PR誌「ちくま」特別寄稿エッセイ

私の出し物
出るもの拒まず・1

PR誌「ちくま」5月号より福永信さんのエッセイを掲載します。

 これまで面白い小説のアイデアばかり出てきたがそれが出てこなくなった。男というものはどんどん出さねばならないしまた出るものだと思ってやってきたが寿命だろうか。面白い作業だったので寂しいが仕方がない。しかし代わりに出始めたものがありそれは書籍の編集のアイデアと展覧会のアイデアである。理由はわからないが数年前から出てくるようになった。
 今もちょうど秋に向けてあるイラストレーター・漫画家さんの本の編集をしているところである。これが面白い。その人の初のベスト本なので原稿が面白いのは当たり前であるが私の編集力によって日々さらに面白くなっていっている。面白さに上限というものはない。そんな真実と、改めて向き合っている今日この頃である。本はどんどん出るものだし出すべきものである。二十年を超える彼のキャリアゆえ作品数は膨大だ。限られたスペースに収めるには斬新な構成のアイデアが必要である。ただ選べばいいってものではなくクリエイティブな編集能力が求められるのである。普通なら困難な仕事であるはずだが私には妙案がポンポン浮かぶ。才能があるとしか言いようがない。異なる媒体に描かれたバラエティに富んだ作品群が、一冊の中で見事な調和を示す。よく編集者が「自分が作った本」的な、ちょこざいな発言をするのを見ては微笑していた私であるが、その気持ちが今はすごくわかる。素人辣腕編集者としてアイデアが出てこなくなるまで私は活躍するだろう。
 もうひとつの「どんどん出てくる」は、展覧会のアイデアである。今もいくつか準備中であるが昨年から始まったのは「絵本原画ニャー! 猫が歩く絵本の世界」展である。猫の出てくる絵本原画展であることが一目瞭然な我ながら見事な題名であるがこういうナイスなフレーズがどんどん出てくる。出品作の選択は展覧会の企画会社がやった(これまでよく知らなかったがそういう会社があるのである。美術館は自主企画の他、企画会社から展覧会の企画を買ったりするわけだ)。私が提案した作家もいるが、もっぱら「この作家は出さない方がいい」という助言に徹した。当然会社としては有名な作家を出したがる。しかし出さないことで展示に緊張感が出ることがある。他方、知られざる孤高の画家や有望な新人の存在が観客のテンションを上げる、そういう場合がある。有名だからと言ってどんどん出すというのは下品な考え方だ。大御所でも例えば馬場のぼるは絶妙な脇役感を持っている(彼はテレビドラマでほんとに脇役を演じたこともある)。『11ぴきのねこ』で知られるビッグネームだが、その絵は決して他の作家の邪魔をしない。でも、いてくれないとなんか寂しい、そんな存在感を醸し出す。ともかく私が今回やったのは出品作家選択の助言と、展示構成、作品解説など言葉まわりの全てである。これらの作業は全部面白かったしアイデアもどんどん出てくる。展覧会の冒頭によく「ごあいさつ」が掲出されているがあれも初めて書いた。今、高松市美術館に巡回し開催中のはずだがこの度のCOVID-19でどうなるかわからない。美術館は細心の注意を払ってくれているが、ウイルスには地球外へ出て行ってもらいたい。

PR誌「ちくま」5月号

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