弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第二十七回 ライブハウス文化とミュージシャンを守りたい

クラスターの発生や「三密」であることを理由にネットに蔓延した、ライブハウス文化への無理解、中傷に胸を痛めている経営者やミュージシャンが少なくありません。予定していた公演が壊滅状態となった「Live House Rumio」のオーナーも、本格稼働への道は険しいと苦慮しています。しかしそれでもアーティストらに新たな活躍の場を提供し、多くの人へ音楽に親しんでもらいたいと新たな事業に向けた思いを語りました。

   第27回 ライブハウス(3)

 大阪市北区の歓楽街・北新地の「Live House Rumio」のオーナーである金中謙太は、コロナ禍が落ち着くまで店の赤字を抑えるための策はないか考えをめぐらした。この時に思いついたのが、オンラインによる「配信サービス」だった。
 本来、ライブハウスは、生のライブを提供する空間だ。ホールのレンタル代や飲食費が収益の柱となって経営が行われている。そこを借りるミュージシャン側は、チケットやグッズの売り上げで収入を得る。
 ただ、近年はこれにオンラインビジネスが少しずつ浸透しはじめていた。オンラインで楽曲や映像を配信する、グッズを販売する、オフ会のような交流を行うなどの方法によって、収益を増やそうという試みが行われていたのだ。金中は、このオンラインビジネスをライブハウスが事業として担えるのではないかと考えた。
 金中は言う。
「ミュージシャンの中でも、ネットをつかいこなせている人とそうでない人とにかなり分かれますね。現在、音楽の世界は結構二極化しているんです。これまでのようにライブハウスを基盤に活動しているミュージシャンがいる一方で、最近はオンラインで活動してファンを増やしているミュージシャンも現れはじめています。後者はミュージシャン自身はもちろん、ファンもネットに明るいし、ネットでの課金に慣れています。でも、前者は違う。彼らはずっと従来のやり方をつづけてきたし、ファンもそういう層なので、ネットをうまく利用する仕方がわからない。そこの部分を、うちが担えないかと思ったんです」
 金中はそう思いつくや否や、三月中旬から自宅待機をさせていた従業員に指示を出して、配信サービスをスタートさせる準備をはじめた。七、八十万円かけて複数の高性能のカメラ、映像編集のためのソフト、ロケもできる機材などを買いそろえて、撮影から編集、そして配信までできる体制を整えたのだ。これによって、店のホールで無観客ライブを開催する場合、それをファンに向けて生配信ができるようにした。
 同店は四月に入ってすぐ、これまで店を利用してくれていたミュージシャンたちに声を掛け、配信サービスができることをつたえた。ミュージシャンたちもまたライブハウスでの活動で生計を立てていたためにコロナ禍の影響をもろに受けていたことから、一組また一組と呼びかけに応じた。やり方がわからないだけで、環境が整ってさえいれば試してみたいと思っていた人が少なからずいたのだ。
 さらに緊急事態宣言が解除された六月から、店内での音楽ライブを再開することに決めた。同店のスケジュールは半年ほど前から予約で埋まることがほとんどで、コロナ禍以前からこの六月も多数の予約が入っていた。金中が事前に主催者と協議したところ、可能ならばライブをやりたいと数組が希望した。そこで国の提示するガイドラインを守りながら、実験的に再開することにした。

 六月の第三週に行われた再開後初のライブは、大阪を拠点にしたアイドルグループによるものだった。開催に当たって、主催者と金中は、ガイドラインを過剰なほど守ることで、意図的なアイロニーを込めることにした。タイトルはこうだ。
「サイレントライブ 〜絶対声を発してはいけない〜」
 客への検温、消毒、客席の規制(三十席ほどに減らした)はもちろんのこと、スタッフはマスクをして一言もしゃべらず、ステージに上がったミュージシャンも口パクでパフォーマンスを行う。ライブに制限があるなら、逆にそれを利用して盛り上げようと考えたのだ。客はそれなりに風変わりなライブを楽しんだし、クラスターの発生によって誹謗中傷が相次いでいた件がメディアでいく度も取り上げられた店だったこともあって、こうした形での再開は話題になった。
 七月の時点で、店では生ライブや無観客のライブ配信を並行して行っている。客をこれまでの半分以下に制限している上、ライブ配信がすべてを補填するくらいの売り上げを出しているわけではない。世の中には自粛ムードも漂い、損益分岐点に達するのはまだ先だ。それでも、金中は新しい試みをすることに意義があると語る。
「ミュージシャンやライブハウスの多くは経済的に厳しい状況にあります。中には、クラウドファンディングみたいな形で支援を求めているところもある。でも、だんだん支援疲れが起きているし、それだけでは新しい時代を切りひらいていけませんよね。アフター・コロナって言われていますけど、それに合ったやり方を模索していくしか方法がないと思っています」
 金中は、社会がある程度落ち着けば、ライブハウスの売り上げは八割くらい回復すると予想している。逆に言えば、百パーセントに戻ることはない。つまり、ライブハウスの文化は、今のまま発展することはないということだ。では、残りの二割をどう埋めていくのか。
 彼は言う。
「ミュージシャンには、オンラインの人とオフラインの人という棲み分けがありましたが、今後はそれがごちゃ混ぜになっていくでしょうね。オンラインの人がライブをやり、オフラインの人がネット配信をする。そんな時に、ライブハウスとしては、じゃあ配信のためのスタジオとして店を貸しましょうとか、複数台のカメラを持って撮影しましょうということができれば、これまでとは別の形で収益を増やすことができる。そうやって減った二割を補うことはできるはずだと思っています」
 音楽を含めた芸術は、時代の変化の中で新しいものを生み出すことから成長していくものだ。数年おきにそうやって新しいものができて世の中を席巻し、それまで新しいと見なされていたものは古典になっていく。
 そういう意味では、ライブハウスの音楽シーンにおいても、コロナ禍は決してマイナスの面だけで終わることはなく、新しい文化を生み出すきっかけの一つになるのかもしれない。

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