいる。しかし、それなら「右派ポピュ」に乗った安倍政権や維新のほうがよほど危険だ。そこに、日本ではどうせ無理だと諦めていた「反緊縮」と「左派ポピュ」がキターーー‼ だったわけですよ。ほらごらん、定石通りにやれば人は付いてくるじゃんか、と。
 以上が、私にとってこの選挙がエキサイティングだった理由。さてインディーズのバンドがメジャーになる日は来るのか。野党共闘の票を奪ったなぞとケチをつけてる場合じゃないと思うよ。

【この記事で紹介された本】

『僕にもできた! 国会議員』
山本太郎/雨宮処凛取材・構成、筑摩書房、2019年、1400円+税

〈あなたの税金がこの男に使われる、納得できますか? しっかりと確認してください〉(帯より)。参議院議員としての六年間の歩みを、成果、政策、無所属からはじまった所属党派の変遷などとともに振り返る。悪評を買った牛歩戦術の経緯、小沢一郎の山本太郎評、松尾匡や木村草太との対談も収録されたお得な一冊。貧困問題などに真摯に取り組んできた議員の姿がうかがえる。

『左派・リベラル派が勝つための経済政策作戦会議』
松尾匡、青灯社、2019年、1500円+税

〈財政赤字? 心配無用 欧米で大注目の反緊縮策!〉(帯より)。日本の左派政党が負け続けているのは、「景気拡大反対」のイメージがあったからだ。財政危機論は新自由主義のプロパガンダで、「緊縮はダメ、人が死にます」が正しいメッセージである。そんな主張を数々の資料とともに示した本。巻末の「反緊縮経済政策モデルマニフェスト」はれいわの政策とも重なるところが多い。
 

『私が総理大臣ならこうする』
大西つねき、白順社、2018年、1600円+税

 

〈あなたは政治にはじめてワクワクする〉(帯より)。れいわ新選組候補者の中でも特に人気を博した元為替ディーラーの本。大風呂敷なタイトルとは裏腹に、「国の借金は大ウソ」「日本は世界一のお金持ち国」「政府の借金を税金で返してはいけない」など、初耳に近い経済のしくみを懇切丁寧に説く。消費税撤廃、インフラの公営化、郵政の再国営化といった提言も説得力大。

PR誌ちくま2019年9月号

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