弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第十一回 国の支援が届かない場所

児童養護施設は、勤務内容や時間帯から人材の確保が難しい職業だと言われています。コロナ禍で人と人とが直接会うことも難しくなり、マンパワーの著しく不足したシフト環境では、子供たちと助け合いながら日々をつないでいくしかない。そんな時、ある施設では民間の人たちによる善意に助けられたといいます。支援の届かない環境で、社会的養護を受ける子どもたちを救おうと試行錯誤する現場の声を伝えます。

  第十一回 児童養護施設(4)

 前回までに見てきたように、児童養護施設は新型コロナウイルスの影響で大きく三つの問題を抱えることになった。
 一つが、施設内の労働環境の変化。二つ目が、子供たちのストレスによる変化。三つ目が、子供たちの家庭環境の変化である。施設の側からすれば、すべてのところで大きな変化が起きてしまっているような状態だろう。
 安藤は言う。
「うちは限られたマンパワーの振り分け方が課題です。職員を二チーム態勢にしているので、何もかもがギリギリでやっている感じなんです。そこで子供がリストカットをくり返したり、親御さんが怒鳴り込んできたりすると、人手が足りなくなっていろんなことがうまく回らなくなってしまう。今のところ、国の側からは、それに対する支援というのはまったく示してもらっていません」
 もともと、児童養護施設はその勤務内容や時間帯から人材確保が難しい職業だとされてきた。職員が一人前になるまでにも、それなりの歳月を要し、現時点で人手が足りないからといって、雇ったところで逆に負担が増える可能性もあるだろう。騒動が落ち着けば、職員が余ってしまうこともありえる。今いるメンバーで対応するしかないというのが現状なのだ。
「このため、うちでは子供たちにも協力を頼んでいます。みんなでこの危機を乗り越えようと話して、中学生や高校生に小さな子供たちの面倒を見てもらったり、お菓子からお風呂の用意までしてもらったり。普段はまったくしない子でも、今回はこういう状況なので何も言わず手伝ってくれますね。子供たちもがんばらなければという気持ちが出てきてるのでしょう」
 たとえば、施設では毎日三度の食事とおやつを用意しなければならないが、調理担当者も二チームにわかれているために、買い出しから料理まで手が回らない。そのため、中高生たちが調理担当者の仕事を手伝ったり、小さな子たちが食器洗いをしたりするなどして対応しているという。
 安藤の言葉である。
「こういうピンチの時だからこそ、見知らぬ人が助けてくれるということもあります。四月に入ってしばらくして、近所に暮らすご夫婦が、かなり高額な寄付をしてくださいました。大変だろうから、これで何とかしてくれ、と。そのお金を使って、三食のうち一食分をピザやフライドチキンといったデリバリーに切り替えたりすることで、かなり職員の負担は軽減されましたね」
 同じようなことは他の児童養護施設でもあるようだ。都内のある施設によれば、緊急事態宣言が出た後、近所のレストランチェーンの社長から連絡があり、無償で食料を届けたいという申し出があったそうだ。
 その社長は都内で数店舗の洋食店を経営しており、緊急事態宣言を受けて休業を決めたものの、従業員の雇用を継続しなければならないし、仕入れ先をつぶさないために一定の食材を買いつづけなければならなかった。そこで、社長は行き場のない食材をつかって料理をつくり、施設に提供することを思いついたのだ。
 施設からすれば、毎日レストランの料理を食べられるだけでなく、調理担当の職員の負担を減らすこともできる。本来、食料提供を受けるにはきちんとした手続きが必要なはずだが、施設長はそうは言っていられない状況だと判断し、自分の責任で受け取ることにした。これが職員や子供の大きな力となったことは言うまでもない。
 また、この施設の話では、それ以外にも思いがけない複数の支援の話があったという。買占めによる紙製品の不足が深刻化した時には、ドラッグストアの店長から、「トイレットペーパーやティッシュを優先的に回します」との申し出があった。また、かつて児童養護施設で育ったという企業の社長さんが連絡をしてきて、品不足になっていたマスク千枚と大量の消毒液を寄付してくれた。
 国の支援が届かないところを、民間の人たちが善意で支えるという動きが静かに起きているのである。
 安藤は言う。
「コロナの影響は大きいですが、考えようによっては、逆に自分たちの力を高めることにも役立つのではないかと思っています。子供たちに力を合わせることの大切さを学んでもらったり、普段つながれない民間の人たちと知り合う機会ができたり、いろいろとプラスできることはあるはずなんです。
 子供たちには言っています。コロナが収まったら、自分たちが一回り成長することを実感できるはずだし、そうなればなんだってできるはずだ、と。言いすぎかもしれませんが、そういうふうに今の状況を受け取ることも大切だと思っています」
 日本には、家族の元で暮らせず、社会的養護を受けて生活をしている子供たちが四万七千人ほどいるといわれている。そうした子供たちが置かれている状況を、社会の側は意識して見るようにしなければならないだろう。

※本稿では、施設名を含めた固有名詞は、プライバシーに配慮して仮名にしています。

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