海をあげる

私の花

 主任の先生にはとめられたけれど、あれからもずっと性教育は続けている。
 「身体の奥には赤ちゃんの素になる卵のお部屋があって、風花は小さいけれど風花の赤ちゃんの卵はもう準備されている」と教えたあとは、娘は何かで大笑いするたびに、「ママ! 風花はいま嬉しくて嬉しくて、風花のおなかのなかで赤ちゃんの卵たちも笑っているよ」と話すようになった。
 お風呂のあとに身体を丸めて鏡を見ながら、「赤ちゃんが出てくる穴はどこ?」と言うので、「ほとんどの赤ちゃんはここの穴から生まれてくるよ」と教えると、「赤ちゃんって小さいのね。シルバニアくらいなのね」と感心していた。「違うよ。赤ちゃんが生まれるときにはここが広がってこんなに大きくなるんだよ、だから赤ちゃんの大きさはこれくらい」と赤ちゃんの頭の大きさと身体の長さを教えると、「ぎゃー」と叫んで、「赤ちゃんが生まれるときには、この穴が広がるっていうのがすごい」と感動していた。
 この前はしくしく泣きながらそばに来て、「風花は赤ちゃん産むの怖いなぁって。だから、ママに産んでもらいたくなった」と言っていた。「それはかなりむつかしいよ」と言うと、「赤ちゃん産むのって痛いんだよ! 産んだあとも痛いんだよ! ママは風花が痛いのにいいんだね!」と怒るので、「痛いのは、お手伝いしてあげると治るよ。風花が赤ちゃんを産んだら、どこにいてもお手伝いに行ってあげるよ」と言うと、「どこにいても?」と聞いたので、「どこにいても、ママは風花のそばにびゅんといくよ。ママが風花のお手伝いをするから、風花は赤ちゃんのお手伝いをしたらいいよ」と言ったら泣きやんだ。
 そのあと、「17歳のときに、風花は女の子の赤ちゃんを産むことにした。名前は顔を見て決めるから今はわからない。ママ、嬉しい?」と話してきたので、「ママは嬉しいよ。でも、ひとりで赤ちゃんは産めないよ。男のひとの持っている赤ちゃんの素も使うのよ。あと女の子とか男の子とかは、風花が決めることはできないよ」と教えると、気難しい顔をして、「風花はもうちょっと考える」と言っていた。

 沖縄で初めて開催された性暴力に抗議するフラワーデモには、娘も連れて参加した。
 みんながなぜ、ここに集まっているのかは娘にはまだ話してない。前に立って大事な話を教えてくれるひとがいるから、だから風花も静かにしてねと話している。
 フラワーデモの会場近くで、調査で会っている女性のひとりとお茶をしながら話しているときに、「県庁前でフラワーデモをしていて、私も行っているよ」と言ったら、「私もいつか行きたいなあ。ヤフーニュースを見て、沖縄でもあるんだなあって思ってた」と話していた。
 「行きたいと思うときが来たら、一緒に行こうか」と言うと、「前に立って話すことはできないけれど、みんなの話を聞いてみたい」と話していた。その女性は小さなころに、性暴力の被害を受けた。
 話のひとつひとつを聞きながら、私は私の受けた被害のことも考える。この国で女性として生きていくことは厳しくて、口をあけたままぼんやりして、ただただ涙を流して聞いている。
 あたりに咲く花を両耳につけて、私の娘はくるくるくるくるそこで回る。時間に追われながらそこに向かう私は花を持たない。あなたが私の花だと娘を見る。