弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第二十六回 ライブハウスが社会から消滅することはない

新型コロナウイルスのクラスターが発生したとして、ネット上での誹謗中傷が相次いだ大阪市のライブハウス。特定の業種が“悪役”にされ、心ないバッシングを受ける事態が繰り返されています。「Live House Rumio」のオーナーは、それでも「ライブハウスは社会から消滅することはない」と店を守る決意を固め、新たな一歩を踏み出そうとしていました。

   第26回 ライブハウス(2)

 大阪市北区の歓楽街・北新地の「Live House Rumio」。二月十八日に行った音楽ライブで新型コロナウイルスの感染者が出たことが、三月七日に大阪市保健所からかかってきた電話によって明らかになったライブハウスだ。
 この日、オーナーの金中謙太は四名の従業員に自宅待機を命じ、保健所の指導に則って店内の消毒作業を行った。そんな最中の午後九時、大阪市は次のように感染を発表した。

 【注意喚起1】

 新型コロナウイルス感染症患者が大阪市保健所管内の新たな2つのライブハウスで開催されたコンサートに参加し、不特定多数の方と接触している可能性があることが判明しましたので、広く注意喚起をするものです。
 なお、当該ライブハウスについては、大阪市保健所の指示の下、施設消毒を完了しているものです。

1 Live House Rumio
(1)日時 2月18日(火曜日) 19時から22時頃まで
(2)住所 大阪市北区西天満6-2-14 
(3)その他 本日(3月7日)、判明しました府内32例目の患者は、19時から22時まで会場に客として参加し、3月4日に判明しました府内12例目の患者は、関係者として参加。

 電話で金中が同意した通り、大阪市は同店で感染者が出たことを発表したのである。吉村洋文大阪府知事も感染拡大の予防に対して協力をしてくれたことに感謝を示すコメントを発表した。市や府は店の誠意ある対応を公に認めていたと言っていい。
 ところが、新聞など各メディアがこの発表を報じると、世間からは正反対の反応が沸き起こるようになる。新型コロナウイルスの感染拡大を懸念していた人々が、やり場のない感情を同店にぶつけるように、メール、SNS、電話などで誹謗中傷をはじめたのである。

〈感染者を出したことを謝罪しろ〉
〈ライブ行く方もどうかと思うけど無理矢理稼ごうとするバンドも常識が無いわ〉
〈ライブハウスとスポーツジムは社会の害悪〉
〈日本屈指の汚染地域〉
〈ライブハウスに行くようなバカどもは名乗り出るのが遅い〉
〈ライブハウスがコロナ増幅器に〉

 メディアの報道が言葉足らずだったのか、受け取る側の悪意が強かったのかはわからない。ただ、行政の指示に従って店名公表に同意したルミオが、社会悪のような眼差しを向けられたのである。
 金中は当惑せずにいられなかった。保健所の指示に従っただけなのに、なぜこんな言い方をされなければならないのか。これがつづけば、店の存亡にもかかわってくる。
 金中は誤解を解くために、店のホームページに自らの意見を記した。一部抜粋する。

 まず当店が感染経路として取り上げられた2月18日に関する情報や報道につきまして「悪いと思わないのか」「謝罪は無いのか」などのお声もあるのは事実ですが、自粛要請がある2月26日よりも以前の事でありました。
 当店に限らずあらゆる店舗が通常営業の中、事態を予測するのは難しいと言わざるを得ません。
 当然以後の消毒作業や従業員の体調の状態の把握などは保健所等行政の指導の元行っております。
 これに関しては当然の対応なのでご報告するほど重大な事であると考えておりません。

 客観的に見れば、金中の主張はもっともだ。だが、このコメントだけで、ネット上の誹謗中傷が止むわけもなかった。次の日も、また次の日も、辛らつな言葉が書き込まれていく。
 金中はやむを得ず、メディアからの取材依頼を積極的に受けることにした。テレビや新聞を通して、これまでの経緯を語ることで、不当な攻撃を受けていることを明らかにするしかないと考えたのだ。それは店や従業員を守るためにも必要なことだった。
 一方で、三月中旬以降、日本全国でみるみるうちに感染者が増加したことで、店の今後についても考えなければならなかった。店を運営していくには家賃が八十万円弱、人件費が八十~百万円、その他維持費で月に二百万円強かかる。これまでは月に二十数回のイベントを行うことで二百五十万円~二百八十万円ほどの売り上げがあった。だがそれがほぼ丸ごとなくなった場合、光熱費などを抑えたところで、毎月二百万円くらいの赤字を垂れ流すことになる。
 金中は言う。
「考えたのが、今後の店の運営をどうするかということでした。コロナの影響は最低でも半年くらいはつづくと思っていました。ただ、ライブハウスが社会から消滅するということはないだろうという思いは僕の頭にありました。ライブはオンラインとは別物で、それでしか味わえないものや、できないビジネスというのがあります。これまで利用していたバンドや事務所からも『いつ再開するんだ』という問い合わせはいただいていました。どれだけ社会が変わっても、ライブハウスのニーズはかならずどこかの時点で戻ってくる。ならば、それまで何としても店を維持させようと考えたんです」
 大阪にはライブバーのようなところも含めれば、百店ほどのライブハウスがある。それがすべて消滅するという未来は考えられない。
 悩みの種は資金繰りだった。もともと金中の店では何かあった時のために金融機関から一定の金を借入していた。それをうまく運用したり、新たに国の支援を受けたりすれば、従業員を解雇しなくても、半年は店を維持することができる。
 とはいえ、半年後に客入りが百パーセント元通りになるという確信はなかった。いや、今後も新型コロナウイルスと共存していくことになれば、百パーセントに戻ることなんてないだろう。だとすると、これまでのビジネスモデルに加えて、別の方法で収益を得る仕組みをつくる必要がある。
 この時、金中の頭に浮かんだのが、ライブハウス発の「オンラインビジネス」だった――。

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