ちくまプリマー新書

「地方」に人と人がつながる「場」をつくる
ウェブマガジンが生みだした新しいコミュニティ

いま、余白がある「地方」にこそ可能性が広がっている。これまでの居場所を違った角度で見つめなおすと、新たな面白さ、そして課題と魅力が浮かんでくる――。ちくまプリマー新書『地方を生きる』より本文を一部公開します! 福島テレビを退職して上海に移住した著者は、刺激的な経験を経て、地元・いわき市小名浜に戻ります。培った経験をもとに「ローカル・アクティビスト」として現場の課題に取り組むことになり…。(写真撮影=橋本栄子)

 いま思い返せば、郷里に帰ってきてからずっと取り組んできたのが「場づくり」でした。ここ最近よく耳にするようになった「場づくり」という言葉。辞書に載っている言葉ではないので使う人によって意味合いが少しずつ異なるようですが、ぼくの解釈する場づくりとは、だれかと出会い、社会との関わりが生まれ、それが深まる場・時間のこと。何か具体的な「場所」を運営する必要はありません。オンライン上にも場は作れるし、駐車場にも空き地にも場は作れます。飲み会もおしゃべりも、他者や社会との関わりが生まれたら、立派な場だとぼくは考えています。

 自分でウェブマガジンを制作したり、オルタナティブスペースを運営したり、大小様々なイベントを企画したりしてきたので、一時期、ぼくは自分がやっていることは「地域づくり」だと考えていたのですが、いまこうして本を書くにあたって活動を振り返ってみると、ぼくがやってきたのは「場づくり」だったのではないかと感じています。だけれども、最初から場づくりをしようと思っていたわけではない。自分の好きなことや面白いと思うことをやっていただけだし、自分の居場所がないから自分で作るほかなかっただけです。自分の興味や関心、つらいことや困難を、自分の心の中にではなく外にぽんっと出して、それについてだれかと話してみたら、「場」としかいえない何かが生まれた、という感じでしょうか。その意味で場づくりとは「だれかといい時間を過ごす」ことの先に生まれるものなのかもしれません。

 少し前置きが長くなりました。本題に入りましょう。ここで紹介するのは、ぼくが関わったふたつの「場づくり」です。ひとつめが、郷里に戻ったあとに自分で制作したウェブマガジン。そしてもうひとつが、仲間と運営しているオルタナティブスペースです。ウェブマガジンが「オンラインの場づくり」だとすれば、オルタナティブスペースは「オフラインの場づくり」と区別できるでしょうか。オンラインとオフライン。このふたつの場づくりが何をもたらしたのかを紹介していきます。

「晴耕雨読2・0」の暮らし

 生まれ故郷に戻ってきたぼくが意識したことが「上海のやり方を真似てみる」ことでした。ぼくは上海を「日本の一地方都市」のように捉えていました。上海で学んだ方法論は、日本の地方でもだいたい通用するはずだ、と考えていたんです。

 そこでまず、上海にある日本語メディアに売り込みをかけたのと同じように、いわき市内のローカルメディア企業に売り込みをかけてみました。テレビや雑誌に関わってきた経験を生かしたい、いわきのローカルメディアを盛り上げたい、というメッセージとともに、上海で制作した雑誌と履歴書を送りつけてみたんです。一応、ローカルメディアでの経験は積んだつもりだったし、採用は無理でも話くらいは聞いてくれるだろう、会ってもらえたら、なにかしら今後につながるツテになるかもしれないと期待していました。ところが、「会いましょう」どころか「履歴書を受け取りました」という連絡すら来ない。会う価値もないヤツだと思われたのでしょう。