高橋 久美子

第21回
DJ久保田

絵本翻訳でも注目を集める作家・作詞家の高橋久美子さんの連載コーナー。彼女にしか紡ぐことのできない言葉たちで、日々の生活を鮮やかにエッセイや小説に仕立てます。〈作家・高橋久美子〉の新しいスタートを告げる連載は毎月第4水曜日の更新になります。最新刊は待望の詩画集「今夜 凶暴だから わたし」(ミシマ社)。

「それでは次のお便りいってみましょー。神奈川県の男性、九歳……お! ラジオネーム蟻の王様くんから久々のお便りですよ。その後、ダンゴムシどうなったんでしょうね。
『久保田さんこんにちは』はい、こんにちは!
『今、僕は学校がおやすみで外へもあまり出られないんですが、久保ラジが毎日聴けてちょっとラッキーです。母さんは毎日お仕事に行ってて、弟は児童館へ行っているので昼間は毎日のんびりラジオを聴いています』そっかそっかー。ありがとう。毎日こんなおっちゃんのラジオ聴いてくれてるんだねえ。相変わらず渋専! 涙出てきたわ。ええと、それから……
『それから、前にも書いたけど、僕は毎日蟻に砂糖をあげています』そうそう、それだよそれ。その続きがみんな聴きたかったよねえ。
『前はおばあちゃんから預かった盆栽の根っこがダンゴムシにやられて枯れそうでしたが最近は蟻がやっつけてくれるからか、すっかり元気になってきました。本当に良かったです』おお、ダンゴムシ撃退できたんだねえ、良かったじゃん! 毎日蟻に餌付けしてたんだ。あっははは。蟻の王様だもんなあ、すげーなあ。お、それからなになに、『P.S. 僕の得意料理は野菜炒めだけでしたが、最近は魚を捌けるようになって、三枚に下してムニエルも作れるようになりました。魚嫌いの弟でも僕のムニエルは食べられるよ。今度久保田さんにも食べてもらいたいです』おおー、蟻の王様、やるなあ。小三で三枚おろしだよ。俺も習いたいわ。これ天才だろー。蟻の王様、お便りありがとう。君の成長を僕も一緒に見られているようで本当に嬉しいよ。またお便り待ってるぞ!
さあて、魚の三枚おろしと言えばこの人! CMの後は、料理研究家、しかもただの料理研究家じゃないですよ。美人すぎる料理研究家サトマリさんをゲストにお迎えします。お楽しみに!」

 ――はーい、CM入ります。サトマリさんいらっしゃいました!

「どうもーサトマリです~。よろしくお願いします~」
「ご無沙汰してます。久保田です。あれ、いつぶりだろう。そっか何年前だっけ? もう五年とか前かな。ほら新宿のライブハウスでお会いしましたよね。メタルバンドのライブ! ええー。もっと派手な服着てましたよねえ。なんだか随分イメチェンされたんじゃないですか~」
「あれ~覚えてないなあ。やだ~久保田さん夢の中で会ったんじゃないですか? だって私、メタル聴いたこともないですもん」
「え……? だってそんとき外で話したじゃん。最高だったねって」
「やだ、こわーい。絶対それ人違いですよー。そもそも私ライブハウスって生まれて一回も行ったことないもん。大丈夫ですぅ? お祓いとかときどき行った方がいいですよ。こういう仕事って結構憑いてるって話だからマジで気をつけた方がいいです」
「はぁ……」
「ってことで、ライブハウスの話はおしまい! 全部忘れるおまじないかけてあげます。えーい!」

