加納 Aマッソ

第21回「メリー!!!」

 知人が夜中に海外ドラマ「ゴシップガール」を観て、仕事で溜まっているストレスを発散していると聞いた。とにかく観てくれというので、よほど痛快でスカッとする作品かと思いきや、ドロドロの恋愛ものだったので驚いた。彼女は嫌なことを吹き飛ばすのではなく、まるで胃液で食物を溶かすかのように、ドキドキ感から分泌されたアドレナリンでストレスを包み込み、ゆっくりと融解させていっているのだろう。登場人物たちのお決まりの三角関係が勃発する時、彼女のストレスがとろとろと溶けていき、次第に輪郭が頼りなくなっていく様子を想像する。次の日にはまた、溶かされるのを心待ちにしたストレスご一行様が、ひとかたまりになってやってくるのだ。彼女にはドラマの続編よりも長期休暇をあげたいものである。
 それはそうと、主人公の彼氏の名前がダン・ハンフリーというのが気になった。ハンフリーといえば、真っ先に浮かぶのはもちろん「カサブランカ」のハンフリー・ボガート。そうか、ハンフリーというのは姓と名のどちらの場合もあるのかと気づく。日本でいうと何だろうか。七瀬? ハンフリーと七瀬ではどうも質感が違ってイメージが湧きにくい。
 調べてみると、姓でも名でも使えるのはハンフリーだけではなかった。モーガン、キャメロン、デイビス、スミス、ジョーンズ……わんさか出てくる。「姓でも名でもパーティー」の始まりだ。会場では、みんな楽しそうに談笑しながら宴を楽しんでいる。空いているテーブルの数をみるかぎり、これからまだまだ人数は増えそうだ。会場の隅で、七瀬が一人淋しそうにソフトドリンクを飲んでいる。入り口で、「ゆうき」が警備員に止められている。どうやら漢字やスペル違いでは参加できないらしい。遅れてきたクーパー、パーカー、カーター、ベイカーのグループが急いでクロークに計7本の伸ばし棒を預けている。気の優しいモリスが、七瀬に話しかける。七瀬は自分を知ってもらいたくて、説明しようとseven…と言ったところで口をつぐむ。七瀬は、「瀬」を訳せない。
 その時、誰かが息を切らして会場に飛び込んできた。
「泉!!」
 七瀬が駆け寄り、二人は嬉しそうにハグを交わす。七瀬はモリスに泉を紹介しようとするが、またもやIzumi means…と言って黙ってしまう。泉は笑って、「泉」とだけ言う。モリスも笑って、「Izumi!」と言う。
 にわかに会場に軽やかなベルの音が鳴り響き、皆が話をやめて壇上を向く。主催者のリーがマイクを手に取り、「メリー!!」と言うと、皆一斉に「クリスマス!!!」とグラスを掲げた。するとリーが「あ、違う違う、会場にいるメリーを呼んだだけ」という趣旨のことを、驚くほどむかつく言い方で言い、全員が最高潮に苛立ったところでゆっくりとスクリーンが降りてきて、ゴシップガールが大音量で流れだし、みんな釘付けになった。
 

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