弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第二回 命綱を失った障害者家庭

障害者と就労崩壊(1)

五月中旬、築五十年以上経つ団地の2DKで、七十代の母親と四十代の息子が栄養失調に近い状態で発見された。最初に姿を見つけたのは障害者グループホームの職員。緊急事態宣言の陰で、親子ふたりはなぜ孤立に追い込まれていったのか――。障害者本人の陰に隠れ、その家族の抱える問題が取り上げられることはほとんどありません。コロナ禍において当事者だけではなく家族も孤立しないような状況を作っていくには、どういった支援が必要なのでしょうか。「就労支援」の視点から迫ります。

 第二回 障害者と就労崩壊(1)

 日本には、知的障害や精神障害の診断を受けた人が合わせて約五百万人いるとされている(併発している人も含む)。
 障害者といっても、軽度から重度まで様々だ。重度の人であれば、自宅や医療施設で介護等を受けることになるが、軽~中度の人の場合は、一日中家に引きこもっていると、ストレスは溜まる一方だし、家族を含めた周囲に負担をかけることもある。
 そのため、多くの障害者たちは生きづらさを抱えながらも、社会で働く道を選ぼうとする。この時に重要になってくるのが障害者の就労支援だ。
 就労支援は、「就労移行支援」と「就労継続支援」に大別できる。前者は障害の程度が軽い人に対して一般企業で働くのに必要なスキルを身につけさせたり、ストレス耐性を高めるトレーニングをしたりするものだ。後者は、一般就労が難しい障害者に対して、サポートを受けながら働くことのできる場を提供するものである。

 今回紹介する「しごとも」は、後者の就労継続支援(障害者と雇用契約を結ぶ「就労継続支援A型」)の事業所だ。東京都世田谷区にあり、二十代から七十代までの精神障害者を中心に三十六名と雇用関係を持ち、仕事の提供から支援までを行ってきた。業務内容は主に、宅配のDMの仕分けや学童など公共施設での清掃業務だ。

 代表の臼井崇晃は、障害者の就労について次のように述べる。
「職場は、利用者(障害者)さんにとって日々友達などに会ってストレスを発散したり、生活スタイルを維持したりするために必要なものです。ここに来るからこそ、家に引きこもらずに済むということがあります。
 また、私たち事業所のスタッフには、彼らを見守り、必要な時にはケアをする役割があります。日々の仕事の中で彼らと接することで体調や心の変化に向き合うのです。彼らの中には表現が苦手な人もいます。だからこそ、毎日顔を合わせることで、目の動き、表情、しゃべり方などの微妙な違いを見抜いて、何かあるなと感じたら、そのつどケアしていくのです」

 たとえば、精神障害の一つである双極性障害(躁うつ病)の人は、体調の波が大きく、自分では意図していないところで心のバランスが崩れてしまうことがある。スタッフの役割は、日々の仕事を通じて顔を合わせることによって、その変化をいち早く見抜いてストレスを軽減させたり、支援につなげたりすることなのだ。
 新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしたのは、そうしたセーフティーネットとしての労働環境の激変だった。緊急事態宣言に伴う休業要請を受けて、臼井の事業所も活動を停止し、利用者には自宅待機を命じることになった。特に清掃業は学童が閉鎖されたことによって、やりたくてもできない状況に陥っていた。
 利用者たちは日々の仕事を奪われたことで、家の中だけの生活を強いられることになった。利用者のうち二名はグループホームで暮らしているが、他は一人暮らしか、親との同居である。負担は自ずと家族や本人にのしかかる。

 臼井はこの生活の懸念についてこう述べる。
「利用者さんたちが事業所で働けなくなるというのは、生活の支えを失うようなものなんです。メディアが不安なニュースばかり流す中で、一人で部屋にこもって悶々としていれば思考が良くない方向へいくことも考えられます。生活リズムが崩れて、昼夜逆転になって、家族とうまくいかなくなって、体調が悪化する……。そういうことが起こりうるのです」
 障害者にとって仕事とは、日々のバランスをとるために欠かせない命綱のようなものだ。それがなくなるというのは、収入を失う以上に、生きている土台を壊されることを意味している。

 では、どのような形で彼らの生活は壊れてしまうのか。関西に暮らす家族のケースを紹介したい。