 ――三十秒でCMあけますー。よろしくお願いします

〈♪ ジュボボボーン。久保ラジラージララッル〉
「さて、今日のゲストは美人すぎる料理研究家として話題沸騰中の、サトマリさんにお越しいただいています。よろしくお願いしますー」
「よろしくお願いします~」
「いやあ、真っ白の、そういうのチュニックっていうんですか? 着てらっしゃって、清楚ですねー。スタジオが一気にいい香りに包まれてますけども。サトマリさんの今朝のインスタの朝食がね。もう、ホテルの朝食ですよこれ。サラダが緑だけじゃないの。赤に黄色にこれパプリカですよねえ。パプリカ使ったことって俺今まで一度もないかも! 色合いがすごいんですよ。あと、人参の、何これ千切りみたいな」
「あ、ラペですね。酢漬けのようなものなんです~」
「ラペ? へー。足の速そうな動物の名前みたいですな。パンもこれ手作りなんですか? ハイジのパンみたいにふわっふわですけど」
「はい~。毎朝、焼いてますね~」
「ええー。もう朝からどうしたらこんな豪勢なことになるんでしょう。時間かかりませんか?」
「いえ、ちゃちゃっとやれば十分ですよ。慣れちゃえば早いかな」
「今、小学三年の子が魚の三枚下しできるってお便りあったんですけども」
「ええ~。それは、かなりすご~い」
「何か、魚を捌くときのコツみたいなものってありますか?」
「そうですね……コツ、コツですか。うーん。背骨に沿って包丁を引いていくことでしょうかね。ぎこぎこしないことですよね。すーっと、力を入れずにこう手前に引いていく」
「おお、今ジェスチャーしてますけど。全くわかりません。あっははは」
「まあ、慣れたら誰でもできるようになりますよ~」
「さあ、そんなサトマリさんですが、昨年出されたライフスタイル本『サトマリの里』が若い女性に大人気でなんと十万部突破ということで。(パチパチパチー)すごいですねえ。早速お便りも来ています。東京都にお住まいの百合子さん三十代の方から。
『今日は、サトマリが来るということで正座して待ってましたー。私はサトマリがとにかく大好きで、サトマリの本は全部読んで、最近は自分で料理をするようになりました。それでも、仕事なんかで腹がたったり自分に余裕がなくなると、ファーストフードでバカ食いしちゃったり、コンビニで大量のスナック菓子を買いこんで食べてしまいます。後ですっごい自己嫌悪になっちゃうんですけどね。サトマリはそんな衝動食いすることはありませんか?』
ということなんですけれど、いかがですか? マックなんかに行くこともそりゃありますよねえ?」
「それがー、全くないんですよねえ。もう体がそういうもの欲しなくなってるっていうか~。まあ、正常になったってことなのかな。もう十年以上ファーストフードとコンビニには行ってないんですよね~。ふふっ」
「ええ! コンビニもですか? うそ、それで生活できます? 信じられないです。俺、毎日行ってますよ。どうやったらそんな聖人みたいな生活できますか?」
「うーん。やっぱり~手作りの美味しさを知ってしまうと、そういうものを欲さなくなるんですかね~。体って正直ですからね~。久保田さんにも食べ物の本当の味を知ってほしいです。この『サトマリの里』には、時短で作れちゃう料理レシピが沢山載ってるんで、是非試してみてください」
「ほら、ちゃんと宣伝もして。この子しっかりしてますよ。あ、ホントこの本の料理おいしそう。大根とジャガイモと人参の皮のきんぴら。ああ、皮って捨てちゃいますもんねえ。そういうのを取っておいてきんぴらにするんだ。すごい」
「そうなんですー。逆に皮の方が固くて食感がいいんですよ。ほんとそれなんかは五分でできちゃいますね」
「俺も独身だから体気をつけないとなあ。百合子さん、俺たち修行がまだまだ足りないようですね。きんぴらを大量に作ってどか食いするってのはどうでしょうね。そうすると、皮が大量にいるのか。中身は何にすっかな。ではここで一曲、先程の蟻の王様くんからのリクエストがきていました。フーリンでパプリカ」

 ――次、お悩み相談のコーナーいきます。コロナの影響ですかね。今日お便りがかなり多くて予め十通までセレクトさせていただきました。この辺いかがでしょう?
「ふんふん。これ面白いじゃん。季節的にもいいよね。
あ、ちょっと待って、こっち……これにしようか。何これ、ふははは! やばいねこれ」
 ――了解しました。では、こちらで。曲明け三十秒前

