海をあげる

手と手と手

 月曜日が始まると、やっぱりひどく忙しい。月曜日、夫の帰宅は夜中だから、すべてひとりでやらないといけなくて、授業をふたつやって、翌日の授業の準備を済ませて娘を保育園で迎えて家に帰るととにかく疲れて眠かった。それでもなんとかご飯を食べさせて、一緒にお風呂に入って歯磨きをすませて、8時には娘を連れて寝室に行く。
 ところが娘は眠らずに、いつものように張り切って絵本を選ぶ。

 「今日の絵本は3冊ね。『あくたれラルフ』と『14ひきのやまいも』と『アナと雪の女王 家族の思い出』ね」

 「風花、今日は1冊だけにして。かーちゃん、今日、クタクタなの」と言うと、娘はしばらく考えて、「じゃあ、『あくたれラルフ』はいいから、『14ひきのやまいも』と『アナと雪の女王』を読んで」と、2冊の本を握って離さない。

 「今日は本当にきついの。明日は病院に行くんだけど、『トトロ』のサツキやメイのお母さんみたいに『入院して』って、お医者さんが言うかもしれないから、今日はもう眠ろう」

 娘はきっぱり言う。

 「でも、メイのお母さんはお家に帰ってきたでしょう? それに風花はネコバスに乗ってママの病院に行くから大丈夫。だから早くこれを読んで」

 なんでこの子はこんなにわがままなんだろうと思ったら腹が立ち、それでも家には誰もいないので、私は娘のそばを離れることもできない。

 「風花はかーちゃんが入院してもいいんだ。かーちゃん、このままだったら倒れて入院するかもしれないんだよ」

 話しているうちに悲しくなって、私は娘の前でワンワン泣いた。そしたら、娘も一緒に泣き出した。

 「マーマ、ごめんなさい。マーマが泣くと、風花も本当に悲しいの」

 親が入院するかもしれないというのは、子どもにとってすごい恐怖かもしれないとハッと気づき、「ごめんね、元気になるから大丈夫だよ」と慌てて言う。
 すると娘は泣き止んで、『14ひきのやまいも』の絵本のなかに、『アナと雪の女王 家族の思い出』を挟んで私にみせる。

 「これは1冊だからね。今日はこの1冊だけでいいから読んでください。ここから読んだらいいんだからね。マーマ、頑張って読んでください」

 なるほどそういう考えもあるのかと思い、ふたつの絵本をひとつの絵本のようにくっつけて読んでみる。そしたらオラフは最初から雪に埋まっている迷子だし、アレンデール王国はどういうわけだかクリスマスだし、14匹のネズミたちは大した努力もせずにやまいもを食べているし、なんだかわけがわからないお話になってしまう。
 それでもとりあえず読み終わり、「はい、これで今日は終わり!」と絵本を閉じると、娘はまたそばで泣いている。

 「1冊だったらやっぱりお話がわからないから、2冊別々に読んでください」

 心の底から疲れ切って、「風花がふたつ合わせて読んでって言ったから読んだのに! 風花はかーちゃんが入院してもいいんだね! 意地悪!」と言うと、「じゃあ、マーマ、明日は1冊だけでいいです。でも、今日は、やまいもと家族の思い出を2冊お願いします」と、娘は泣きながら交渉してくる。
 ……結局、2冊の本を別々に読む。

 アレンデール王国にはクリスマスがやってきて、アナとエルサにクリスマスの思い出をあげようと雪山で迷子になってしまったオラフは、アナとエルサに発見してもらえたし、14匹のねずみたちは、一日中、大奮闘してやまいもを掘り出して、みんなで美味しく食べてよかったという話にちゃんとなる。
 ランプをぱちりと消して、「今日はもう終わり!」と宣言すると、娘は私に頭をくっつけてきて、「可愛い可愛い風花ちゃんの話をして」と言うので、私はまた腹が立つ。頭にきたまま眠っているふりをしていたら、「マーマは風花が可愛くないのかな」とつぶやいて、娘はしくしく泣いている。面倒くさいので眠っているふりを続けていると、娘はようやく寝息をたてる。
 娘が起きていると苛立つのに、娘が眠ったとたん後悔する。今日はごめん。早く元気になるからね。娘に頭をくっつけて私も眠る。