佐藤文香のネオ歳時記

第29回「ローファー」「予防接種」【秋】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・生活(ファッション)】
ローファー

 ローファーとは、紐がなく甲の部分が平たい革靴全般のことだと思っていたが、どうも商標名らしく、モカシン(アメリカ先住民の靴)を模したカジュアルな浅靴、だそうだ。銀杏の葉に似合うという理由で、晩秋のネオ季語とする。
 いつもどおり私ごとだが、昔から足が大きい。中学一年生のとき、背は146cmしかなかったのに足は25cmだったので、今に見てろ、170cmになってやると思いながらバレー部に入ったが、結局身長は163cmまでしか伸びず、その代わり足がさらにでかくなってしまった。レディースの靴は、LLが24.5cm~25cmくらいで、私はこれだと入らない。現在履いているスニーカーは、メンズの26cmである。今でこそ、大きいサイズのレディースの靴が多くの店で買えるようになったが、15年前は専門店か取り寄せでしか購入できなかったし、かわいいデザインのものなど皆無だった。
 そんな私が高校デビューでつまづいたのが、他ならぬローファーである。校則では確か、黒かそれに類する色のスニーカーか革靴と決まっていたと思うが、イケてない系の子はみんなスニーカー、かわいい子はみんなローファーだった。さらにおしゃれな子は焦茶のローファー。私はメンズの黒のスニーカーを履いて入学したのだが、あのときほど、足が25cm以下であることを羨ましいと思ったことはない。悔しいので調べると取り寄せができることがわかって、それ以来25.5cmのローファーを頼んで履くようになった。ただ、でかいローファーには2つ難点があった。ひとつは、私の足は縦に長く横幅は細いため、左右がぶかぶかになってしまうこと。紐靴だと紐をきつく縛ればどうにかなるのだが、ローファーではそうはいかない。もうひとつは、単純にかわいくないこと。ローファーを履けばかわいくなれると思ったのに、なんと、でかいローファーはかわいくないのである。ローファーの原義は「なまけ者」だそうだが、なるほどスリッパっぽい。これでは話が違うと思った。それでも、頑なにローファーで高校生活を送ることにし、雨の日もローファー、走るのもローファー。すぐ色が剥がれるので黒の油性ペンで塗ったり、靴底を接着剤で貼り付けたりもした。でも、かわいい子のローファーはいつもぴかぴかだった気がする。かわいさというのは心のありようで、心のありようは靴の美しさに反映されるのかもしれない。
 大人になってからも、ローファーへの執着は捨てきれず、本気で足に合うローファーを探し、ついに革ではなくエナメルのものを購入。自分にとってはかなり高額だったが、この際だからと木製のシューキーパーも買って、大事に履いている。最近気になっているのは、男性のローファー。もちろんレディースよりでかいわけだが、男性が履くとそれはそれでかわいい。
 

〈例句〉
ローファーは今この樹の根元を映してゐる  佐藤文香
友達に聞く君のことローファー捨つ
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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