ちくま文庫

人類を救う隠居力

『思い立ったら隠居ーー週休5日の快適生活』(大原扁理著)解説

いま最も熱い視線を集める「隠居」。20代で隠居生活に入られた大原さんの魅力に、鬼才漫画家・辛酸なめ子さんが迫ります。

 今(2020年5月)、好むと好まざるとに関わらず、疫病蔓延による恐慌で、世界の隠居人口が増加するフェーズに入っています。大原扁理さんの本も世の中の人にさらに求められることでしょう。そんなますます将来有望な扁理さんとはじめてお会いしたのは7年ほど前のこと。美術館のイベントに出た時に若いスリムなイケメンに話しかけられ、扁理さんの友人(この本にも出てくるスジャータ女史)を交えて時々会うようになりました(陰謀やスピリチュアル系の話題が多めですが)。
 扁理さんに隠居生活について取材させていただいたこともありました。まだ肉を食べたい盛りの20代なのに(当時)、食生活は玄米菜食が基本で、ヨモギやドングリをタダで拾ってきて食べたりしている、という話に驚かされました。「朝起きて隣の庭を眺めて、梅が咲きはじめていると幸せを感じる」という風流な生活で、理想の生き方は良寛、という話にも感銘を受けました。
 この『思い立ったら隠居』にも、ブレないライフスタイルが書かれています。感銘を受けた部分はたくさんありますが、とくに印象的だったり自分も取り入れたいと思った箇所は……。「凸凹した道」を選んで歩いて足裏を刺激する、という方法や、「付き合いは非常に悪い」「遊びの誘いはばんばん断ります」という人との距離感。他人にあまり腹が立たなくなって穏やかに過ごせるそうです。そういえば3人で会う時も何度かドタキャンが……。それでも許されるのは扁理さんの人徳で、会えたら貴重だと思わせる効果も。
 そしてこの本にはさり気なく随所に格言がでてきます。「自分を使えば、お金は使わなくてOK」「健康が一番の節約」とか「空や木や水など、自然のものをひたすら眺める」ことで「宇宙的視点」で出来事を眺められるようになる、という考え方も素敵です(さすが過去世はお坊さん)。「人間は考える葦である」というパスカルの言葉がよぎりました。大自然の中、弱い立場の人間は思考する存在という意味ですが、現代、傲慢になった人間は、利己主義に走って成功を追い求め、自然を破壊しながら便利さを追い求め、仕事漬けの日々で考える時間を失ってしまったのかもしれません。
 その結果、地球や宇宙に罰せられるような天変地異や疫病に襲われるという……。自然と調和し、謙虚に生きる隠居こそが、人類を滅亡から救う存在なのでは? と思えてきます。ありがとう隠居。扁理さんの影響力如何で、もしかしたら人類は助かるかもしれません。(*編集部註 2~3ページは辛酸なめ子さんの傑作漫画です)。

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