アメリカ音楽の新しい地図

9.BTSと「エイジアン・インヴェイジョン」

トランプ後のアメリカ音楽はいかなる変貌を遂げるのか――。激変するアメリカ音楽の最新事情を追い、21世紀の文化=政治の新たな地図を描き出す!

 2020年9月5日付けのビルボードHot100でBTSの「Dynamite」がついに1位を獲得した。ビルボード誌の長い歴史上、43曲しか達成していない初登場1位という驚異的な記録であり、いうまでもなくアジア勢のアーティストとしては坂本九の「スキヤキ」(1963)以来、57年ぶりの快挙でもある(1)

 

 アメリカでのBTSの活躍をチャート上で追うと、ミニアルバムなどが2015年頃からランクインし始めるものの、ビルボード誌の総合シングルチャートに初めて登場するのは2017年9月の「DNA」である。85位にランクインされた曲は翌週67位に上がり、韓国のグループとしての最高位を更新すると(それまでは2009年のワンダーガールズ「Nobody」の76位が最高位)、同じ年の12月にアメリカの人気ラッパーとDJをフィーチャーしたシングル「MIC Drop feat. Desiigner」(Steve Aoki remix)が28位にまで上がる。
 翌年以降もBTSの躍進は留まるところを知らず、2018年5月にリリースされた「Fake Love」が10位、ホールジーを客演に迎えて2019年4月に発表された「Boy with Luv」が8位、そして今年2月にリリースされた「On」が4位と着々と順位を更新する。彼らにとって「Dynamite」は初めての全編英語詞の楽曲であり、流行のディスコ調のビートを取り入れていることからも、今回、彼らが満を持して首位を狙っていたことは明らかだろう。こうしてみると、BTSは2010年代後半以降、ときにアメリカの人気ミュージシャンとコラボレートしながら着実にファンベースを拡大してきたことがわかる。それはまた、BTSが単独で切り開いたものではなく、K-POPというシーン全体がアメリカ進出を賭けて試行錯誤した結果でもある。
 本稿では、BTSに代表されるK-POPがいかにしてアメリカの市場に受け入れられてきたか、その受容の様相を分析する。K-POPアーティストのアメリカでの活躍には発信側の戦略だけでなく、受容側の条件や事情も大きく作用する。もちろん、両者は明確に線引きできるものではないが、ここでは21世紀のアメリカのエンタテインメント業界がどのように変化し、それがK-POPの進出といかなる化学反応を引き起こしたかについて検討したい。

(1) Gary Trust, “BTS’ 'Dynamite' Blasts in at No. 1 on Billboard Hot 100, Becoming the Group's First Leader,” billboard.com, August 31, 2020, https://www.billboard.com/articles/business/chart-beat/9442836/bts-dynamite-tops-hot-100-chart/