宿題の認知科学

英語にあって日本語にないもの その2

「糖質を考えたシュークリーム」を英語にできますか? 今回は、関係節をキーワードに考えます。

 「関係節」? 英語の時間に習ったやつ? えっ、日本語にもあったっけ?

 はじまりはこんな社会のプリント(小5)。

 「うし」って……。もう、思考するの面倒だから絵だけ見て思いついたことを書きました、ってかんじですが……。自分でもおかしいと思わなかったのでしょうか。

 内容もともかく、文全体としても崩壊している日本語ですが、局所的には「牛乳を生産する[うし]」なんでしょうね。一方、出題者が意図した正解は、「北海道では、広々とした牧草地で乳牛を育て、牛乳を生産する [らく農] がさかんである」だと思われます。

 「牛乳を生産する[うし]」と、「広々とした牧草地で乳牛を育て、牛乳を生産する [らく農]」では、設問への答えとしては月とすっぽんクラスの違いがありますが、辛うじて共通している点といえば、「連体修飾節」と「被修飾語」の関係ですね。社会の問題なのにもう強引に国語の時間にワープしてみました。

 国語の時間に習ったことのなかで、おそらく一番つまらなかった・どうでもよかったランキング上位に位置しそうな「連体修飾語と連用修飾語」「体言と用言」。「体言」とか普段使いの用語でないこともあり、よけいに理解を遠ざけてしまってる気もしますが、「名詞」・「名詞的なもの」だというと早いでしょう(一方「用言」は「述語」あるいは「述語としても使えるもの」というかんじでしょうか)。

 それで、体言を修飾するものを連体修飾語といいますが、これは例えば「あんパン」という名詞、つまり体言に対してそれをもっと詳しくのべてくれる部分です。例えば形容詞(「おいしい(あんパン)」)や、あるいは別の名詞に「の」をつけたもの(「木村屋の(あんパン)」)や、あるいはもっと長いもの(「ぼくが徹夜で焼いた(あんパン)」などすべて「連体修飾語」(複数の語からなるならば「連体修飾部」)とくくるところがポイントです。

 「牛乳を生産する(うし)」も、「広々とした牧草地で乳牛を育て、牛乳を生産する ( らく農 )」も、あるいは「うしが生産する(牛乳)」「うしが牛乳を生産する(農場)」も、すべて国語の学校文法の枠組みでは「連体修飾部」です。

 ちょっと長いだけでなく効果的に食欲をそそる「連体修飾部」がコンビニに行けば百花繚乱の様相を呈しています。

「華やかに香り立つ紅茶ケーキのふんわりアイスサンド」
「富士山の銘水で炊き上げた紅鮭がゆ」
「行列のできるお店のボロネーゼ」
「ベルギー産の発酵バターが華やかに香るクロワッサン」
「糖質を考えたシュークリーム」

 このように、連体修飾部の中に「生産する」とか「香り立つ」「炊き上げた」「香る」「できる」「考えた」など述語を備え、ほぼ文の形をとるようなものは、関係節ともいいます……。 関係節といえるはずなのですが、国語の授業で関係節という用語はでてきたことがありませんよね。

 「関係節」とは、英語の授業で初めて我々は耳にする用語だと思います。なかには「えっ、関係節って英語の授業にだけ関係あるものじゃなかったの?」と思う人もいるかもしれません。だって、「先行詞を見つけて、あとは後ろから順に解釈させられる」とか、「which とかwhoとかwhomとかthatなどのうち適切な関係代名詞を選ばされる」とか、おおよそ英語の時間に理不尽な苦労させられたらもうたくさんってかんじですよね。あ〜あんなの日本語になくてよかった、って思っていたのに。

Cows [which (意味上の主語=cows) produce milk]
↑    ↑        ↑
先行詞 関係代名詞     関係節内での、先行詞の意味上の場所

Milk [which cows produce (意味上の目的語=milk)]
↑   ↑                 ↑
先行詞 関係代名詞           関係節内での、先行詞の意味上の場所

 ……でもこれらの例をみる限り、言わんとしていることは日本語の「牛乳を生産する(うし)」「うしが生産する(牛乳)」と一緒じゃん。

 というわけで、ここにあげた英語と日本語の関係節の共通点としては、以下のとおりです。

・修飾部が文の形をとる(述語がある)。
・その修飾部としての文の中では、主語か目的語かどちらかが消えている。
・その消えているものと、先行詞(または後行詞、要するに被修飾語)が意味的に共通している。

[(意味上の主語=うしが)牛乳を生産する]うし
         ↑                  ↑    
関係節内での、後行詞の意味上の場所        先行詞(いや、後ろにあるから「後行詞」)

[うしが(意味上の目的語=牛乳を)生産する]牛乳
            ↑                ↑    
関係節内での、後行詞の意味上の場所    先行詞(いや、後ろにあるから「後行詞」)

 一方、英語と日本語で異なる点は、

・英語だと関係節(連体修飾部)より前に被修飾語が来る(からそれを先行詞という)。一方日本語では、関係節(連体修飾部)の後に被修飾語が来る(先行詞とはいえないのでここでは無理矢理後行詞といってみた)。
・英語だと、ここから関係節が始まるよ、という場所に「関係代名詞」が置かれるが日本語にはそれはない。

