弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第六回 居場所を失った子どもたち

長引く在宅勤務や外出自粛によって、家庭内の問題が外部から見えにくくなっています。これまでは学校と児童相談所が連携して虐待の予防や発見につとめていましたが、支援窓口が縮小されているさなかでは、子どもへの暴力や面前DVなどのリスクも上昇。目が届きにくくなってしまった親子とつながろうと、工夫して見守りを続けている児童相談所を取材しました。

  第六回 虐待現場(2)

 新型コロナウイルスの感染拡大は、学校などの教育機関を休止に追いやったばかりか、様々な職場に対して活動の規制を求めることになった。今回は、これが児童虐待の現場にどう影響を及ぼしたのかについて見ていきたい。
 江戸川区児童相談所の上坂かおりは、虐待予防対策の問題を次のように述べる。
「児童相談所は地域の保育園、幼稚園、小学校などと連携して虐待の予防や発見に努めています。親の方は児相とのつながりをよく思わないことがありますし、児相がすべての子供をチェックすることはできません。そこで学校の教員などが日常的に子供に接する中で、異変を見つけて通告したり、問題のある家庭をチェックしたりしているのです。今回のコロナの騒動で困ったのは、その学校が休校になったことで連携がはかれなくなったことです」
 未就学児や小学生が虐待を受けた場合、保育園、幼稚園、小学校がそれを見つけるケースが少なくない。毎日接していることで微妙な変化に気がつけるだけでなく、親とのやり取りの中で家庭内の様子を伺うこともできる。
 また、一時保護した子供を家庭に帰した後でも、学校との連携は欠かせない。児童相談所は学校側に虐待があった事実をつたえ、親子関係を観察してもらう。時には、児童相談所の職員が学校に出向いていって、家庭訪問の同意が得られない子供に直接会って近状を訊くこともある。
 学校が休みになったことは、児童相談所にしてみれば、そうした連携が困難になったことを意味する。職員たちにとって、それは子供たちを救う主要な手立てを失うようなものだった。
 学校以外の自治体が運営する施設についても似たようなことが当てはまる。江戸川区には「共育プラザ」という施設が七カ所あり、ビリヤードのようなゲームから、スポーツジムや球技場、それにバンド活動を行える音楽スタジオまでを完備し、主に中高生が自由に過ごせる場を提供している。
 家庭環境が悪い子供や、学校や社会に居心地の悪さを感じている子供の中には、ここを居場所と思って集まってくる者も少なくない。施設の職員もそれを理解していて、訪れる子供たちと積極的に触れ合い、時には悩み事の解決に動くこともある。
 だが、この施設も学校同様に休館に追い込まれた。そのため、施設は見守りの役割を失い、毎日集まっていた中高生たちにとっても居場所を失うことになった。
 自治体の運営ではないが、NPO団体などが運営する子供食堂や無料学習塾などにおいても同様のことが言えるだろう。こうした施設は食事を出したり、勉強を教えたりするのとは別に、子供の悩みの解消や、親の相談窓口という役割を持っている。ここが運営を休止すれば、子供たちに何か問題が起きた時の発見や介入が大幅に遅れる可能性は否めない。
 同児童相談所で児童福祉司として子供たちと接している白田有香里は言う。
「子供たちの中には学校では何も言わないのに、共育プラザみたいなところに来て初めて性的虐待を受けていたことを告白したりする子もいるんです。どういう場所が心の支えになっているのか、どこで心を開くのかというのは、子供によってぜんぜん違う。だからいろんな施設が同時に開いていなければならないのですが、ほとんどが休みになってしまった。一部の子供たちにとって、それがどれほどのストレスなのかはかり知れません」
 子供の中には、虐待をする親を前にしただけで緊張と恐怖で全身が凍り付いて動かなくなってしまう子もいるという。そんな子供たちが学校や上記のような施設といった拠り所を失えば、どれだけの心に負担が圧し掛かるだろうか。

 そんな中でも児童相談所は決して運営を止めてはならない機関だ。だが、緊急事態宣言によって様々な制約を受けたという。
 上坂の言葉である。
「児相は〝最後の砦〟なので休むことはありませんが、動き自体は制限されています。在宅勤務や勤務時間の短縮によって、家庭訪問が思うようにできなかったりする。ようやく家庭訪問ができても、親から『コロナが怖いから来ないでくれ』と断られてしまうこともあります」
 江戸川児童相談所によれば、家庭訪問を必要とする家庭だけで約千五百件あるという。ただでさえ人員が不足しているのに、勤務制限や外出制限があれば、思うようにいかないのは当然だ。
「それでも、私たちとしてはできることをしていかなければなりません。要対協(要保護児童対策地域協議会)が持っている名簿をもとに電話を掛けて近状を聞いたり、児相のLINE・IDのビデオ通話で各家庭とつながって様子を見せてもらったりしています。ビデオ通話で見られれば、電話やメールよりは家庭内の状況を把握することはできますからね」
 比較的若い世代の親たちからすると、LINEでのやりとりは敷居が下がるので了解してくれる人も多いそうだ。
 ちなみに、学校との提携に関しても、児童相談所が東京都の所管だった時より、区に変わった後の方がやりやすくなったという。都の所管だった時は、学校への連絡も逐一教育委員会に連絡してから学校と連携を取らなければならなかったが、今は直接やりとりができるそうだ。
 LINEのビデオ通話に関しても、これまでは都に上げて許可を得なければならなかったが、区だと手短にそれができる。地域に根差して迅速に対応するという意味では、区の指示系統に一本化するというのは有効なのだ。

 次回は、緊急事態宣言が解除された今、子供たちが直面しつつある問題について述べたい。

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