確認ライダーが行く

第11回 3Dの確認

 ここ最近、ハラハラして観た3D映画といえば、アメリカ映画『ザ・ウォーク』。ニューヨークの高層ビルにワイヤーを張り、綱渡りをする男の物語だ。地上411メートル。命綱なし。当然、綱渡りのシーンが最大の見せ場になるわけだが、これぞ3D、実際に歩いているような感覚になり、もう息が詰まりそう……。こっちの気持ちも知らないで、男はワイヤーの上に座ってみたり、さらには寝転んでみたり。ハラハラを通り越し、ちょっとイライラしてしまった。実話(!)なのだそうだ。
『エベレスト3D』も、なかなかリアルだった。エベレスト登山に挑戦する登山家たちの物語で、こちらも1996年に実際に起きた遭難事故をもとにして作られている。タイトルに「3D」をつけているくらいだから、映像の中で舞い上がる雪は、客席に降りかかってくるかのよう。エベレストの雪など触ったことはないはずなのに、なんだか知っている気になっている。
 3D映画。
 目が疲れるし、肩も凝る。わかっているのに、なんだかんだと観に行ってしまう。詰まるところ、好きなのだ。

 初めて観た3D映画を覚えていないのがくやしい。驚いたはずなのに、まったく記憶にない。
 同世代の知人にこの話をしたら、初めての3D映画は覚えていないが、子供の頃、家のテレビで立体アニメーションを観たのは覚えていると言われた。70年代、日本テレビで放送されていた『家なき子』というアニメだそうだ。
 昭和の時代に、そんなハイテク番組が? Wikipediaで検索してみたところ、確かにある。特殊なメガネがなくても視聴することは可能だが、メガネをかけると、より立体に見えたようだ。
「そのメガネ、どうやって入手したの?」
「もらったような、配られたような、買ったような……」
 知り合いも、昔のことなのであやふやとのこと。
 昔のことと言えば、うちの両親が新婚時代に観たという映画。
「飛行機がホンマに飛んでるみたいで、観てるだけで酔った」
 母が話していたのを覚えている。酔って具合が悪くなり、翌日、夫婦そろって会社を休んだ、というオチまである。
 なんという映画だったんだろう?
 母に電話すると、『80日間世界一周』だと言う。酔うほど激しい内容だったのだろうか? DVDを借りて観てみたが、主人公たちが乗っていたのは、飛行機ではなく気球だった。
 おそらく、父と母が酔った映画は、1954年に公開された「紅の翼」というアメリカ映画ではないかと思う。あらすじを読むと、旅客機が暴風につっこみ、さらに火を吹くとあった。
 この映画は、シネマスコープと呼ばれる横長の大型スクリーンで上映されており、かなりの迫力だったようだ。今の3D技術とは比べものにならないのだろうが、当時の人々は映画の中に入り込んだような気分で大興奮したに違いない。

 一生のうちで経験できることなどほんのわずか。たくさんの知らない世界に別れをつげ、我々は死んでいく。
 うちの母にしても、初めて本物の飛行機に乗ったのは、数年前にわたしと行った沖縄ツアー。それがなければ、シネマスコープで観た映画だけが、母の飛行機体験になった可能性もある。
 しかし、たとえそうであっても、映画『紅の翼』を観たのと観ていないのとでは、彼女の人生においての「飛行機経験値」は同じじゃない気がする。
 人生は一回ぽっきり。
ならばせめて、3D映画の力を借り、高層ビルを綱渡りしたり、エベレスト登山したりしてみたい。『ゼロ・グラヴィティ』では宇宙空間へ、『ジュラシック・パーク』では蘇った恐竜たちを仰ぎ見たい。生きられなかったいくつもの人生を確認するため、わたしは3D映画にちょいちょい通っているのではないかと思う。