 ということだと、これらの文を比べてみたら改めて確認できるのではないでしょうか。

 そして、関係節の中の要素で、関係節の中では姿を消しつつ、先行詞(または後行詞)と意味上の関係をむすべるのは、主語・目的語以外にも、「いつ」とか「どこ」とか「何のために」とかいろいろありえます(when, where, whyなどと結ぶ場合は「関係副詞」と習いましたっけね)。

[(意味上の場所情報=農場で)うしが牛乳を生産する]農場
          ↑                         ↑    
関係節内での、後行詞の意味上の場所    先行詞(いや、後ろにあるから「後行詞」)

The farm [where cows produce milk (意味上の場所情報=in the farm)]
 ​↑    ↑                       ↑
先行詞 関係副詞           関係節内での、先行詞の意味上の場所

 「いろいろありえる」と書きましたが、この「いろいろ」っぷりでは、実は日本語はかなりフリーダムなのです。以下、文のなかのどの部分が先行詞の意味上の役割を担っているのか特定するのが難しいと言われる文です。関係節をそのまま英語に直訳しようとしたら難しいことがわかります。

「全米が泣いた映画」
「サンマを焼いている煙」
「湯が沸いた音」
「声がよくなる飴」
「走り出したくなる気分」

 ……そしてこの文もそうなんですよねえ↓

[広々とした牧草地で乳牛を育て、牛乳を生産する]らく農

 それだったらこのように、主語が後行詞と意味上関係している主語関係節のほうが、構文としてはスッキリしていると言えるかな……。

[(意味上の主語=うしが)牛乳を生産する]うし

 と、息子のトンデモ解答を無理矢理正当化するのにここまでかかりました!

 「うし」から離れて、さきほどのコンビニ商品名に大人気の関係節ですが、

「華やかに香り立つ紅茶ケーキのふんわりアイスサンド」
「富士山の銘水で炊き上げた紅鮭がゆ」
「行列ができるお店のボロネーゼ」
↑(注)本当は「行列のできる」ですが、この「の」は主語の「が」と同様の役割で使われているので話を簡単にするため「が」に置き換えました
「ベルギー産の発酵バターが華やかに香るクロワッサン」
「糖質を考えたシュークリーム」

 最初のは、
[(意味上の主語=紅茶ケーキが)華やかに香り立つ] 紅茶ケーキ 
(紅茶ケーキ=関係節内の意味上の主語)(香るのは紅茶ケーキなのか紅茶なのか微妙ですがそういうことにしておきましょう)

 ふたつめは、省略されているらしき主語(シェフ?)を補って、
[誰か/シェフが(意味上の目的語=紅鮭がゆを)富士山の銘水で炊き上げた] 紅鮭がゆ
(紅鮭がゆ=関係節内の意味上の目的語)
 というふうに、関係節の主役が主語か目的語だという場合は単語さえ分かればわりと英語にも訳しやすそうなものです。

 みっつめは
[(意味上の場所情報=お店で)行列ができる]お店
(お店=関係節内の意味上の場所情報) 
 で、これもwhere……という場所情報を示す関係副詞で英語に直訳できそうです。

 しかし「ベルギー産の発酵バターが華やかに香るクロワッサン」となってくると、「クロワッサン」の役割は場所なのか何なのかよくわからなくなってきますし、「糖質を考えたシュークリーム」に至っては、「糖質を考えた」という関係節の中で「シュークリーム」がどういう役割を果たしているのか、まったく謎めいてきます。シュークリームが「自分って糖質多すぎなんじゃないか」と考えた、という意味(シュークリーム=意味上の主語)では断じてなく(「シュークリームが糖質の心配するんか〜い!」って誰もツッコミ入れませんよね)、意味するところは「甘いものは好きだけど糖質の摂りすぎが気になる消費者でも安心して食べられるシュークリームをメーカーが開発した」であることは誰にもちゃんと伝わるのですが、これどういう意味なのか日本語話者じゃない人に説明してとか、英語にしてみてとか言われたらむっちゃ困る!

シュークリームが考えているのではありません

 こうした表現について、もれなく意図通りの解釈を可能にしてくれる決まりはaboutness(関連性と訳されています)といわれ、日本語に限らず理論言語学の分野でその理屈について研究されています。

 というわけで、今回のテーマは「英語にあって日本語にはないわけじゃあないんだよ関係節」でした。

 国語の時間に習う学校文法では、いろいろな表現の共通点として「連体修飾語」(名詞的なものをより詳しく修飾するあらゆるタイプの要素)という大きな枠でいかにくくるかという見方に重点が置かれているのですね。

 一方、今回の記事では、国語の文法でまとめて連体修飾語・連体修飾部 と扱われているもののなかに、英語の関係節に相当するものが入っているんだよ、「関係節」って用語は英語の授業でしか登場しないけど、英語にしかそのような文型がないわけではないのだ、ということを言いたかったのでした。

 ただ、こうしてみると、共通点より、異なる点のほうがだいぶ目に付きますね。関係節という文型の日本語独特の特徴(先行詞でなく後行詞、だとか、関係代名詞がない、とか)は、関係節を含む文をリアルタイムで聞いたり読んだりして頭の中で解釈していくしくみを考えた場合、実は相当やっかいなのですが、それはまたの機会にとりあげたいと思います。

 それまで、牛乳でも飲んで一休み……。