ちくま新書

物語もつくらず絵も描かないまんが制作

『まんが訳 酒呑童子絵巻』解説&レポートまんが

ちくま新書『まんが訳 酒呑童子絵巻』は、文字通り、室町時代から読みつがれてきた絵巻物をまんがにするという異色の新書です。
とはいえ、「絵巻物をまんがにする」とはどういうことなのか? 実際にはどんな作業だったのか? 書籍にも収録された山本忠宏氏による解説を、実際にまんが化する作業を担当した鳩ノマメさんのレポートまんがと一緒にお楽しみください。

†まんがにおける紙面構成原理

 図4は、まんがの紙面構成原理の概念図である。必ずしもこのようにコマ割りしなければならないということではなく、あくまで基本のモデルであって正解ではない。この原理を踏まえつつ、物語上の展開によって変更したりあえて原理を無視したりもする。

図4 まんがの紙面構成原理の概念図

 雑誌や単行本などの本という印刷メディアによって受容され、速読可能な読みやすさに最適化してきたのがまんがの紙面構成である。まんがには様々なジャンルや受容の様態があるため、必ずしもこの原理に沿ったものだけではないし、沿わないものがダメだということではない。あくまで一つの指針であるが、絵巻からまんがへの変換に関しては、この原理を踏まえることで、絵と言葉の組み合わせにおけるシステムの変換が可能になる。
 この原理の肝は、見開き2ページを単位として構成される「めくり→つかみ」と「中コマ→大コマ」というつながりだ。「期待、予感とともにページをめくって→つかみ」、「中コマで前振りして→大コマで見せる」というように作劇上の「収縮と拡大」を繰り返していく(「緩急」と呼んでもいい)。
 大コマ、中コマとしているが、必ずしも大きなコマ、中くらいのコマというサイズの問題ではなく、見開き2ページの左ページに読者の注意をひく展開を配置するという意味である。左ページに注意を向けるのは、ページをめくると左ページが先に視野に入ることによる「先の展開が見えつつも、右ページの最初のコマから読んでいく」という注意の宙吊りを伴う読書経験を利用し、注意を先に向けておくことで読み進める推進力を保持するためである。つまり、右ページ最初のコマからの連鎖を考えるとともに、見開き単位で紙面構成を考えるという二つのことを同時に行っているのである。
 また、ページをめくる時や本のノドを越える時にまんがにおいては下から上へ視点を上げざるを得なくなる。この二つの転換点を上手く活用するために、右記のつながりを意識しながらコマの構成を行う必要がある。また、転換点には読者の関心を持続させるために、描かれる場面における演出上の特徴的な契機や場面転換を配置することが多い。
 具体的に見てみよう。図5は『土蜘蛛草子』【下】におけるクライマックスの見開きである。詞書を読みながら絵と言葉の組み合わせを仮に決める作業の中で、この次のページでは土蜘蛛を倒した全体像を大きい見開きのコマで見せると決めていた(本編184〜187ページ参照)。そこから逆算してこの見開きの構成を決めていった。

図5『土蜘蛛草子』184、185ページ

 左ページには頼光のアップと台詞を「大コマ」、土蜘蛛のはねられた首を小さなコマで「めくり」に配置し、その間には土蜘蛛が死んで事切れ、動かなくなった余韻として足の部分でつなぐように配置した。
 前ページの「めくり」(本編183ページ参照)に頼光が剣を抜いて首を切る直前のコマを配置することで、右ページには「つかみ」として頼光が土蜘蛛の首を切る絵に「首をはねた」という言葉を組み合わせた。この頼光が首を切る絵は一つしかなく、次ページの見開きで大きく使用するため、なるべく同じような絵にならないように調整した。「中コマ」は首をはねた後に渡辺綱が土蜘蛛の腹を開く詞書があるので、「止めを刺した頼光が、綱が腹を開くところを見ているコマ」と想定しながら、「大コマ」である頼光のアップおよび視線につなぐように配置した。
 ここまで仮に決めて、コマ割り自体は前後のページのコマ割りとの関係とクライマックスにおける主人公を大きく配置することなどを考慮しながら微調整も加えて「アナログ→デジタルネーム」へ移行する。
 このように紙面構成原理を踏まえた上で、まんが訳を行った。

 
 

†齟齬を認識すること

 絵巻もまんがも、絵と言葉の組み合わせで物語を提示するという共通項を持つ。しかし、この共通点だけを強調してしまうと、それぞれが持つシステムや原理、歴史的背景を超越してエジプトの壁画やバイユーのタペストリーなどとの連続性のみに着地してしまう。
 今回のまんが訳はシステムを変更しつつも、絵と言葉は絵巻のシステム用に制作されたものを使用した。元の媒体が持つ特性をすべて排除してしまうと、物語とキャラクターだけを借りた別の作品になってしまう。このような理由であえて「まんが訳」としている。
 本編を読む際に紙面構成の原理を踏まえた上で読んでもらうと、いかに限られた絵を言葉と組み合わせ、コマの連鎖につなげていったか知っていただけるだろう。みなさんの鑑賞/読書体験がさらに豊かなものになることを期待している。

 

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