地方メディアの逆襲

第3回 ドキュメンタリーは生きている

毎日放送「〈映像〉の系譜」編

地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 報道の現場と人を各地に訪ね歩く「地方メディアの逆襲」。ドキュメンタリー「映像」シリーズの放送を長年続ける大阪・毎日放送に迫ります。

バッシングを追い、自らバッシングを受ける
 視聴率とは異なる意味で、放送前から異様な注目を集めた斉加の番組がある。2018年12月放送の『バッシング~その発信源の背後に何が』。安倍政権下で、大学の研究者や弁護士、マスメディアに向けられた言論封殺を目的とする攻撃を取り上げたものだ。政府に批判的であったり、異論を唱えたりする者を「反日」と決めつけて叩く言説が、ネットを介して燎原の火となる。発信源には、与党議員やシンパと見られる扇動者たちがいた。
 斉加は、バッシングを受けた当事者に取材したうえで、その発信者たちに次々と当たっていく。だが、彼らは揃って、耳を疑うような言葉を語る。
 たとえば、「科学技術研究費助成事業(科研費)が反日プロパガンダに使われている」と国会質問をした自民党の杉田水脈衆院議員。「慰安婦は捏造」との主張を繰り返し、この問題を性暴力と見て研究する牟田和恵・大阪大学教授に矛先を向けた。〈税金を反日活動に使われることに納得がいかない〉〈(科研費データベースで)人名を検索すれば誰がどんな研究で幾ら貰ったかすぐわかります〉と、ツイッターで「科研費監視」を呼びかけた杉田議員は、しかし、斉加が取材を申し込むと、こう言って断ってきた。「科研費に詳しくないのでインタビューは受けられない」──。
 裁量労働制の対象拡大をめぐり、厚労省の不適切データを検証した上西充子・法政大教授に対しては、自民党の厚労部会長だった橋本岳議員が〈噴飯ものもいいところ〉と強く批判する文章をFacebookに投稿した。政府に都合の悪い研究者を恫喝・中傷する政治介入と言えるが、取材に応じた橋本議員は「感情的になって筆が滑った」と笑いながら言い、悪びれる様子もない。
 さらに、杉田議員の「LGBTには生産性がない」という寄稿を発端に廃刊となった『新潮45』の問題。保守系雑誌『月刊Hanada』は「朝日新聞が最初に杉田論文を問題視し、新潮社社員と連動して雑誌を潰した」とする記事を載せたが、最初に報じたのは毎日新聞だったと斉加が事実を示すと、花田紀凱編集長はあっさり認め、やはり笑いながら言う。「そうなんだよね。それはね。でも、毎日新聞(への批判)は弱いんですよね」「毎日じゃあ(雑誌は)売れない。やっぱり朝日新聞じゃなきゃ」。

『バッシング』の一場面(MBS提供)

 私が最も驚いたのは、この連載の琉球新報編でも触れたブログ「余命三年時事日記」の主宰者から斉加が引き出した文言の数々である。同ブログは、朝鮮学校への補助金支給を求める日弁連の会長声明に賛同した弁護士や在日コリアン弁護士たちを標的にし、読者に懲戒請求を呼びかけた。声明や民族問題に関わりのない弁護士にも飛び火し、その一人、佐々木亮弁護士に届いた懲戒請求書は3000件にも達した。斉加はブログ主宰者の住所と電話番号を調べ、接触を試みる。ちょうど琉球新報取材班が彼を追っていたのと同時期だ。同紙記者には着信拒否だった電話が、カメラの前でつながる。そして、ブログ主は滔々と自らの主張を語り始めた。
 「(懲戒請求の)呼びかけなんかしてません、別に。事実関係を書いただけで。在日朝鮮人の闘いの方向が日本乗っ取りという形で進んでいるだけの話で。事実乗っ取られているというのは、これは間違いがないので」
──間違いなく乗っ取られてるんですか。日本弁護士連合会が?
 「全部抑え込むだけの力がある。そういう組織、お金を持ってるところはどこだと言えば、わかるでしょ」
──それは在日の人たちなんですか。
 「(当然だという調子で笑い)そりゃ誰だってわかるわな。何千万何億とお金が動いて抑え込んでるわけだから。いわゆる弱者の知恵で、どういう形でやるのが日本乗っ取りに有効かと一生懸命考えてやってきたわけですから。それが今、結果を出してるということですよね」
 荒唐無稽な陰謀論を得々と話す男の感覚に驚くが、さらに信じ難い言葉が続く。
──じゃあ書かれたんですね? ブログを。
 「実際に書いているものっていうのは、初期のあれなんか単なるコピペですからね。(コピペ?と聞き返すと)コピペですよ。他のいろんな情報なんかの。本人の体験というものは、ほとんど入ってないんですね」
──じゃあ作り話ですか。
 「作り話じゃないですよ。事実をコピペしているだけで。何の変哲もない普通のコピペブログですよ」
 筆者が「コピペ」と明言するブログを書籍化した出版社「青林堂」へも、斉加は取材を申し込む。拒否されるのだが、ここから自身へのバッシングが巻き起こる。青林堂のツイッターが、斉加の実名と取材依頼をめぐる虚偽の経緯を流し、「ブラック記者」と攻撃し始めたのである。
 こうして、番組は放送前からネットで炎上する。青林堂のツイート以降の6日間で、斉加を名指しするツイートは5000件を超えたと番組は最後に明かし、発信者の分析結果をこう説明している。
 〈その発信源を調べると、ランダムな文字列のアカウント、つまり「使い捨て」の疑いが一般的な状況に比べ3倍以上も存在した。およそ2分に1回ひたすらリツイート投稿するアカウントも複数存在した。取材者を攻撃する発言数が最も多かったのは「ボット」(自動拡散ソフト)の使用が強く疑われる。つまり、限られた人物による大量の拡散と思われる〉
 攻撃は放送後も続いた。番組当日から放送後10日間までの投稿を調べたところ、斉加の名前を含むツイートは4万7007件。リツイート数の上位50件のうち、39件が否定的な内容だった。ところが、MBSにメールやファックスで寄せられた反応は違った。番組への感想は85件に上り──これ自体、異例の多さだ──うち61件が肯定的な評価だった。
 番組は、ネット上で巻き起こるバッシングの発信源と構図に迫るとともに、それらが実際の視聴者の反応とは一致しない、それどころか真逆である可能性を、図らずも明らかにしていた。