問いつめられたおじさんの答え

第2回 どうしてみんな、携帯ばっかり見てるの?

担当としては、身に覚えがある回答でした。

 つまり、なんでみんなケータイとかスマホばっかり見てるのか。さっき、テレビとケータイはつながってるって言ったでしょ。それとゲームも。
みんなモニターで見るものは、いつしか自分の見たいものだけになっちゃったわけですよ。テレビを見ない人が増えたのは、単純にその人が見たいものをやらないからでね。おじさんの知り合いの人の4歳になる息子さんは、タブレットでユーチューバーを見せるとおとなしくしてるそうです。それが家に帰ってテレビを見せると、テレビっていつのまにか番組変わるでしょ。今まで見ていたものが勝手に変わってしまうのがイヤらしいんだね。この辺の視聴者としてのわがまま感はハンパないというか、容赦ない。
みんなモニターで見るのは自分の見たいものだけにしたい。ツイッターで気になる人をフォローしたり、見たいチャンネルを登録したり、ブログとかインスタとか、本でも音楽でも漫画でも、自分のお気に入りのサイトやショップとかをグルグル回る。つまり、好きな情報だけを巡るのが情報化社会というわけ。情報なんて人がコピペしてつくったものでしょ。コピペっていうか、データじゃないと安心できないのかな。他人が握ったおにぎりを食べられない人は増えたけど。

 ケータイやスマホから顔を上げてまわりを見てみると、見慣れた自分の家族の顔とか、テーブルの上の飲み口が汚れたマグカップとか、台所のゴチャゴチャした棚とか、カレンダーがかかった壁とかが見える。電車のなかだと向かいに座ったオッサンの顔とか靴とか、その隣のオバサンの顔とかバッグとか、そのうしろになんとかいう商店街が見え隠れしている。信号待ちのときは、寒々とした空や、ただ黒っぽくて名前も知らない木や、誰が働いているのかもわからないビルの窓が見える。その窓の奥で女の人が立ってブラインドを下ろしたりしてる。
 それがケータイやスマホの自分の趣味で集めた情報よりもおもしろいかどうかだと思うね。私はね、情報なんかよりそっちの方がおもしろいと思うんですよ。そっちに飽きると結局スマホ開いたりするけど。
 病院の待ち時間もけっこう好きなんです。待合室とかにいる人や、行き交う看護師や、掲示板のナンバーとか、窓から差し込む光でできた壁の影とか、そのあとまた掲示板の番号を確認したり、ドアのところにかかっている担当の先生の名札を見たり。
 いつもカバンには読む物が入ってるんだけど、そういう時間に本を読んだりはしない。自分のまわりを見ているほうが楽しい。少し飽きると結局スマホ開くんだけど。

 でも、スマホも飽きるんです。ゲームとかやってる人は飽きないのかもしれないけど、おじさんはもうゲームとかやらないんで。昔はゲーム狂いだったって言ったでしょ。武勇伝じゃないけど、毎日毎日6時間とか、土曜日なんかは8時間とかやってました。
 ウチのゲーム環境って、テレビとかモニターじゃなくて、プロジェクターなんですね。だから部屋のなかはいつも暗い。その暗いなかでゲームやるときは、タバコもバカバカ吸ってた。そんな健康に悪いことを5、6年続けてたら、ある朝、軽い脳梗塞を起こしたんですね。それで入院になって、タバコもやめたし、ゲームもやめた。
 ケータイとかスマホも、タバコとかゲームと同じで、癖になってるからやめられないんでしょう。癖ってやめるよりやめない方が楽なんでね、当たり前だけど。スマホとか見てしまうほうが楽で、見ないととても苦しい。
 誰もいまさら言わないけど、携帯電話ブームってまだ続いてるんじゃないのかなぁ。ブームなんでね、仕方ないです。だけどそのうちブームも終わるし、飽きると思います。人はなんでも飽きちゃうんで。