弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第二十八回 コロナ禍で利用激減、病児保育を直撃した経営危機

仕事を休めない保護者の代わりに、急な発熱やけがなどで学校に行けない子どもを一時的に預かり、看護する病児保育。通常の保育園よりも医療的側面が手厚いこの病児保育が、新型コロナウイルス感染拡大で苦境に立たされています。全国病児保育協議会の大川洋二会長は、「病児保育というのは日本にしかないもので、おおよそ六割が赤字経営」と厳しい現状を語りました。

  第28回 病児保育(1)

 病児保育は、感染症をはじめとして病気等で体調を崩した子供を預かるサービスだ。
 二〇一八年度の統計によれば、共働き世帯の割合は、六七.〇一%。七割近くの世帯が共働きということになる。職場環境や仕事内容によっては、子供が病気になったからといって休暇を取ることができない時がある。そんな場合、病児保育は「駆け込み寺」のような役割を持つ。
 ところが、この病児保育がコロナ禍において全国的に経営の危機にさらされているという。一体何が起きているのか。現場を追ってみた。

 東京大田区、東急多摩川線・矢口渡駅の改札口を出てすぐのところに、大川こども&内科クリニックがある。
 このクリニックの院長である大川洋二は、全国病児保育協議会の会長を務めている。普段は自身のクリニックで医師として働きながら、「うさぎのママ」「うさぎのママⅡ」という二つの病児保育施設を運営している。クリニックの二階に設けているのが前者、クリニックから徒歩三分ほどのビルにテナントを借りて開設しているのが後者だ。
 二つの施設の収容人数は三十名。全国的には一つの病児保育あたりの定員が四~六名が平均であることを考えれば、規模は大きい。
 大川は言う。
「コロナのせいで、全国的に病児保育の利用者数がかなり減りました。うちの場合でいえば、四月、五月の利用者は十分の一以下ですね。病児保育というのは日本にしかないもので、おおよそ六割が赤字経営なんです。つまり、もともと赤字経営のところに、コロナ禍で利用者が激減したということです。そのせいで、全国から『もうやっていけない』という声が続々と集まっています」

 話を進める前に、病児保育について説明したい。冒頭で述べたように、病児保育は病気、もしくは病後の体調不良の子供を預かることを目的としている。体調を崩している子供はもちろん、インフルエンザのように熱が下がった後も数日間は自宅療養が必要な子供を親の代わりに世話するのである。病児保育の種類は、大きく四つにわけられる。

  • 病院やクリニック併設型~全国に七四九施設あり、全体の七六%を占める。
  • 保育所併設型~病後の子供が主で、全国に五十九施設ある。
  • 医師会やNPO運営型~医師会やNPOが運営する施設が少数ある。
  • 派遣型~施設を持たずに職員を自宅に派遣する。全国で九団体ある。

 このうち①が病気の子供を主に預かっており、②は保育園にある保健室のようなところで主に病後の子供を受け入れている。
 病児保育を開設するのは決して簡単なことではない。国が定めた基準があり、施設は子供一人に対して一.九八㎡の広さを確保することに加え、保育室、観察室、隔離室(感染症の子供用)、調乳室の設置が義務付けられている。さらに子供三人に対して保育士一人、子供十人に対して看護師一人の用意が必要になる。
 利用する子供の対象年齢は、ゼロ歳から小学三年生までだが、主流になるのは一~五歳くらいまでのもっとも手のかかる年齢の子供だ。そのため、一人の保育士で三人の子供の面倒を看るのは難しく、保育士一人に対して子供一.六人を看ているというのが現状だ。
 このような体制で施設を運営しようとすれば、それなりに経費がかさむ。もし病児保育が独立経営しようとしたら、一人の子供につき一日当たり一万円前後を請求しなければ採算が合わない。だが、これでは大半の家庭が必要な時に子供を預けることができなくなってしまう。
 そこで多くの病児保育は市区町村の委託事業として契約し、利用料金を一人につき一日当たり二千~三千円に抑える代わりに、不足分の一部を交付金で賄う。交付金は、一律の基本単価に、年間延べ利用者数に応じた加算単価を加えた額という規定がある。「国」「都道府県」「市町村」が三分の一ずつを負担し、数カ月後ないしは翌年に支払われる。
 ただし、交付金の支払い条件は市町村によって少しずつ異なり、現実的にはそれだけで賄うことは非常に難しい。交付金を受けている施設でいえば、全体の七二%が赤字経営であり、そのうち五五%は赤字額が年間三百万円以上になっている。
 これでは事業としては採算が合わない。にもかかわらず、病院やクリニックが病児保育を運営する理由は何なのか。大川は次のように述べる。
「地域の小児医療を担う側としての責任です。クリニックには地元の子供たちの健康や生活を守る役割があります。それを考えた時、診察して薬を出して終わりにするのではなく、病気にかかった子供の家庭を支えてあげることが欠かせない。
 ただ、クリニックが病児保育をやっていれば、それだけ治療を受けに来る子が集まるという利点もあります。こちらはそのままクリニックの利益になります。だから、病児保育の赤字をクリニックの黒字で埋め合わせてトントンくらいに持っていける。そうやってなんとかかんとか回しているのが病院やクリニック併設型の病児保育の現状なんです」
 こうしてみると、病院やクリニックは地域に根差した医療を実現するために、赤字覚悟で病児保育を運営しているといえるだろう。営利目的の事業で行っているというより、善意で維持されていると言っても過言ではない。
 だが、コロナ禍は、そんな病児保育の業界に大きな激震を起こした。「ステイ・ホーム」による小児の感染症の激減、新型コロナウイルス感染への不安からくる受診控えなどによって、多数の病児保育が存続の危機に瀕することになったのである。
 次回は、コロナ禍によって閉鎖に追い込まれた大阪の病児保育を見てみたい。

――――――――――――――――――――――――
■取材依頼募集
新型コロナウイルスによる窮状を多面的にルポする予定です。
医療現場から生活困窮の実態まで、取材を受けてくださる方は、次のメールアドレスまでご連絡ください。

連絡先:石井光太(いしい・こうた)
メール postmaster@kotaism.com
ツイッター https://twitter.com/kotaism
HP https://www.kotaism.com/