単行本

加納さんの脳みそをカンニングしちゃおう
加納愛子『イルカも泳ぐわい。』書評

Aマッソ加納さんの初エッセイ集『イルカも泳ぐわい。』を、親友フワちゃんに書評していただきました!
PR誌「ちくま」12月号に入り切らなかった分まで、完全版でお届けします。
実は、あのエピソードもフワちゃんのことだったそうです。

 つるみ歴6年目、つむじの先からお尻の穴まで仲良しのウチら!! 来る日も来る日もつるんできたけど、加納愛子はやっぱり風変わり!
 みんなが憧れる一生モノの天才は、毎日なにを考えているんだか! みんなよりちょっと近くで見てきたフワちゃんが、今日はこっそり教えちゃいます。
 加納さんとフワちゃんはこの世で一番仲良しだから、よく他の後輩から加納さんとの付き合い方を相談されます。
 遊んだ後輩から相談されること堂々のナンバーワン「加納さんの言ってることがよくわかんないのにわかったフリして笑ってしまいます」。
 なんて不名誉な後輩達でしょう。でもこれは言い切れます。加納さんが悪いです。
 加納さんは、結論が変すぎる。急に、「マイナス×マイナスって数学的にはプラスになるやん。それが現実世界では米の収穫やねん」って言います。馬鹿なフリして「どういうことやねん」って踏み込める後輩なんて東京にはいません。みんな天を仰ぎながら「ナルホド。。」を絞り出しているというのに加納さんは相変わらずおかしなことばかり言ってきます。
 でも加納さんって結論が急すぎるだけで、思考回路をイチから辿れば、ほんのちょっとだけ本心で「ナルホド」って言えるようなことは言っているような気がします。ずっと一緒に過ごしているとわかってくるんです。加納さんって、好きなモノと嫌いなモノがちゃんとある。自分の信念にルーツがある。
『イルカも泳ぐわい。』は、そんな加納さんの思考回路を堪能出来る(全く出来ない回もある)エッセイ集です。
 表題作の「イルカも泳ぐわい。」。
 加納さんが、自身の好きなモノについて書くエッセイ王道のフォーマット。……っていうのはひっかけ!
 普通なら絶対フォーカスされない、高僧(たかそう)・野々村さんの漫才中のツッコミ「イルカも泳ぐわい。」が、小粋でウキウキするリズミカルな文章でぐいぐいフィーチャーされています。加納さんの好きなモノへの「情熱」がビンビン。これこれ。このモード。後輩全員が覚悟を決めるこのモードです。好きなモノって言っても、バスケが好き。とか乃木坂が好き。とかの話じゃない。加納さんが真っ先に好きと語るのは「イルカも泳ぐわい。」なんだから。
 題材はコアだし、好きな理由もテッパンなんかじゃ到底ない。でもそこには確かに加納さんだけの思考回路があって、加納さんだけの哲学があるんです。枠だけに共感して楽しむなんて粋じゃないこと加納さんはしません。(フワちゃんは平気でする。タピオカ好き集まれ〜)
 好きなモノへのアプローチから見えてくる大本の生き様や信念。加納さんのそんな根底の部分を、この作品を読むことで、ちょっと遠回りして感じられると思います。
 加納さんの哲学って、アウトプット先が自分に向けられるとパニクるけど、こっちから覗きにいくとすっごい面白い。この思考回路はホルマリン漬けにして大切に保存すべき!!(たまに取り出して指でぷにぷにしちゃお)
「−−不必要なものだけを堪能できるようになれば、それは最高の娯楽になるはずだと、私は信じている。」
 あたしが特に大好きなのは、加納さんのこういうところ。これこそ、加納さんの哲学。人生に転がる美しいムダは、囓ってみたらとびきり美味しいのに。そんななんとも愛おしいジレンマを、心躍るジューシーな喩えをたくさん使って教えてくれました。


 加納さんは、私が何気なく言った一言にも「今の言葉ええわ!」って言うことがあります。「ジュースどっちか迷った時はどっちも買う」みたいななんでもない言葉です。普通だったら確実にとりこぼす他愛のない一言が、加納さんにはなぜか刺さることがあるんです。
 私は馬鹿なフリして加納さんに口答え出来る唯一の後輩なので、ここぞとばかりに鼻を膨らませて、「意味わかんない! それってどういうこと!」と聞きました。しかし結果は振るわず。「なんでやねん! わかるやん!」で一蹴されてしまいました。
 加納愛子を唯一打破できると思われていた「馬鹿なフリ」作戦も、イケる時とイケない時があるねんな。謎は深まっていきました。
 このエッセイには、そんな日常の何気ない一コマに魅力を感じる加納さんもたくさん詰まっています。(「こいつの足くさいから洗ってんねんー!」、「今日の朝ごはん、どっちの手でお箸持った?」など)そして、幸運なことにその考え方のプロセスも少しずつ散らばっています。
 加納さんと仲良くなりたいけどつかみどころがないな〜って思ってる人がもしいたら、この本で加納さんの脳みそカンニングしちゃえばいいんです。
 全然つかめないけど、ほんの少し近づけた気になれます。加納さんの好みがわかったようなつもりになれます。ついつい、エセ関西弁で喋っちゃいます!!


 そういえば、今回作中に出てくる「Etoowc」。これのモデルはそう、なにを隠そう私! フワちゃんなんです。
 2年前の夏、旅行のお土産でポメロという珍しいフルーツを加納さんにあげました。加納さんのお口にも合ったみたいで、「フワちゃん! ポメロほんまにおいしかった! ありがとう! 絶対エッセイに書くな!」って大喜び。よかった!! 加納さんってフルーツすごく好きだから、「イルカも泳ぐわい。」みたいな、小気味いい文章でポメロの魅力を伝えてくれるのかな?ってすごい楽しみで、ワクワクしながらページを開きました。
 そしたらもうワケがわからなかったです!!!!! あたしびっくりしちゃいました!!!! ほんとにとんでもないことになってて、最後にポメロって書いてあるのを読むまで私があげたポメロの話だって信じられなかったです。なんですか??? 加納愛子(マイラブ)の頭の中は一体全体どうなっているんでしょうか????
「アイデアの初日感」も、一緒に行ったタイ旅行でのお話です。この旅行は本当に事件だらけで、乗る飛行機間違えるし、空港ついて速攻パソコンなくすし、熱中症になるわぼったくられるわでリアル電波少年みたいな旅だったのに、エッセイに選ばれたのがテーブルクロスの話って。。なんかもう、しびれました。どこを切り取ってんの。マジで。ぼったくりよりも「テーブルクロス」って。
 思い出のアルバムを見たり、編集してYouTubeを作ったりすることはあっても、こういう形で思い出を見返したのは初めてです。一緒の景色を近くで見ていたからこそ、加納さんが日常を見るフィルターがとんでもなく面白いことに改めて気づかされます。(ぁたしがインスタでよく使うアボカドのフィルターより面白いかも)
 最後に、書き下ろしの小説。もう読んで倒れて大の字。またですか。また最高ですか。
 漫才もコントもアニメも映画も、ついには小説も!!! 誰にも真似できない、おかしなおかしな頭の中が、宇宙みたいにまだまだ広がっているなんて!!
 しっかし加納さんは、何をやってもワクワクさせてくれる、クゥ〜って唸らせてくれる、サイコー!って叫ばせてくれる!!ノンストップエンターティナーですね! 勢い余って最後にダサい異名つけてしまいました!!
 今夜は稲穂の香りのタピオカ飲みながら一緒に帰りましょ! なにで帰る? セグウェイ?
 

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