弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第四十二回 「夜の街」という街は存在しない――ホスト達のクラスター対策(3)

6月、歌舞伎町の老舗ホストクラブ「ロマンス」は店内でクラスターが起きたことを公表し、お客に感染した可能性がないか濃厚接触者の洗い出しにかかりました。迅速な公表に踏み切ったことで感染拡大は食い止められたものの、営業中にまた誰かが感染しないとも限らず、しかし店としてはもう自粛に追い込まれたくない。再スタートに向けて準備をすすめるなか、誰もが迷惑を掛けまいと必死でした。

  第四十二回 ホストクラブ・ロマンス(3)

※ホストクラブの記事については拙著『夢幻の街~歌舞伎町ホストクラブの50年』(角川書店)の取材を参考にしています。詳細は下記URL。
『夢幻の街』連載サイト 

https://kadobun.jp/trial/kabukicho50/k1cyqgerkxsw.html

 五月三十日、老舗ホストクラブ「ロマンス」で、最初の感染者が出た。
 店のホストや内勤をはじめとした従業員は、六月三日に歌舞伎町にある大久保病院でPCRの集団検査を受けることになった。ホスト同士が接触しないように十五分ほど間隔を空けて検査は行われた。検査費用は一人につき五千円だった。
 従業員のうち六、七人は前日か前々日にすでに検査を済ませていた。社長の三上麗もその一人だ。三上は数日前から体調を崩していたこともあって、一刻も早く受けなければという思いから、六月二日に個人のつてをつかって別の医療施設で受けたのだ。
 保健所での集団検査の結果は予想もしていなかったものだった。従業員約四十人のうち十八人の感染が明らかになったのである。このうち五人はホテルではなく、病院へ入院することになった。三上もまた微熱だけでなく、軽度の肺炎が認められたことで、杉並区内の病院に入院するよう指示された。また、従業員の中ではもっとも年上の料理担当の従業員も入院が決まった。

 この間、店の陣頭指揮は三上の代わりに、専務取締役のSが行うことになった。不幸中の幸いで、彼は陰性との結果が出ていた。普段は、店ではなく、事務所で経理などの事務作業をしていることから集団感染を避けられたのだろう。
 Sは店のSNSをつかって、従業員全員がPCR検査を受けたこと、そこで新たな感染者が出たことを公表した。そしてこう呼びかけたのである。

5月30日に新型コロナウイルスの感染が確認されてから営業自粛しておりますが
6月3日 全スタッフに1回目のPCR検査を行ったところ、新たに感染者が確認されました。
また6月8日 2回目のPCR検査を全スタッフに実施しました。
当店ご来店のお客様に関しましては5月30日のスタッフ感染確認以降、PCR検査の協力をお願い致しております。
以上を経過報告とさせて頂きます。
ご連絡先が分からずこちらから報告できないお客様もいらっしゃいましたので、心当たりのある方はお手数ですが保健所にご相談お願いします。
皆様にご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。
店舗につきましては、保健所・医療関係者にご協力のもと店内確認をしてもらい今後の感染防止対策について助言していただきました。
営業につきましては現在の陽性者を含め全スタッフ陰性確認後、再開の検討をしますので宜しくお願いします。

 保健所から指導を受けた際、クラスターが起きたことを公表する義務はないと言われていた。世間からの誹謗中傷が集まることを心配しての助言だった。
 だが、ロマンスはあえてそれとは真逆の行動をとった。SNSを通して自ら店でクラスターが起きたことを発表したのだ。その真意は何だったのか。
 三上は言う。
「五月中に来ていたお客さん数人と連絡が取れていなかったんです。普通はSNSでつながっているんですが、何人かはたどることができなかった。だから店としてきちんと公表して、お客さんがいち早く検査を受けられるように発信したんです。そうしなければ、お客さんからまた別の人たちに感染者が広がってしまう。それを恐れていました」
 その結果、女性客のうち三人に感染が確認され、ホテルで二週間ほどの隔離生活を過ごすことになったという。もし公表を躊躇っていれば、その分だけ感染が拡大していた危険性があっただろう。
 五月三十日からはじまった二度目の休業だが、営業再開は従業員全員の検査結果が陰性になってからと決めていた。最初はホテルで隔離生活を送っていたものの、途中から体調を悪化させて入院した者もおり、すぐに全員回復とはいかなかった。
 ただ、そんな中でホストたちを元気づけたのは、感染したホストを心配する声や、店の再開を待ち望む声、それにクラスターが起きたことを公表したことへの感謝の声が常連客から多数寄せられたことだ。店のことを知っている人たちは誰一人として、今回のことを批判することはなかった。店の決断は間違っていなかったのだ。
 六月の十五日頃、保健所から待ち望んでいた連絡が入った。最後に入院していた従業員が二十日に退院する予定だという。すでに一回目の検査では陰性と出ており、二回目の検査でも同じ結果が出れば、元の業務体制に戻ることができる。この退院に合わせて、ロマンスは二十日を営業再開予定日とすることにした。
 三上は語る。
「常連さんから『営業再開はいつか』と問い合わせがありました。訊かれれば、『二十日を予定しています』と答えていましたが、店としては公表していませんでした。やはり本当に陰性の検査結果が出るかわかりませんでしたし、その間に誰かがまた感染しないとも限らない。ただ営業再開の準備だけは進めていて、正式に退院が決まった時点で再スタートを切ることにしたんです」
 先に、ホテルや病院で陰性結果が出て自由になった従業員たちも、自宅待機を守り毎日検温をして結果を店側につたえた。再び陽性者が一人でも出れば、店は二週間近く営業自粛に追い込まれる。誰もが迷惑を掛けまいと必死だった。
 そしてついに、六月二十日の二度目の営業再開を迎えるのである。

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