佐藤文香のネオ歳時記

第33回「仕事納まらず」「箱根駅伝」【冬・新年】

「ダークマター」「ビットコイン」「線状降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・新年 分類・行事】
箱根駅伝

傍題 東京箱根間往復大学駅伝競走 往路優勝 戸塚中継所 鶴見中継所

 箱根駅伝は2020年で第96回を迎える。1月2日は大手町の読売新聞社前から箱根町・芦ノ湖までの往路1〜5区、翌3日は箱根から大手町への復路6〜10区で、往復217.9km。5区が山上りなのは有名だが、区間によって距離や起伏に特色があるため、それに合わせてチーム内で走者を決め、タスキをつなぐ。往路優勝という概念があるのも箱根ならではだろう。最近ではスマートフォンで通過予想時刻や応援ポイントがわかるというサービスもあるようだ。
 てっきりすでに新年の季語だと思っていたら、どうもまだらしい。正式名称が「東京箱根間往復大学駅伝競走」で、長すぎるからだろうか。元日に行われる社会人の大会「ニューイヤー駅伝」も季語でよさそうな気がするが、こちらも歳時記には載っていない。やはり正式名称が「全日本実業団対抗駅伝競走大会」と長いためだろうか。実は略語を嫌う俳人は多いのだ。ちなみに、最長の季語と言われているのは「童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日(ドウテイセイマリアムゲンザイノオンヤドリノイワイビ)」で25音。今数えてみたら「東京箱根間往復大学駅伝競走」も同じ25音なので、略語が嫌いな方はぜひ正式名称で句作してみてほしい。
 我々姉妹が結婚する前は、佐藤家は家族で元日に父の実家に行き、二日三日と過ごすことになっていた。毎年祖父母の家の居間のテレビでは、ちょうど箱根駅伝の中継が流れていたので、かなり小さいころから見ていたと言える。駒澤大学は紫、青山学院大学は薄い緑など、主要な出場校の名前とタスキの色は覚えているし、ある年に話題になった選手なども、聞くと思い出せたりする。祖父も駅伝好きだったのかもしれないが、うちは両親が早稲田卒、叔父が日体大卒なので、毎度肩入れして応援するアテがあるというのも大きかったのだと思う。さらに私も両親と同じ大学に入ったものだから、ここ15年ほど「今年の早稲田は何位か」という観点でテレビを見ている。もちろんトップ争いも面白いし、さらに翌年のシード権を獲得するべく熾烈な争いが行われるのも見ものであるものの、私自身はドキドキ感が苦手なので、今年も早稲田は7位以内で帰ってくると嬉しいな〜、というくらいのゆるい応援である。
 途中で棄権になってしまったり、繰り上げスタートになったりと、つらい場面もあるが、箱根駅伝の選手は皆本当にかっこよくて大好きだ。とくに、もう優勝が決まるというチームの走り終わった選手たちが、アンカーをゴールで待っているときの表情が最高である。嬉しさがにじみ出ないように堪えている監督の顔もかわいい。天気がいいとさらに気持ちよく、テレビで見ていても新年らしさがある。

〈例句〉
箱根駅伝大澤駿を抱くタオル 佐藤文香
白バイの厚さや鶴見中継所
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関連書籍