弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第三十八回 なぜ歌舞伎町は「新型コロナの震源地」と呼ばれたのか(3)

緊急事態宣言下、歌舞伎町のホストクラブ街は死に絶えたような静けさにつつまれていました。しかし数日と経たないうちに、歌舞伎町のネオン街には一つまた一つと灯りが灯り始めます。なぜ早々に営業再開へと踏み切った店が出てきたのか。その背景にはホストクラブ間に存在する格差や特異なビジネスモデルがありました。

  第三十八回 ホストクラブ(3)

※ホストクラブの記事については拙著『夢幻の街~歌舞伎町ホストクラブの50年』(角川書店)の取材を参考にしています。詳細は下記URL。
『夢幻の街』連載サイト

 https://kadobun.jp/trial/kabukicho50/k1cyqgerkxsw.html

 緊急事態宣言によって、主要なホストクラブは一斉に営業自粛を決めた。その間、ホストたちはオンラインで客とつながったり、ウーバーイーツで生活費を稼いだりするなどして自分なりに生きのびる道を探していた。
 だが、歌舞伎町のホストクラブがすべて右へ倣えで休業へと舵を切っていたわけではなかった。緊急事態宣言から数日と経たないうちに、「A店は営業をしている」「B店は三日で再開したらしい」という噂が広まった。消えていたはずのネオン街に、一つまた一つと明かりが灯りはじめたのである。
 なぜホストクラブは早々に営業再開したのか。その背景には、ホストクラブ間の格差やビジネスモデルの特質があった。

 ここ十数年、ホストクラブ業界はグループ化の波が押し寄せていた。最大手のグループダンディをはじめとして、エアーグループ、冬月グループ、KGプロデュース、シンスユーグループなど複数の店舗を持つグループが幅を利かせていたのである。グループダンディに至っては、ホストクラブだけで三十店以上、ホストの数は千人を超えていた。
 また、各グループはホストクラブ以外にも多角経営に乗り出していた。レストラン、トレーニングジム、メディア、美容、芸能プロダクション、はたまた介護事業にまで進出していたのだ。これによって各グループは水商売だけに留まらない様々な収益の形を持っていた。
 一方、二百四十店以上といわれる歌舞伎町のホストクラブの中には、グループに属さずに単一店舗で営業していた店があった。こういう店はもともと資金繰りが厳しいことが多い。特に歌舞伎町でテナントを借りて、数十人の従業員を雇っていれば、休業期間中であっても月数百万円の赤字が流れ出ていく。ギリギリでやっている店はあっという間に倒産に追い込まれかねない。
 そこで弱小店は、主要グループが休業を決めた後も、自主的に営業をつづけることにした。女性客の数は減り、堂々と店を開けることが憚られるとはいえ、少しでも赤字を抑えられればという気持ちだった。
 中堅ホストクラブのオーナーは語る。
「緊急事態宣言の間も、いくつものホストクラブが営業しているという話がすぐに入ってきました。聞いて思ったのは、『このままだと、うちの店がヤバくなるな』ということです。そっちの店に客が入りはじめてしまったら、ライバル店であるうちの客まで取られかねない。一度そうなったら、一、二カ月後に再開したってもう遅いですからね。今度はこっちがつぶれかねない」

 こう語る背景には、ホストクラブの特異なビジネスモデルが関係している。
 ホストクラブは、店自体が客を抱えているわけではなく、従業員であるホストについている。たとえば、ラーメン店やケーキ屋では、お店の商品を目的にお客さんが集まるので、レジ打ちの人が変わったからといって客足が途絶えることはない。だが、ホストクラブでは、ホスト自身が女性客をつかんでいるため、そのホストが他の店へ移籍してしまえば、女性客もそっちへ流れることになる。
 前回、大手ホストクラブが休業に際して、ホストたちに日に五千円ほどの最低保障を支払いを決めたことを書いたが、その理由の一つは客を持っているホストたちを店に留めておくためだ。人気ホストさえ在籍していれば、いつでも店を再開することはできる。
 だが、その理屈が成り立つのはあくまで歌舞伎町のホストクラブ全体が休業していることが前提だ。同じ歌舞伎町で営業しているホストクラブがあるならば、ホストの中には五千円なんていらないから、そっちの店に移籍をして女性客を呼んで稼ぎたいと考える者も出てくる。
 実際に歌舞伎町の近辺にアパートやマンションを借りて、日に五千円で生活が成り立つわけがないので、貯金がないゆえにそうした道を選ぶ者が出てくるのは仕方がないだろう。
 ホストクラブにとってこれは、経営を根本から揺さぶられるゆゆしき事態だ。休業している間に、店の人気ホストに移籍されてしまえば、店そのものが成り立たなくなる。そのため、グループに属する店の中でも「他の店がやっているなら」という理由で、四月の十五日を過ぎたあたりから営業を再開する店が出てきたのだ。

 では、なぜグループとして営業自粛の方針を打ち出していたにもかかわらず、店側はそれを破ることができたのか。これは契約によるところが大きい。
 エアーグループの会長である桐嶋直也は言う。
「ホストクラブのグループって、各店舗と個別に契約を結んでいるのが普通なんです。うちは十二店舗のうち四店がフランチャイズで、それ以外が直営です。フランチャイズはもちろんですが、直営店でもそれぞれの店の社長と個別に契約をしているので、こちらの意思決定を百パーセント押し付けることができない。なので、エアーグループの会長として僕が『しばらく休業しよう』と言ったところで、最終的にはそれぞれの店の社長が判断することになるんです」
 ホストクラブは企業として成長するために、ホストたちに「エースになって一国一城の主になれ(店を持て)」と鼓舞する。ホストの方もいつまでも現役でいられないし、収入を増やすために、ある程度のところまで行けばグループ本社から融資を受け、新店舗を出して社長になる。
 この際、ホストはグループ本社と個別に契約を結んで出店するのだが、細かい条件は店によって異なる。グループ本社が店に関するほぼすべての権限を握っていることもあれば、営業に関することは現場の社長に決定権が委ねられていることもある。そのため、グループに属していても、現場の社長が決定を下せば再開することができる店が多数あったのだ。

 先の中堅ホストクラブのオーナーは語る。
「休業中も、女性のお客さんの方からもオープンしてくれという要望は少なからずあったね。女性の方もホストクラブ以外に行き場所がないから、休業されても困るって感じなんだよ。コロナになることを怖がってない人も多いよ。たとえば、リスカをしまくって『死にたい』とか口癖のように言っている風俗嬢が、コロナのことを一々怖がるわけがないでしょ。彼女たちにしてみれば、コロナよりホストクラブが閉まって独りぼっちになることの方が怖い。そういう子たちが店に来たいって言ってきて、店としても経営をつづけなければつぶれるということであれば、そりゃやるよね」
 すでにこの連載で述べたように、デリバリーヘルスなど無店舗型の風俗店は、緊急事態宣言の最中も通常営業していた。そういう女性たちは普段と同じように仕事でストレスをためているし、減ったとは言え日銭は稼いでいる。だからこそ、これまで通り心のよりどころであるホストクラブの営業を望んだのだ。

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