絶叫委員会

【第153回】っぽい言葉

PR誌「ちくま」7月号より穂村弘さんの連載を掲載します。

 公園のベンチで本を読んでいる時、こんな言葉が耳に入った。​

「おれ、ゼロ歳の時からコーラ飲んでるんだぜ」​

 えっ、と思って見ると、小学校一年生くらいの男子である。友だちに向かって自慢しているらしい。なんというか、ものすごく「小学校一年生くらいの男子っぽい」なあ、と思った。ゼロ歳の時のことなんか憶えてないだろう、とは誰も突っ込まない。へええ、とみんな大人しく聞いていた。中学生の頃から酒を飲んでいる、みたいな自慢は一種の決まり文句のように昔からあるけど、ゼロ歳のコーラはそのバリエーションでありつつ、より面白い気がする。​
 また別の日。スマートフォンを耳に当てながら向こうから速足で歩いてくる女子高生とすれ違った。その時である。​

「え、絶対醤油派じゃん! 絶対醤油派じゃん!」​

 叫んでいる。そして、早口のリフレイン。前後の流れはわからない。でも、なんか「女子高生っぽい」ってことはわかった。ラーメンの好みか、それとも目玉焼きにかける調味料の話だろうか。​
 またまた別の日。商店街に向かう途中で、私の前をゆっくりと歩いていた中年のカップルの会話が聞こえた。​

 男「何食べる?」​
 女「フィーリングかな」​

 五十代くらいの男女である。このやりとり、ものすごく「五十代くらいの男女っぽい」と思った。同世代の私としては妙に懐かしく、同時にちょっと恥ずかしい。ポイントは「フィーリング」だ。最近はあまり聞かなくなった言葉だが、これが流行ったことがあったのだ。「フィーリング」(なかにし礼作詞)という歌謡曲があった。ハイ・ファイ・セットというグループが歌っていた。またプロポーズ大作戦というバラエティ番組の中には、「フィーリングカップル5vs5」という名物コーナーがあった。一種の集団お見合いゲームである。さらに映画「燃えよドラゴン」の中でブルース・リーが口にする有名な台詞は「Don’t think, feel !」(考えるな、感じろ!)だった。一九七〇年代はフィーリングの時代だったのか。​
 そして、つい数時間前のこと。六十代くらいで首が太くてあまり近づきたくないタイプの男性が、スマートフォンに向かってこんなことを云っていた。​

「シューキンリョクのある服を着てこいよ」​

「シューキンリョク」ってなんだろう。集金力? そんな言葉があるのか。借金の取り立てをする力? それとも自然にお金が集まってくる力だろうか。うーん、と思う。「六十代くらいで首が太くてあまり近づきたくないタイプの男性っぽい」なあ。​
​(ほむら・ひろし 歌人)
 

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