加納 Aマッソ

第22回「最後に顔にかける布には絶対アイロンあててください」

 部屋の片付けの途中に、写真やら書類やらを見返して手が止まるのは、誰でもよくあるだろう。私も例に漏れず、去年の大掃除では棚の整理を中断して、そのままどかっと腰を下ろしてしまった。デビュー当時から書きためているネタ帳が目に入ったのだ。普段めったに開くことはないが、一度パラパラとめくり始めたら止まらなかった。1冊ずつ遡ってノートを見ていく度に、ため息とも笑いともつかないよくわからない声が洩れる。とにかく、書いてあることが呆れるぐらい変わっていないのだ。
 それが日記であれば、昔の事柄や感情を思い出して胸が熱くなったりするのだろうが、ネタ帳ではそうはいかない。脈絡のない謎の一文や、ビックリマークがつきすぎた奇声など、やる気ばかりをちりばめたアイデアの破片があるだけで、それを読んでもどんなネタだったかさっぱり思い出せない。だが、乱雑に書かれたノートの中で頻繁に見かける単語は、今とほとんど同じだった。驚いたことに、2012年のノートにすでにアイロンが出てきている。「スチームでアイロン」と書いてあった。これは決して日記ではない。普段はシャツの皺なんて放ったらかしだ。
 そう、私はアイロンが面白くて仕方ない。これは口では説明できないが、どういうわけかアイロンがツボなのだ。ノートにはことあるごとにアイロンアイロンと書きまくっている。それはわかっていたが、しかしこれだけ前から言っているとは。なかなか年季のはいった立派なツボのようで誇らしくなったが、少し不安にもなる。私はいつまでアイロンを面白がれるだろう。歳をとると急に穴子や湯葉なんかが美味しいと感じる瞬間がくると聞く。マックのポテトはあまり食べなくなった。怖い。味覚と同じように笑いのツボも変化していって、いつかアイロンと戯れた日々のことを忘れてしまうんじゃないだろうか。そういえば最近ちょっとだけハンガーも気になりだした。やばい。最悪だ。そんなのは私じゃない。死ぬまでアイロンにそばにいてほしい。遺言に、「最後に顔にかける布には絶対アイロンあててください」と書いて、「もっと言うことあったやろ!」と家族が言うのを、先に逝った諸先輩たちと天国から笑いたい。同じように、アドバルーンとも、製鉄所とも、できればずっと一緒に遊んでいたい。

 ちなみに、当時の一過性のツボだったらしいネタの切れ端が、なんとなく自由律俳句のようだったので、ここで少し外の空気を吸わせてあげたい。

 このソックタッチに誓え、とマコちゃん

「粋」の算出は今はいい?
 
 大して破顔することもなくコーヒーゼリーを

 言っておくが、あくまでかわいいのは自分のツボだけである。誰かがもしフライパンで笑っていても、それは絶対に「何がおもろいねん」で一蹴する。
 

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