佐藤文香のネオ歳時記

第29回「ローファー」「予防接種」【秋】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・秋 分類・生活】
予防接種

傍題 インフルエンザワクチン

「風邪」「感冒」は冬の季語。風邪関係の「マスク」や「嚔(くさめ=くしゃみ)」「咳」「水洟(みずばな)」も、のきなみ冬の季語とされている。「インフルエンザ」は古めかしく「流感(流行性感冒)」と呼んだりして、これももちろん「感冒」の傍題である。その予防接種が始まるのは、だいたい晩秋。最近では2019年10月12日版の毎日新聞に「インフルエンザのワクチン接種を受ける男性」として作家の平野啓一郎さんご本人の写真が掲載されていて話題になった。記事によると昨年より流行の兆しが早いため、早期の予防接種が推奨されているようだ。予防接種とだけ言うと、いろんな病気に対するものがあるけれど、俳句のなかで季語として使うならインフルエンザワクチンに限りたい。
 予防接種をしなくてもインフルエンザにかからない人もいれば、してもかかる人もいて、素人考えで簡単なことは言えないのだが、私は予防接種を受けていなくてインフルエンザにかかり、イベント仕事に登壇できなかったことがある。それだけならまだしも、仕事先が実家のある松山で、インフルエンザではないかと気付いたのが飛行機に乗ってからだったから、かなり大ごとになってしまった。たしかに後から考えれば、京急線のホームで倒れそうになったり、保安検査場を通過してからの記憶がなかったりしたから、なぜ家を出るときに気づかなかったのが不思議である。松山空港に迎えに来てくれた親にそのまま近所の病院に連れて行ってもらい、早々に陽性反応が出たので、どうにか翌日仕事ができるようにとタミフルを打ち点滴もしてもらった。が、主催者側に話したら即出演停止。まぁ、薬局と化粧品会社のコラボ企画だったので、そんな美容や健康に気を遣っている人たちが来るイベントで、登壇者にインフルエンザウイルスを振りまいてもらったらたまったものではないだろう。仕方がないので実家で待機となり、電話にマイクをつないでもらって、ベッドの上でパジャマのまま、会場のみなさんに俳句のつくり方をレクチャーするという、かなりイレギュラーなことになった。
 小心者なのに人前に出て話したりする可能性のある職業の人は、インフルエンザの予防接種は受けておくといいかもしれない。なぜなら、予防接種を受けたのにインフルエンザにかかったのと、受けてなくてかかったのでは、申し訳なさの質に違いが出るからだ。今年の冬は多くの人の前で話す仕事の予定はないが、予防接種はそろそろ予約しておこう。

〈例句〉
理解可能な痛さの予防接種かな  佐藤文香
インフルエンザワクチンといふ透くるもの
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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