弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第三十七回 なぜ歌舞伎町は「新型コロナの震源地」と呼ばれたのか(2)

緊急事態宣言の発令で自粛期間を迎えた歌舞伎町。オーナーたちの間では新型コロナ対策に関するLINEのグループがつくられ、人気ホストは女性客とのつながりを保つためにオンラインでの接待を試みていたといいます。しかし、ホストクラブは三割の人気ホストの売り上げで、七割のホストたちの最低限の生活を支えているような世界。稼ぎのない新人ホストはウーバーイーツなどのアルバイトで苦しい生活をつないでいました。

  ホストクラブ(2)

 ※ホストクラブの記事については拙著『夢幻の街~歌舞伎町ホストクラブの50年』(角川書店)の取材を参考にしています。詳細は下記URL。
『夢幻の街』連載サイト 

  https://kadobun.jp/trial/kabukicho50/k1cyqgerkxsw.html

 新型コロナの感染拡大が本格化した三月から、国や東京都は「夜の街」での感染拡大に警鐘を鳴らしてきた。にもかかわらず、緊急事態宣言の最中も一部のホストクラブは営業を行い、現実に感染拡大の一因となった。
 今回は、その背景について考えたい。

 三月の終わり、日本の繁華街にある飲食店は、新型コロナウイルスの感染拡大やそれに伴う客足の減少から、時短営業や土日の休業を開始していた。特に歌舞伎町では、外国人観光客が一気に激減したため、飲食店は早々に大打撃を被り、午後九時には閉めてしまうところも続出していた。
 歌舞伎町のホストクラブ街で本格的に客が減ったのは、三月も半ばにさしかかった頃だった。本連載で述べた六本木のクラブやパブに比べて少し時間差があったのは、ホストクラブの客の大半が社用ではなく、ポケットマネーで遊びに来ている客だからだ。だが、三月の下旬になると、さすがにそうした女性客の足も遠のきつつあった。
 この頃、歌舞伎町の主なホストクラブのオーナーたちの間で、新型コロナ対策に関するLINEのグループがつくられた。狭い街であるがゆえに、ホストクラブのオーナーは顔見知りであることがほとんどだ。そこでホストクラブ業界としての対応を決めるために、LINEを通じて意見交換が行われたのである。
 スマッパ! グループの代表である手塚マキは言う。
「経営者によって意見はバラバラでした。客が一人でも来る限りやるという経営者、国と歩調を合わせて休業すべきだという経営者、休業しろと言ったところでホストが裏っ引き(個人営業)に走るだけだと言う経営者などいろいろです。
 俺は休業したところでホストたちが黙っておとなしくしているわけがないと考えていました。それなら店を営業し、彼らを出勤させた方が管理できる。ホストクラブは、他の飲食店とはちがうんだから、営業を継続して店が責任をもってホストたちを統率するべきという意見だったんです」
 LINEでは多くの意見が飛び交ったが、まとまらないまま四月に突入し、いよいよ緊急事態宣言が出されることになった。
 この段階になり、ホストクラブはようやく営業自粛という決断を下す。すでに都知事の会見ではホストクラブが名指しされて対策を講じるように促されていたため、それを撥ねのけるのは賢明ではないという判断だった。業界最大手のグループダンディー、それにつづくエアーグループなどが休業を決めたことで、他の主なグループも倣った。
 老舗ホストクラブの愛本店の野口左近専務は言う。
「休業の前日に、従業員全員に集まってもらって決定をつたえました。いつまでという期限は出しませんでしたが、ゴールデンウイークの前後まで、おおよそ一カ月間くらいの想定でしたね。それまでは店の内部留保でしのごうという考えでした。
 従業員に驚きはありませんでした。やっぱり、といった感じですかね。休業をつたえた後、冷蔵庫にあったステーキからパスタ、それにスイーツまでをすべて従業員に配って食べてから解散しました。
 一応、店の決定で休業にしたので給与はそれなりに支払う約束もしました。内勤は社員扱いで月給制なので全額支給。ホストに対しては一日当たり五千円の支給となりました」
 他の主要なホストクラブでも一日当たりの保障額はだいたい同じくらいだ。なぜこの金額かということについては若干説明を要するだろう。
 ホストの仕事は月給制ではなく、最低保障と呼ばれる日当に加えて売り上げ等に応じた歩合が支払われる。最低保障については、新人の場合は時給に換算して千円くらいなので営業時間の夜七時から十二時までの五時間で五千円くらいということになる。通常はこれに加えて、月の売り上げ、指名料、その他皆勤賞などが上乗せされた額がその月の収入となるが、営業していなければ当然この上乗せ分はない。そのため、店側は緊急事態宣言による休業の時期は、この最低保障分だけを支払うことにしたのである。
 大企業に比べれば、条件は決して良くない。しかしクラブやパブなど女性が働く店の大半では、こうした最低限の支払いさえなされなかったことを考えれば、ホストクラブはまだ良心的だといえるかもしれない。

 緊急事態宣言から数日間、歌舞伎町のホストクラブ街は死に絶えたような静けさにつつまれた。店のネオンが消え、毎晩午後七時を過ぎるとどこからか湧き出るように現れるホストたちの姿はなくなった。
 この間、仕事を失ったホストたちの行動は様々だった。寮でホスト仲間と遊んで時間をつぶす者、ウーバーイーツなどでアルバイトをして生活費の不足分を補おうとする者などだ。
 特徴的だったのは、人気ホストの多くがオンラインで女性とつながりを持ちつづけようとしたことだ。緊急事態宣言の最中に「オンライン飲み会」などが流行ったが、それと同じような形でLINEのビデオ通話、ツイキャスなどで女性客をオンラインで接待したのだ。中には、ポコチャという、配信に対して得られるポイントを現金化できるアプリをつかった飲み会によってそれなりの額を稼ぐ者もいた。
 先述の野口は言う。
「やる気のあるホストは、営業自粛期間中でもオンラインで稼ごうとか、お客さんをキープしようという野心にあふれていましたね。最初は家でやっていたのが途中から『配信をするんだけど、雰囲気を出したいから店を貸してほしい』と言ってくる人もいました。店で客とオンラインでつながることで、ホストクラブに遊びに来ているような感覚になってもらおうとしたのです。人気ホストの間では結構流行っていて、店側もどうせなら利用してほしいということで、一日数人に貸して、それぞれのテーブルで配信をしてもらっていました」
 ホストの仕事は指名客をつかんで、店で飲み食いしてもらうことだ。自粛期間中に必要なのは、会えない時期でもきちんと関係を維持し、営業再開となった時にすぐに呼び寄せられるようにすること。そうでなければ、自粛が終わって店が開いても、収入がもどることはない。人気ホストにしてみれば、自粛期間でもっとも怖れていたのは客とのパイプを失うことだったのである。
 一方、指名客をほとんど持っていない新人ホストは違った。彼らはオンラインでつながる相手がいなかったし、なにより貯金がなく、一日五千円等の最低保障だけでは暮らしていけないためアルバイトを余儀なくされた。
 ホストクラブは三割の人気ホストの売り上げで、七割のホストたちの最低限の生活を支えているような世界だ。コロナ禍によって、ホストの間の格差が一気に表面化したと言えるだろう。

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