弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第四十三回 「夜の街」という街は存在しない――ホスト達のクラスター対策(4)

クラスターの発生を公表した老舗ホストクラブ「ロマンス」。必ずしも順調な再開とはいかないなか、ホストクラブを経営することについて現在どのように考えているのでしょうか。業種そのものが「社会悪」と捉えられがちである現実。それでも二十歳前後でこの仕事に就くことを決め、歌舞伎町以外に行き場のないというホスト達の生活を守るために、現場は試行錯誤をつづけています。
次回からは不定期での連載となります。第四十四回は10月27日(火)更新予定です。お読みいただけましたら幸いです。

 第四十三回 ホストクラブ・ロマンス(4)

※ホストクラブの記事については拙著『夢幻の街~歌舞伎町ホストクラブの50年』(角川書店)の取材を参考にしています。詳細は下記URL。
『夢幻の街』連載サイト 

https://kadobun.jp/trial/kabukicho50/k1cyqgerkxsw.html

 六月二十日、老舗ホストクラブ「ロマンス」は、新型コロナウイルスのクラスターを経て、ようやく二度目の営業再開の発表を行った。
 SNSには次のような言葉が記された。

ROMANCEに勤務している従業員が
新型コロナウイルスに感染していることが判明し
保健所指導のもと全従業員のPCR検査並びに療養がすべて完了し
全従業員の陰性の確認が取れました事をご報告致します。
(中略)
店舗につきましては、保健所・医療従事者指導のもと
除菌・消毒作業を進め
皆様に安心してご来店頂けるよう準備が整いましたので
本日より営業再開とさせて頂きます。
何卒ご理解のほど宜しくお願い申し上げます。

 ちょうど二十日間の営業自粛を経て、ロマンスは再オープンにこぎつけることができた。
 店を再開するにあたって、もう一度感染防止策を見直すことにした。これまでのように国が示したガイドラインを守るだけではなく、シャンパンコールをする際はマスクだけでなくフェイスシールドもつける、ブランデーやウイスキーでさえストローで飲む、ヘルプが必要か確認した上で一席につけるのは二人ほどにするなどといった独自の決まり事をつくったのだ。
 とはいえ、クラスターを起こしたこともあって、ロマンスの営業再開は必ずしも順調というわけではなかった。事前に告知をしていなかったこともあるが、初日の二十日に来た客はわずか五組に留まった。それ以降も少しずつ増えてはきていたが、営業再開から一カ月ほど経っても前年に比べて五割程度だ。常連客は来てくれても、フリーの一見客の来店がないのが大きく影響している。
 一方で驚くのは、三十人強のホストを含む約四十人の従業員が一人として辞めていないことだ。自由出勤ということもあって、来たり来なかったりというホストはいるものの、コロナ禍前と変わらずに全員が店に籍を置いている。それは店への信頼があるからに違いない。

 今、ホストクラブを経営することを、どう感じているのだろうか。社長の三上麗の言葉である。
「ホストって、昼間の仕事ができないからやっているっていう子が多いんですよ。それにこの時期じゃ、昼間の仕事に就きたいと思っても、まともな学歴も職歴もなければ、見つからないですよね。ホストたちからすれば、歌舞伎町以外に行き場所がないっていうのが本音だと思います。
 店としてはそういう子たちがいる限り、しっかりと守ってあげるつもりです。だいたいうちが『クラスターが起きたから閉店します』って言ったら、店の寮に住んでいる子はどうなるんですか。ホームレスになりかねないですよね。社会からはホストクラブという業種そのものが悪のように捉えられていますが、そうじゃありません。きちんと感染防止対策を徹底した上で営業するというのがウィズ・コロナのあり方であれば、僕らはそれを守って堂々と働くべきなんです」
 ホストクラブの中には、ガイドラインを守らずにリスクの高い接客を行っているところがあるのは事実だ。またホストの一部は、店から一歩外に出れば感染防止策をとらずにはしゃぎ回っている。
 しかし、ホストクラブ全体からみれば、そういう店やホストの方が少数だ。真摯に取り組んでいる店は、自ら考え、出来る限りの行動をとっているのである。
 三上は言う。
「僕もそうですけど、幹部の中には妻子を持っている人もいますよ。そういう人間からすれば、家族に感染させてしまうことはものすごく怖い。だから、対策を徹底するのは当たり前なんです。それは他の業種だって同じことじゃないですか。当たり前のことを考えて、当たり前の対策を取った上で働いているのに、なんで僕らだけが文句を言われなければならないんですかね」

 では、そのことをホストクラブとして世間に主張するつもりはないのだろうか。社会に理解してもらうのも一つであるはずだ。
 その問いに、三上は苦笑して答えた。
「ホストクラブの経営者がそんなこと言ったって聞いてもらえないですよ。『どうせホストだろ』『どうせ女だまして食ってる奴らだろ』って言われて終わりです。違いますか? 僕だってそんな奴らにわかってもらおうなんて思ってない。そもそもそんなことを考えるくらいなら、ホストの世界になんていませんよ。批判する奴らのことなんてどうだっていいんです。僕は信頼して来店してくれるお客様だけに精一杯尽くしたいし、誠意を見せたい。彼女たちは僕たちを変な目で見ずに、きちんと話を聞いてくれる。正しいと思ってくれればついてきてくれる。そっちに労力を掛けた方がずっといいですよ」
 三上の主張はもっともだった。
 ホストクラブの経営者が、社会で起きたバッシングに対してSNSなどで反論したところで、黙殺されるか、叩かれるのは目に見えている。
 彼らは二十歳前後で歌舞伎町の夜の世界で生きることを選んだ者たちであり、困ったからといって国に泣きつこう、支援を求めよう、理解してもらおうなどとははなから思っていない。表の世界を捨てて、裏の世界で生きることを選んだ覚悟があるのだ。
 彼らが大切にしている信念は一つ。表の世界の人間たちに何と言われようとも、自分たちのところに来てくれる客を守り、大事にし、信頼関係を構築することだ。そういう割り切りがあるから、女性客とてホストを信頼する。ここには夜の街ならではの、価値観や倫理があるのだ。
 九月が過ぎた時点で、歌舞伎町のホストクラブにはだいぶ客足がもどってきた。ほとんどの店が感染対策を行い、なんとか経営が維持できるまでに回復してきている。それは、ホストたちが自分たちなりのやり方で、女性客から信頼を取り戻すことに成功したという事実を示しているのだろう。

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