弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第十三回 言葉の壁、孤立する外国人生徒

定時制高校は、日本語が不得手なまま日本に移住した外国籍の子どもたちにとっての学び場にもなっています。コロナ禍でなくとも、彼らの中には不安で意思を伝えることすらままならなかったり、言葉の問題から学校で孤立してしまったりする生徒が少なくありません。休校措置でコミュニケーションが絶たれてしまった外国人生徒へのケアが急務となっています。

  第十三回 定時制高校(2)

※生徒のプライバシー保護のため、学校、教師の名前は匿名にしてあります。

 定時制高校にとって、元不登校児に次いで多いのが外国から日本に移住した子供たちである。こうした外国人生徒に対しても大きなサポートが必要になる。
 前回に引きつづき紹介する定時制高校では、両親がフィリピン人、及びフィリピン人と日本人のハーフの子供たちが大勢通っている。彼らの大半は日本に来てまだ数カ月から数年しか経っておらず、日本語を自由に話すことができないので、全日制の高校ではなく、外国人生徒を対象にした特別入学枠や日本語の授業を設けている定時制高校への進学を選ぶのだ。
 今年の四月、この学校ではフィリピン人の新入生からの問い合わせトラブルが起きていた。この家族は半年ほど前に来日したばかりで、フィリピン人の生徒は日本の中学には通ったことがなく、まったくと言っていいほど日本語ができなかった。おそらく入学に関しての情報が不足し、今後どうすればいいのかわからなかったのだろう。生徒は学校に電話を掛けてきた。
 最初に電話を受けたのは学校の事務員だった。英語だったこともあり、事務員は理解できず、別の教員に替わったが、フィリピンのなまりが強すぎて、教員の方も聞き取ることができない。結局、この電話では誰が何を問い合わせたのか不明のまま手掛かりがつかめなくなってしまった。
 教員の元木は言う。
「この時の電話では生徒の名前さえわからず、別のフィリピン人の生徒からの問い合わせと勘違いしたほどでした。生徒の側からすれば、日本に来て早々コロナ問題に巻き込まれた上に、学校との連絡もままならないことで不安に陥りますよね。こういうことがあれば、生徒が学校に不信感を抱くことになりかねないし、そうなると言葉が不自由な中で信頼関係をつくっていくのは大変です。六月に授業再開しても、すぐに夏休みに入ってしまうので、どう生徒たちと交流を図っていくかは大きな問題です」
 二年生以上の外国人生徒に関しても行き違いが生じているという。
 元木は休校が決まった際、他の学校の教師友達から「グーグル・クラスルーム」というアプリがあることを教えてもらった。ウェブ上の教室空間に生徒たちを招待し、ホームルームや授業、それに些細なコミュニケーションまで様々な活動ができるアプリだ。早速学校側の許可を得てクラスに取り入れてみることにした。
 日本人の生徒は参加してくれることが多かったが、外国人生徒はそうではなかった。彼らにとって障害になったのは、ネットで使用される日本語だ。アプリ内では、音声言語ではなく、文字入力を主にしたやり取りになる。だが、日本語の場合、文語と口語とで若干表現が異なるし、難しい漢字も多用される。こうなると、外国人生徒はアプリ内でのコミュニケーションが困難になり、教師から呼びかけられても参加しようとしない。
 元木の言葉である。
「生徒との面談でもアプリの使用の難しさを感じます。教育現場では早いうちにZOOMによる面談やオンライン授業が開始されました。でも、定時制高校の外国人生徒にZOOMで面談をしようと持ち掛けても、『はい、やります』とはなりにくい。使い方を人に訊けないとか、日本語の表記がわからないといった理由で、遠ざかってしまう。本来は、彼らが使い慣れているLINEのビデオ通話がいいんですが、教育委員会からは原則的にLINEは禁止との通達が出ているんです。教員が個人的に生徒と連絡先を交換することがダメだってことみたいです。昨今、教員のセクハラ問題などが報じられていますから、そういうことを心配しているのでしょう」
 このような教員と生徒間のコミュニケーション不足がどのような問題を引き起こしているのか。

 東海地方にある別の高校の話だが、六月に授業が再開になっても、日系ブラジル人の女子生徒が登校してこなかったことがあった。教員が連絡してもまったくつながらない。そこで同じく日系ブラジル人の生徒のつてを頼って調べたところ、少し前に警察に捕まっていたことが判明した。
 詳しく聞いてみると、彼女の両親は勤めていた工場が休止になって給料が激減する危機に瀕していたという。彼らは日本語をほとんど解せず、行政やNPOに支援を求めることもできなかった。生活に困ったのだろう、あろうことか、娘が働いているホームセンターに行って万引きをし、商品を転売するということをくり返した。最初は両親が店内で捕まり、その後娘もグルだと思われて取り調べを受けることになった。
 この女子生徒は定時制高校の二年生だった。教員は「きちんとコミュニケーションがとれていれば、家庭の事情について相談に乗ることができたはず」と悔やんでいた。日本語がほとんどわからず、相談相手も周りにいなければ、困難な状況に陥った時に必要以上に視野が狭くなり、トラブルに発展しやすくなる。今回のような警察沙汰にならなくても、似たような状況に追い詰められた外国人は決して少なくないだろう。
 元木は語る。
「外国人生徒の場合は、できる子とできない子の差がものすごく大きいんです。もともとのIQや、日本に来る前の教育レベルも影響しているでしょう。できる子はあっという間に日本語が上達するとともに友達もたくさんできて大学受験を目指すようになるけど、できない子は早々に諦めて学校を辞めてしまいがちです。コロナ禍の困難で犠牲になるのは、後者のできない子たちなんです」
 電話での連絡にせよ、オンラインの授業や面談にせよ、それは日本人の子供に対するケアとして提案されたものだ。外国人の生徒、しかも語学力や家庭環境にハンディーを抱えた定時制高校の外国人生徒たちが、日本人の生徒と同じようにそれを扱えるかと問われれば、決してそうではない。では、他にどういう方法で、そうした子供たちを支えていくかを考えなければならないのだが、そこの部分の取り組みがすっぽりと抜け落ちてしまっている。
 元木はこうも言う。
「日本では外国人生徒に対するケアは不十分で、実際のところは教員の力量に委ねられているところが大きいですが、現実的には定時制高校にずっと居つづけたいっていう教員って少ないんです。五年間我慢して過ごして、その後は全日制の高校へ移りたいって考えている人が大半。そうなると、どこまで定時制高校の生徒たちに腰を据えて向き合えるかどうかは疑問ですよね……」
 今回話を聞いた教員の中には、定時制高校は特殊な問題を抱えている生徒が多いため、資格を持った人間を専門の教員としてつけるべきだという意見を持つ者もいた。それが現実的かどうかは別として、コロナ禍でなくても、社会で何かしらの困難な状況が生じた時に同じようなことが起こる可能性があることを考えると、定時制高校に高い意識を持って外国人生徒としっかり向き合える教員を配置することは必要だろう。

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