〈♪ ジュボボボーン。久保ラジラージララッル〉
「では続いてのコーナーは、『教えて久保っち?!』
はい! 罪深き子羊のお悩みをざっくりとクッキーに混ぜてこんがり焼き上げます。『教えて久保っち』のコーナー。引き続きサトマリさんにもご一緒してもらおうと思います。よろしくお願いします。
今日のお悩み羊さんは、ラジオネーム、ロンドンさん。『久保田さんこんにちは。先日、ショッピングモールでばったり元カノに会いました』おおー。きましたー! 元カノにバッタリ案件!
『彼女は大学時代よりも都会的で綺麗になっていて、僕はまた恋をしてしまいました。その三日後のお盆に一緒に食事に行き、帰り道告白したら、答えはOK』ええー。すごいな、展開早いねえ。
『ただ、彼女はこの春からコートジボワールに転勤になるというのです。実は、大学時代も僕がロンドンに留学したことにより遠距離恋愛になり別れてしまったという過去があり……。久保田さん、この恋、進めるべきかやめるべきか、どうしたらいいでしょうか?』ええー! コートジボワールってアフリカの? あのけっこうサッカーが強い国だよねえ。しかも大学時代もロンドンとの遠恋で別れてるんでしょう? 遠恋に向いてない二人の気がするけど、でも一度失敗してるからこそ今度は上手くいくかもしんないしねえ。大人になって再会したわけだから。それに昔一度付き合ってたってことはお互いの性格とかダメなとこも多少は分かってるからさ、離れてても大丈夫な気もするしねえ。うーん、アフリカかー。遠いぜー。俺、一度仕事でガーナ行ったけどね。三十五時間かかったよ。会いに行ける? 俺だったらどうすっかなあ。俺寂しがりやだから無理かもなあ。やめるかも。ロンドン、ごめーん。ちょっとここはサトマリさんに聞こうぜ。どうっすか? サトマリさん。女心としては?」
「うーん。なんかー彼女って本当にコートジボワールに行くんですかねえ?」
「へ? それは? どういうこと?」
「いや、女って一回別れた男とまた付き合うとか、そもそもない気がするんですよ~。だから~、断るのも面倒くさいし、ありえない国言っとけ~みたいな。ふふふー」
「おいおい、可愛い顔して怖いこと言うねー」
「ええ? そうですか~? だって~、コートジボワールに女性一人で転勤ってありえなくないですか~。彼女さん何のお仕事されてるんだろう。なんていうか~、ロンドンから出直して来い的なことだったんじゃないですかー? 前別れた理由もきっと距離のことだったんだと思うんですけど、本当に距離だけかなあ」
「え? それはもっと他にも……」
「距離以前に心の距離が三十五時間以上離れてたんじゃないかなあ~。なんて~。ふふふー。そもそもね、ばったり再会して、そんな短期間で告白するとかあります? そっちのが怖くないですか?」
「そ、そんなことないよなあ。男は何度だって初めてみたいに胸がキュンとするんだよなあ。わかるよ、わかる、俺はロンドンの気持ち。ごめん全然まとまんなかった。余計にとっちらかったな。けどさ、ロンドンの本当の気持ちをもう一度まずはよく自分の中で整理して彼女に伝えてみた方がいいんじゃないのかなって思うぞ。頑張れよー!!」

 ――CM入りました。いやあ、サトマリさんの的確なご意見、しびれましたよ。僕も同じような経験あるから震えました。本日はお忙しい中ありがとうございました。では、こちらに。お見送りいたします

「じゃ、ありがとうございましたー。失礼しまーす。あ、そだ! 久保田さん写真撮りましょー」
「お、いいんすか? メタルとか聴いてる男っすよ」
「でも何気に久保田さんインスタフォロワー二十万超えてますよねえ? はい、じゃあこっちねー」
「こんなスタッフいるのに自撮り? 目でか!」
「やだなあ。おじさ~ん。じゃ、またー。失礼しまーす」
「はい、あざっした!」

 ――CMあけ三十秒前です

〈♪ ジュボボボーン。久保ラジラージララッル〉
「久保田真司の久保ラジ、残すところ五分となりました。スタジオからは青空が広がっていますけども、お花見も今年はダメなんでしょ。厳しいよねえ。そらもう百合子さんもストレス溜まってバカ食いしますよ。俺はね、こたつに入ってピノ食べるのが冬の至福だったの。そろそろこたつ片付けないとなあって思うんだけど夜になるとまだちょっと寒くて入っちゃうんですよね。やっぱこたつは人類最大の発明ですよ。あとね、みなさんの地域では灯油売るトラックが巡回してません? 俺、昨日また買っちゃった。もうすぐ四月だってのに。あははは! あれ助かるんですよ。俺自転車しかないんで、くっそ重いからねえ。ストーブの上でスルメ焼くの好きなんですよね。いや、もう何の話だって。サトマリはとっとと帰って夕ご飯作ってんすかね。食いてー。サトマリの手料理食いてー。いや、でもやっぱり蟻の王様のムニエルっしょ。今日は何をおいても君のムニエルがMVPだよな。お母さん帰ってくるまでに今日は何のご飯作るんだろうね。宿題もちゃんとやるんだぞ。では、今日はこの辺で。お相手は久保田真司でした。また明日、同じ時間に会いましょう」

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