弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第三十回 病児保育は働く親たちの「駆け込み寺」だった

クリニック併設型の病児保育施設は、子どもの感染症と保育の両方に深い知識を持った医師や看護師が常駐することから、重い病気の子や障害のある子だけでなく、その親たちの生活も支える「駆け込み寺」の役割も担っていました。医療的側面が大きいからこそ、今後の支援の必要が強く叫ばれています。

  第30回 病児保育(3)

 前回まで、全国の病児保育の経営が、コロナ禍によって危機に瀕していることを見てきた。
 全国病児保育協議会は、六月に全国の病児保育に取ったアンケート結果を公表した。その結果を示せば、利用者数は前年の月と比べて左記の通り減っている。

・一月 二一%減
・二月 一一%減
・三月 二二%減
・四月 六七%減
・五月 八五%減

 これだけ利用者が減れば、病児保育の経営が破綻の危機に瀕するのは納得できる。病児保育業界が問題視しているのは、こうしたことが今後も少なからずつづくだろうということだ。
 政府はコロナ禍を受けて、今年の交付金の支払い条件を改めた。七月十日付で、厚生省は次のような通達を出したのだ。
「病児保育施設において病児保育の提供に必要な職員を確保するなど、サービスの提供体制を確保していると市町村が認める場合には、加算単価の適用に当たっては、市町村において、新型コロナウイルス感染症の状況や利用ニーズ、確保されている提供体制等を勘案して想定される各月の延べ利用児童数をもって当該月の延べ利用児童数とみなすこととして差し支えない。ただし、この場合にあっては、前年同月の延べ利用児童数を上限とすることとする」
 今年度はコロナ禍によって利用者が減ったことを考慮し、最大で前年同月の利用者数で交付金が支払われることになったのである。だが、関係者によれば、これはその場しのぎの政策でしかないということだ。

 前回紹介した鐙連太郎が指摘するように、アフターコロナの時代では「病気の子の減少」「在宅ワークの増加」「受診控え」によって、必然的に小児科ならびに病児保育の利用者が減ると予想されている。こうした時代の中で、もともと赤字経営だった病児保育が存続するのは至難の業だ。

 では、病児保育業界の今後はどうなるのか。鐙は次のように述べる。
「病院やクリニックに併設している病児保育は減っていくと思います。ただ、保育園併設型の方は残ることになるでしょう。アフターコロナでは小児科の経営はどんどん厳しくなりますが、保育園の方は変わらないはず。人数も維持できるし、経営も盤石です。そうなれば、クリニック併設型が減り、保育園併設型が主流になっていくのではないでしょうか」
 クリニック併設型病児保育では、母体であるクリニックの経営が厳しくなるので、病児保育の赤字を補填することができなくなる。一方、保育園併設型病児保育は、保育園の経営が揺らぐ要素は今のところないので、病児保育も維持できる可能性が高いということだ。
 だが、これは手放しで喜べることではない。連載28回で見たように、そもそもクリニック併設型と保育園併設型とでは役割が異なる。保育園併設型はクリニック併設型のように医師が常駐しているわけではなく、病後の子供の受け入れを主に行っているのだ。
 鐙は言う。
「保育園併設型では子供の熱が上がったら『うちではダメです』と言ったり、『これはできません』とお断りしたりします。医療に関することにはノータッチを貫きたがる。一方、クリニック併設型は医療機関なので、『ダメ』とか『できない』とかは言いません。もしクリニック併設型が減って、保育園併設型だけになったらどうなるか。困るのは重い病気の子供やその親なんですよ」
 大川こども&内科クリニックの院長であり、全国病児保育協議会会長の大川洋二も、保育園併設型だけにすべてをゆだねるのは厳しいと考えている。大川は言う。
「子供の中には、若年発症成人型糖尿病でインシュリン注射が必要な子がいます。でも、保育園併設型では注射さえしたがらないことがほとんどです。また、発達障害の子の中には、薬の服用ができない子もいます。たとえば、ADHDの子の一部は、嫌がって口にしようとしない。医師や看護師なら慣れているのでやり方がわかりますが、保育士だとその知識がないですよね。そうすると、薬の飲めない子の受け入れも難しいということになる。もし近所にクリニック併設型がなければ、この子たちは行き場所がなくなってしまうんです」
 クリニック併設型と保育園併設型では行えることが異なるにもかかわらず、一方だけが経営難に陥ることで一方だけが減ったらどうなるのか。そう考えると、前者がなくなっても、後者が残っていればいいという話ではないことがわかるだろう。
 また、預ける側の親が抱えている問題というのもある。病児保育の表向きの役割は、社会で働いている親の子供を預かることだ。ただ、親の中にはそれ以外の理由で病児保育に子供を連れて来る人たちもいる。たとえば次のような親だ。

・親が心を病んでいて、子供の面倒を見切れない。
・親が育児に困難を感じており、病児のケアの仕方がわからない。
・子供に障害があって、レスパイト(息抜き)の目的で子供を預ける。

 このようなケースでは、保育園併設型で対応することは難しく、クリニック併設型が受け入れることになる。病児保育として子供を預かりながら、親の病気の相談に乗る、ケアの仕方を教える、障害のある子の扱い方を教えるといったことを行うのだ。
 大川こども&内科クリニックの病児保育「うさぎのママⅡ」の建物では、発達障害児の療育も行っている。児童一人当たりの保育士の数は、保育園よりずっと多いので、ここへ来ることを楽しみにしている子も多いそうだ。
 大川は言う。
「保育園併設型は、何の問題もない家庭の依頼なら受けるでしょう。でも、発達障害の子供の看病、親のレスパイトというところまで責任を持ってやることはできない。それはクリニック併設型の役割なんです。そういう点でも、国にはクリニック併設型が担っている役目をきちんと理解してもらい、どうやれば今後も生き残っていけるかを真剣に考えてもらう必要があります」
 国が今年度の給付金の支払い方法を変えたからといって、今後クリニック併設型病児保育が経営をつづけていけるかどうかは別の話だ。新しい時代に合った支援の方法というのがある。
 国は女性に対して社会で働くことを推奨し、子育て支援の拡充によって少子高齢化に歯止めを掛けようとしている。だとしたならば、国は今すぐにでも病児保育の支援について新しい政策を打ち出していく必要があるだろう。

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