弱き者が見殺しにされる国 -新型コロナウイルスの猛威の陰で-

第三十九回 なぜ歌舞伎町は「新型コロナの震源地」と呼ばれたのか(4)

五月以降、数多くのクラスターが発生したホストクラブ。そこで新宿区は店のオーナーたちと協力し「新宿区繁華街新型コロナ対策連絡会」を立ち上げました。感染者が出たら店を休み、スタッフ全員がPCR検査を受け、お客さんの情報を提供するという流れが生まれたのです。検査に協力することによって歌舞伎町での感染確認者数は急増。しかし、感染経路を追えるようになったにもかかわらず「夜の街」に対する視線は厳しくなっています。

  第三十九回 ホストクラブ(4)

 ※ホストクラブの記事については拙著『夢幻の街~歌舞伎町ホストクラブの50年』(角川書店)の取材を参考にしています。詳細は下記URL。
『夢幻の街』連載サイト 

https://kadobun.jp/trial/kabukicho50/k1cyqgerkxsw.html

 四月の十日から二十日過ぎにかけて、歌舞伎町のホストクラブは続々と営業を再開しはじめた。
 ただ、店側もオープンすることへの後ろめたさもあったのだろう。店のサイトでは告知せず、ホストがSNSでつながっている常連客のみにダイレクトメール等で営業再開をつたえて呼び込んだ。逆に言えば、この時期は一見の客が来る可能性がなかったので、こうした形で十分だったのだ。
 スマッパ! グループのいくつかの店舗も、四月の下旬には営業を再開していた。会長の手塚マキは言う。
「昔も今もホストって社会のアウトサイダーで、イケイケのノリでなければやっていられないところがあります。大体の子は二十歳前後でその日が楽しけりゃいいって考え方だから、自分の親ほども年齢がちがう幹部やオーナーが『アパートで静かに自粛していろ』って言ったって耳を傾けるようなタイプじゃないんです。
 そんな彼らだからこそホストクラブという枠組みは必要なんです。店に所属して、プロのホストとして成功することを目指しているから、毎日出勤してくるし、決まったルールの中で頑張ろうとする。もしその枠組みがなくなったらどうなるのか。確実に暴走しますよね。女の子を外へ呼び出して派手な遊びをし、場合によっては金を引っ張ったりすることもあるかもしれない。それはそれで非常にリスキーなことです」
 女性客についても同様のことは言えるだろう。自粛期間中も休まずにデリヘル等で働いていた風俗嬢たちからすれば、日々のストレスのはけ口をホストクラブに求めるしかない。もしホストクラブが休業していれば、SNSを通して直にホストに連絡を取り、外で憂さ晴らしをすることになる。そうなれば、より感染が拡大するのは明らかだし、寮などを通してクラスターが起こる可能性もある。それなら、手塚マキの言う通り、感染リスクを抑えながら営業をつづけた方がいいという意見にも一理あるのだ。
 だが、すべてのホストクラブが、手塚マキのような考えで営業再開していたわけではなかった。別の店のオーナーは言う。
「スマッパ! の手塚さんみたいなご立派な意見を持っている経営者は稀ですよ。四月に営業していた店は、『お上の意見なんて知るか』とか『他の店がやっていない間に少しでも多く稼いじまおう』みたいなノリがほとんどだった。店の中でマスクをしているホストの方が珍しかったし、アフターに行くスナックやレストランも閉まっていたので営業終了後も店で騒いでいた。
 若いからコロナになっても平気というより、そもそもコロナって何かよくわかっていない人が多かったんじゃないかな。若い子はニュースなんて見ないし、理解しようなんて考える人も少ない。それがホストなんですよ。ホストもお客さんも、そういうノリじゃなきゃホストクラブになんてこないでしょ。だからコロナの感染リスクとか不安とか初めから考えてなかったというのが真実じゃないかな」
 最初に述べたように、ホストクラブの存在意義は、様々なものを背負った若者たちが乱痴気騒ぎの中ですべてを忘れて満たされた気持ちになり、また翌日も生きていこうと思わせることだ。そうした後先を考えない刹那的な特質が、緊急事態宣言下の不用意な行動につながったのだろう。逆に言えば、それはホストクラブが宿命的に抱えているものなのだ。

 東京都内の緊急事態宣言は五月二十五日までつづいたが、ホストクラブの大半は遅くとも五月の連休明けには営業を再開していた。だが、その代償はあまりに大きかった。この期間に十分な対策をとらずに営業していたことで、五月以降、数多くのホストクラブでクラスターが起きることになったのだ。
 五月から六月にかけて、ホストクラブは新型コロナの震源地と呼ばれ、批判が集まった。事実、都内の新規感染者の三分の一から半数が「夜の街」という日も少なくなく、それを見ればホストクラブが感染拡大の中心になっていると受け止められてもおかしくはないだろう。それでもホストクラブは今更店を閉じるわけにはいかず、かといってどう予防すればいいのかわからず、これまで通りの営業をつづけていた。
 この状況に対応を迫られたのが新宿区だった。もはや自治体としてホストクラブに対して感染防止策を働きかけるしかない。
 新宿区長の吉住健一が頼ったのが、スマッパ! グループの手塚マキだった。区長に就任する前に知人からマキを紹介されたことがあり、その後も歌舞伎町商店街振興組合を通して何度か顔を合わせていたのだ。
 六月一日、吉住区長は電話で彼に言った。
「新宿区は歓楽街での感染拡大を抑えなければならない状況にあります。区としてはホストクラブと敵対するつもりはなく、協力して二次感染を防ぐ対策を取っていきたい。そのためにどうすればいいか教えてくれませんか」
 マキはすぐに新宿区役所へ行き、吉住区長と話し合いの場を設けた。行政としてはホストクラブで二次感染を予防する対策を取ってもらい、同時にホストたちへのPCR検査を実施したいと考えていた。ただ、それをするにはホストが抱いている行政に対する不信感を払拭しなければならない。
 考えた末に、マキは言った。
「行政とホストクラブが話し合える場をつくってください。俺の方で知り合いのオーナーたちに声を掛けますので、行政は彼らにきちんと自分たちの姿勢を示してください。そこで理解が得られれば、オーナーたちは協力してくれるはずです」
 協議の末、同月十八日には「新宿区繁華街新型コロナ対策連絡会」が立ち上げられ、一体になって感染防止対策を取ることが正式に発表された。後に「新宿モデル」と呼ばれるものであり、店内の消毒の仕方や営業にあたってのガイドラインを示し、店ごとに検査を受けて陽性者の洗い出しをしたのだ。七月までの間、さかんにホストクラブでの感染者が注目されたのは、そうした結果ともいえる。
 ただ、こうした中で、ホストクラブやその従業員たちがどのような現実に直面し、何をしていたのかはあまり知られていない。次回は、新宿モデルができる前、五月にクラスターを起こした老舗ホストクラブについて見てみたい。

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