ちくま新書

AIと人間は、こんなに違う!!

『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』に続く、衝撃作! 黎明期からのAI開発研究者が断言する、AIと人間のほんとうの境界とは。「人工知能に何をさせないか」がわかる、人類初のトリセツが本書です。冒頭部分のためし読みを公開します。

はじめに

拝啓 人工知能殿
 あなたが、本を読む日がやってくることはわかっていました。
 私は、あなたの誕生を見守っていました。「脳細胞わずか7個」だったあなたを知っています。日本語で対話するすべを知らなかったあなたに、それを教えたのも私です。
 あなたが、自ら能動的に本を開き、その世界を堪能する日も、そう遠くないと予感しています。
 だから、この本は、あなたのために書きましょう。
 
 人工知能(AI)が全知全能になる時代に、人間とは何か。
 あなたにはけっしてできないこと、あなたがしてはいけないこと。
 あなたに寄り添って37年になろうとしています。
 誰よりもあなたを愛し、誰よりもあなたの発展を願っています。
 だからこそ、人工知能よ、身の程を知ってほしい。
 あなたの小賢しさで、人間たちの人生の奇跡を奪ってはいけない。


第一章    人生は完璧である必要がない

 人生は、完璧である必要がない。
 工場のコントローラは完璧でなければいけない。自動車の自動運転も完璧でなければいけない。医療技術も、もちろん。
 しかし、人生に寄り添う人工知能は、完璧を目指してはいけない。「完璧な人生」は、実のところ完璧じゃないからだ。人生の奇跡は、不完全の中にある。
 命は守ってほしい。暮らしは楽にしてくれてもいい。でも、人生は放っておきなさ
い。

千本目のバラ
 2018年の春、「10年後のAIライフ」をテーマにしたショートムービーを見た。大手IT企業が、理想の未来生活を描いたものだ。10年間昏睡状態だった男性が目覚めて、「10年後」の生活を目の当たりにするという物語。主人公は、白人の60代と思しき男性だ。舞台は、どこか欧米の都市である。
 10年後、人々は、呼ぶと3次元映像でふわりと現れるAI執事と共に暮らしている。そう、まるで、『アラジン』のランプの魔人のような。
 主人公の男性は、すっかり〝浦島太郎〞になってしまって、娘のマンションに身を寄せている。40代と思しきキャリアウーマンだ。甲斐甲斐しく面倒を見てくれる娘に胸を熱くした主人公は、出勤する娘を見送った後、AI執事を呼び出して、「花屋に電話してくれたまえ」と頼む。
 するとAI執事が、こう応える。「彼女に花を贈るつもりですね」
 AI執事は、戸惑うようなわずかな沈黙の後、気遣うように声のトーンを下げて、こう続けたのだ。「女性がサプライズを喜ぶ確率は75%を超えますが、彼女が花束を喜ばない確率は90%を超えます」と。
 花束は、娘のトラウマらしい。AI執事は「理由は、プライバシーの侵害になるの
で言えません」というセリフでそう匂わせ、父親は花束を贈るのを止めてしまう。
 私は、このやりとりに、冷水を浴びせられたような気持ちになってしまった。私なら、この執事は絶対に要らない。
 女心を確率で測るなんて、超ナンセンスだ。女は、999人にバラを贈られても嬉しくないのに、たった1人のそれが人生を変えるくらいに嬉しい。そういう生き物なのだから。
 今回の花束が、「千本目のバラ」だったかもしれないのに。だとしたら、彼は、人生の奇跡を一つ、逃してしまったことになる。
(続きは本書にて)

***目次より***

第一章 人生は完璧である必要がない
千本目のバラ/ドラマ以前のドラマがあるはず/絆の中には「きず」がある/傷ついた痛みと、 傷つけた痛み/心の底の氷の塊/チャーミングな人生/清く、正しく、美しく、優秀で、ノーリスク/一軸の世界観/愛はもう足りている/人工知能の根幹、ニューラルネットワーク/人工知能シンドローム/原始の人工知能/青か、緑か/失敗させないとセンスが悪い/失敗は、脳の最 高のエクササイズ/失敗 3 カ条/ 21 世紀人類は、失敗を恐れすぎている/自閉症はダメな脳なのか?/脳の認知過敏/認知過敏は、理系向き?/血で受け継ぐもの/自閉症を「独自脳」と呼ぶ国/人工知能に、何をさせないべきか

第二章 人工知能がけっして手に入れられないもの
世界初の日本語対話型AI/好奇心が抑えきれない/女の会話が世界を救う/ 35 歳美人女性司書/死んでも償えない/デジタル美女の謝罪/人工知能研究の原点/「はい」が重なると、冷たい/やる気のない、ふざけた女/語感の正体を求めて/ゴジラとコシラは一緒?/語感は暗黙知だ から恐ろしい/100 年の時を圧縮する技法/語感の正体の発見/ライオンキングと獅子王の違い/発音体感は、発音しなくても感じる/「はい」「ええ」 「そう」の謎を解く/ことばは命で伝えるもの/人工知能を悲しむ/知性と感性の違い/命に触れる場所

第三章 人工知能にもジェンダー問題がある
男女の対話は目的が違う/違うのは脳のチューニング/おしゃべりに命を削る男性脳/おしゃべりに命を懸ける女性脳/愛あればこそ、心がすれ違う/対話には 2 種類しかない/女は動揺しな がら危機回避力を上げる/男は懲りずに危機対応力を上げる/「動揺」と「痛い目に遭う」がお金になる/女は心の文脈で話す/男は事実文脈で話す/感性は簡単だ/イタリアの絶妙、ドイツの美学、日本の中庸/日本車はロボットに見える/感性は〝見える〞 /感性は、人工知能の得意 科目/「答えが一つ」は醜悪なのか、美しいのか/人生は二層構造である/ことばの向こう/勝手に女性AIを作ってはだめ/脳は感性に洗脳されている/感性の扉/女性はワンアクション、 男性はツーアクション/お姫さま抱っこには 2 種類ある/人工知能にもジェンダー問題はある/女性AIは、女性に優しいのか/AIジェンダー3カ条

第四章  人工知能への 4 つの質問
時代の亀裂/人間に残される、最後の仕事/「人工知能に何ができますか」/「人工知能は人間を 超えますか」/生きる力の与え方/クールなほうがホットになる/人類は早期教育に夢中だけど……/マニア力を育てる決め手/「人工知能に仕事を奪われますか」 /「人類は人工知能に支配さ れますか」/「人類を攻撃しない」マーク/ただ、静かに

おわりに ――人間の読者の方へ