弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第七回  休校明け、登校をためらう「不登校予備軍」

約三カ月にわたる長期休校を経験した子供たちに懸念される不登校。今回お話を聞いた教員のひとりは、在宅期間中に生徒たちが問題を抱えていてもすぐに力になることのできないもどかしさに直面していました。休校措置が徐々に緩和されてきた6月、教育現場ではどのような問題が起こりつつあるのでしょうか。

  第七回 虐待現場(3)

 五月二十五日、首都圏でも新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除となり、学校の休校等の処置が段階的に緩和されることになった。その中で、今、教育現場でどのような問題が起こりつつあるのだろうか。
 江戸川区児童相談所の児童福祉司である白田有香里は述べる。
「コロナによって学校が休校になったことの悪影響は、確実にあります。懸念しているのが、不登校の増加ですね。昨年度の時点で、江戸川区には小学生約三百人、中学生約六百人、合計約九百人の不登校児がいました。それ以外に、学校に来たり来なかったりする子や、学校に居心地の良さを感じていない子がいます。そういう子たちが数カ月の休校によって学校へ来られなくなることが考えられるのです」
 学校の休校に伴う自宅待機によって起こったと言われているのが次のようなことだ。

・生活スタイルの昼夜逆転
・ネット、ゲーム依存
・家庭の不仲
・親のスパルタ教育

 家庭の不仲についてはすでに見てきた通りだが、親が勉強を指導しなければならなくなったことで教育に深く介入するようになったり、昼夜逆転の生活に慣れたりしてしまう。あるいは、外出の自粛によってゲーム機器やソフトが爆発的に売れたり、オンラインでのコミュニケーションが増えたりしたことを考えれば、それらに依存する子供も増加すると考えられるだろう。
 三月から五月末までの休校期間に、子供たちの身に上記のようなことが起きている場合、新学期がはじまっても、学校になじむのが難しくなる可能性がある。特にもともと学校になじんでいなかった子供に関してはそれが当てはまる。
 では、どれだけの数が増える可能性があるのか。
 不登校とは、一年に三十日以上欠席していることを示す言葉だ。その数は日本全国で十六万人を超える。
 ところが、「隠れ不登校」といって、三十日に達しなくても欠席、遅刻、早退を繰り返している子、校長室や保健室での別室登校をしている子、学校へ行きたくないと不満を漏らしている子などを合わせると、その数は三倍以上に上るとされている(これは生徒の一割に及ぶ)。
 こうした子供たちがコロナ後の不登校予備軍であると考えられる。

 その懸念に対処するには、学校の教師が生徒一人一人と密につながる必要がある。教師が生徒とコミュニケーションをとる方法としては、オンライン授業や面談などが行われてきた。だが、現場の教員によれば、学校や生徒によってこれらが有効であるケースとそうでないケースにわかれるという。
 関西の高校教師は次のように述べる。
「オンライン授業や面談っていうのは、学力の高い学校ならいいと思うんです。ZOOMをつかった授業に〝出席〟するでしょうし、宿題を出せばやってくるでしょう。でも、うちみたいに底辺校と呼ばれている学力の低い学校はそうじゃないんです。授業や面談はあまり重要じゃなく、日々触れ合う中で信頼関係を築いていって、いざという時に支えになったり、相談に乗ったりすることの方が重要。オンラインで少しばかりしゃべったからといって何とかなるというものじゃないんです」
 勉強のことなら、オンラインのやりとりで足りることもある。だが、親からの虐待、友達からのいじめ、妊娠やストレスによる体の変化などは、通信機器を介して簡単に相談して解決できるものではない。現場の教員がもどかしく感じているのはその点だという。
 さらにこうもつづける。
「四月にクラス替えが行われたのが痛いですね。新しいクラスになったことで、顔と名前が一致しないような子もいるんです。そんな子供が休校の間に大きな問題をかかえていたとしても、オンラインでつながったり、学校が再開したりしたところで、すぐに力になれるわけじゃありません。うちの生徒はもともと人とつながるのが苦手な子が多いので、顔を合わせられるようになっても、それなりに信頼してもらえるまで数週間、いや数カ月という時間がかかってしまうこともあるでしょう。この三カ月のブランクというのは、教員がこれまでに体験したことがないくらい大きなものなのです」
 学校を開けばすべてが解決するというわけではない。子供にとっての三カ月は、大人にとってのそれとは比較にならないほど長く深いものだ。なにせ、夏休みの倍なのだ。その間に起きたことを取りもどそうとするには、生徒にとっても教員にとっても想像を超える根気と努力が必要になってくるのかもしれない。

 白田は言う。
「区としてもできるだけ子供たちとつながってサポートしていきたいと考えています。『KODOMOごはん便』や『おうち食堂』といった事業は緊急事態宣言後も継続してつづけることにしました。いずれも、区の食事支援事業ですが、単に食事を提供するだけでなく、そこを入り口に見守りや相談へとつなげていく機能を持ち合わせています」
 KODOMOごはん便は、四百七十円の弁当を自己負担百円で自宅に届けるサービスだ。原則としては住民税非課税の世帯が対象だが、新型コロナウイルスの影響で支援が必要になった家庭も一定期間利用できるようにした。
 おうち食堂は、ボランティアが子供の食事に困っている家庭に出向いて、食材の購入から料理、そして片付けまでを一貫して担う事業である。ボランティアが家に二時間いてくれる上に、一年に四十八回まで利用することができる。
 いずれも、事業を担っているのは区と契約をした人々であり、上記のような食事支援だけでなく、訪問した家庭に問題があれば区に報告が上がり、解決に向けて動けるシステムになっている。区は学校だけに任せるのではなく、こうした事業を通して子供を支えていこうとしているのだ。
 とはいえ、こうした取り組みがあるからと言って万全というわけではない。児童相談所にしても、学校にしても、失われた三カ月は重くのしかかっている。子供たちがセーフティーネットの網の目から落ちないようにするには、彼らの努力の他に、地域住民である私たちの力も必要になってくるのは明らかだ。

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