地方メディアの逆襲

琉球新報「ファクトチェック」報道 編② 「覆面の発信者」を追う記者たち

地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 報道の現場と人を各地に訪ね歩く「地方メディアの逆襲」。先の沖縄県知事選挙を機に「ファクトチェック・フェイク監視」を始めた琉球新報に迫ります。

県知事選ファクトチェック報道の舞台裏
 〈虚構のダブルスコア/「偽」世論調査〉──。沖縄県知事選告示5日前の2018年9月8日、琉球新報が掲載した「ファクトチェック・フェイク監視」の最初の記事である。こんな内容だった。
 県知事選を巡る世論調査の情報が飛び交っている。一方の立候補予定者(玉城デニー)への支持が、もう一方(佐喜眞淳)をダブルスコアで上回る「朝日新聞の調査」とされる数字のほか、国民民主党など複数の政党の調査でも大差がついているとの情報がある。だが、琉球新報が取材したところ、朝日新聞社は「事実無根。調査は行っていない」と回答。国民民主党も調査を否定した──。
 一般に、選挙情勢で大差がつくと、優勢とされる陣営の運動が緩み、支持者が投票に行かなくなると言われる。逆に、負けている側は引き締まる。このデマを有権者が信じれば、選挙結果が歪む可能性がある。警鐘を鳴らす意味で、取材班キャップの滝本匠が執筆したのだった。
 フェイク、つまり偽情報の多くは出所不明だが、政治家や著名人の発信から広まる場合もある。同21日掲載の2本目、〈一括金、民主政権時に創設/「偽」候補者関与はうそ〉は、国会議員のネットへの書き込みが発端となった。経緯はこうだ。
 玉城が、自身の民主党衆院議員時代の実績として、「沖縄振興一括交付金の創設を政府与党(当時は民主)に直談判して実現にこぎつけたこと」だとFacebookに書いた。これを公明党の遠山清彦衆院議員がツイッターで「誇大宣伝」と批判した。自分は与野党PTのメンバーだったが、玉城は会議にいなかったとし、「デニーさん、ゆくさーです」と断じた。沖縄方言で「嘘つき」を意味する強い非難である。そして、沖縄県の要望を政府に飲ませたのは、当時野党だった自公の議員、つまり自分たちだと主張した。

遠山議員のツイッター投稿


 だが、調べてみると、遠山議員の主張は時系列が誤っていた。当時の首相補佐官が「(玉城からも)繰り返し要望を受けた」「(一括交付金に対し)自民公明の皆さんからは強い批判が多かった」とするツイッター上の証言もあった。このことを報じたのが2本目のファクトチェック記事だったが、この報道に遠山議員がツイッターで反論してきた。そこですぐ滝本は取材を申し込み、事務所へ本人を訪ねた。分厚いファイルに綴じた資料を広げ、遠山議員は自信満々に自説を語ったという。だが、滝本の目的は別にあった。
 「聞きたかったのは遠山議員のツイッター表現についてです。玉城氏に対し、『誇大宣伝』と言うのは主観的評価だからいいとしても、嘘つきと断定するのはどうか、と。玉城氏が国会質疑や官邸への提言で制度創設を求めていた事実はありましたから。その点を問うと、彼は『少し感情が入って強い表現だったかもしれない』と釈明した。それをまた続報で書いたというわけです」
 〈「『ゆくさー』は強い表現だった」/遠山氏、投稿を釈明〉というその記事は、投票3日前の9月27日に掲載された。フェイクとわかれば即座に、選挙期間中に打ち消すのがファクトチェックの要点の一つだった。投票終了後に「実はこんな話が……」と書いても遅い。もう一つは、この例が示すように評価や主観と切り分け、事実だけを淡々と書くこと。そして、「ネットに響かせる」ことも重視した。記事は速やかに自社のサイトやツイッターに上げ、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」のサイトにも転載されるようにした。ジャーナリストらが設立し、複数の報道機関と連携する専門団体である。
 こうして琉球新報の知事選取材班は、通常の選挙報道と並行して、投票日の同30日までに4つのフェイクを検証した。「元歌手の安室奈美恵さんが玉城を応援」という情報を、発信した本人に取材して打ち消した記事や、佐喜眞が公約に掲げ、菅官房長官も応援演説で語った「携帯電話料金4割削減」について「知事や国に権限はない」と指摘した記事は、ネット上で大きな反響を呼んだ。

県知事選の争点となった辺野古新基地建設現場(2019年2月)

 新たな視点を提供する選挙報道は、紙の読者にも確実に届いた。私が編集局を訪れた際、掲示板に一通のハガキが貼ってあるのを見つけた。購読30年以上になるという読者からだった。
 〈知事選ファクトチェックの企画を今後も続けてほしいと思い、初めてハガキを出します。私はスマホを持たず、フェイクニュースを見ることもありませんでしたが、耳にする情報が心配でした。「姿を見せず言いたい放題」を検証するのは大変でしょうが、事実を淡々と冷静に伝えてほしい〉
 記者にとって、読者の評価に勝るものはない。滝本たち取材班は大きな手ごたえを感じていた。
*FIJの掲載基準に合致し、実際に掲載された記事は2本だった。