弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第十二回 夜間定時制という居場所

今回、取材をした定時制高校では、新入生の約半数以上が元不登校児だといいます。2月から5月末までの3ヵ月間にわたる休校が、「高校ではやり直そう」と思って入学してきた生徒たちに心理的なハードルとしてのしかかっています。

  第十二回 定時制高校(1)

※生徒のプライバシー保護のため、学校、教師の名前は匿名にしてあります。

 近年、定時制高校では、中学校で不登校だった日本人の子供に並んで外国人の割合が高くなっている。
 一時代前まで、定時制高校といえば、全日制高校へ進学する学力のない不良か、家庭の事情で日中に働かなければならない子供が大半というイメージだった。それが今では、中学へまともに通学できていなかった生徒や、日本語が不得意な外国人児童のための学びの場となっているのだ。

 今回紹介するのは、首都圏にある定時制高校だ。一学年に十五~二十人の生徒が在籍している。今年の一年生は十五人で、うち日本人は十一人、外国人が四人。日本人に関しては七割強にあたる八人が元不登校児だ。例年おおよそこのような比率で入学し、卒業までに諸事情で半数ほどが中退してしまうが、二年、三年になると全日制を中退した生徒が編入してくるので、卒業生の数はほとんど変わらない。
 社会科の教員の元木晋也(仮名)は言う。
「以前、私は東京の二十三区内にある全日制の私立高校に勤務していました。その高校に比べると、定時制高校には親から虐待を受けていたり、経済的に困窮したりしている生徒がたくさんいるという印象です。うちの高校の大学進学者数は例年一、二名なので、私たち教員の役割は、学力をつけさせるというより、生徒の見守り、高校卒業という目標の実現、それに社会で自立していくための力を身に着けさせることです。言ってしまえば、人間教育みたいなところに重点を置いて指導をしています」
 生徒たちが置かれている状態を象徴するのが給食の時間だ。
 この定時制高校では授業開始の午後五時に、すべての学年で給食の時間が設けられている。食事をしてから夜の授業に臨むのだ。高校生の夕飯にしては少々時間帯が早いが、それには理由がある。家庭環境に恵まれない子供が多く、家で栄養価のある食事をとれないケースがあるためだ。彼らは親が仕事で不在なので毎日パンしか食べていないとか、親がいてもインスタント食品しか出されないといった事情を抱えている。
 そんな生徒たちにとって、給食は一日のうちで唯一まともな食事だ。教員たちも事情をわかっているので、給食を共にしながら、生徒たちとコミュニケーションを重ねるようにしている。あらたまった面談より、そういう時間の方が、家庭での悩み事、友人関係、将来の相談などを話しやすい。教員はそこで会話をつみ重ねることで生徒の様子を理解して、信頼関係を築いていくのだ。
 こう書くだけでも、定時制高校が進学を目標とした全日制の進学校と異なるのはわかるだろう。では、そんな学校が、新型コロナウイルスの影響で休校に追い込まれた時、どのような問題が生じるのだろうか。

 二月の末に決まった休校は、五月末までつづいた。
 その間、学校に生徒が登校したのは、三月の卒業生だけの卒業式、四月初頭に行われた新入生だけの入学式の二日だ。
 まず教員が心配しているのが、入学はしたものの、二カ月にわたって学校へ来る機会を失った新入生の精神面だ。元木は語る。
「例年、うちの学校では新入生の半数以上が中学で不登校だった子です。調査票を見る限り、欠席日数が年間百八十日に達する子なんかもいて、三十日くらいの欠席は全然珍しくありません。こういう子たちって、定時制に来る時は『高校では頑張ろう』『やり直そう』と思って入学してくるんです。コロナの問題は、そういう子たちの出鼻をくじいてしまうことになりました。これがどれだけ尾を引くかはしばらく様子を見てみなければわかりません」
 中学で不登校だった子供たちも、本音では同級生たちと同じように学校へ行きたいと思っている。定時制高校への入学は、そんな子供たちが環境を変えて心機一転を図る場所であり、統計によれば半数以上は通学できるようになる。
 その背景には、教師がきちんと生徒の事情を理解していること、登校が夕方からなので昼夜が逆転しても登校できること、友達の多くが同じような経験や劣等感を持っていることなどがある。定時制高校という環境が、彼らのやり直しを可能にしているのだ。
 元木の言葉である。
「新入生が置かれている状況が良くないであろうというのは、在校生の様子を見ていれば察せられます。在校生たちは入学してから一、二年かけて、なんとか学校に通えるようになった子たちです。中には中学の時は不登校だったのに、うちに来てから一度も欠席せずに皆勤賞を取った子もいる。でも、こういう子供にさえコロナの影響が現れているんです」

 ある男子生徒の例を出そう。
 その生徒には、生まれつき軽度の知的障害と(ディ)()表出(グラ)障害(フィア)(文字の読み書きが困難な障害)があった。小学校の頃は何とか学校へ行っていたようだが、親の精神疾患など家庭の問題も重なり、だんだんと周りの生徒たちとやっていくことが難しくなっていった。そして中学に上がってから不登校になった。
 定時制高校へ入学した後、彼は気持ちを入れ替え、毎日通学しはじめた。学校の空気になじめるようになっただけでなく、バイト先でも上司に認められて自信がつき、学校ではついに三年連続で皆勤賞を取った(定時制高校は原則四年制)。あと一年頑張れば卒業という時に、今回の新型コロナウイルスの問題が発生した。
 男子生徒は、休校やバイトの休止によって、これまで彼なりにうまく保っていた生活のペースを崩された。学校の友人や、バイトの仲間とも会うことができなくなり、家では精神疾患の親と狭い空間で過ごさなければならない。ガス抜きの場所が失われてしまったのだ。
 教員の元木が心配して家に電話をしたが、男子生徒は応じようとしなかった。元木は言う。
「三回電話しましたが、この生徒は一度も出てくれませんでした。母親に聞いたところ、ゲームばかりして昼夜が逆転してしまっているようでした。外に出られず、家族と仲良く過ごせない子の中には、ゲームに依存してしまうケースがあります。二、三カ月そういう生活がつづくと、なかなか元にもどるのが難しい。彼の場合、今年就職が控えているので心配です」
 これまで三年間も順調に学校へ通えていた子供であっても、三カ月の休校によって築き上げてきた習慣が一気に崩れてしまうのだ。元木が言うように、学校が再開した六月から秋にかけて生活のリズムを取り戻せるかどうかで、就職活動も含めて今後の人生が大きく左右されてしまうことも考えられるだろう。
 問題は、「受験勉強のICT活用」など大学受験のことは頻繁に話題にされても、こういう少数派の弱い立場の子供たちの状況が報じられることが少ない点だ。国や地域からの特別なサポートがないことから、教員が対応するしかないのだが、教師個々の能力や、生徒個々が抱える問題は千差万別で、現場だけではどうしても限界が出てきてしまう。子供たちが学校というセーフティーネットに引っかかっているうちに、対処していくことが求められるだろう。

 次回は同じ定時制高校の外国人生徒について見てみたい。

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