PR誌「ちくま」特別寄稿エッセイ

『少女たちの覚醒』を編んで

ちくま文庫「現代マンガ選集」シリーズのラストを飾った『少女たちの覚醒』。編者・恩田陸さんご自身による特別エッセイをお届けします。

 アンソロジーを編むのはとても難しい。
 そんなことは先刻承知のはずだった。以前、どこかのエッセイで「小説のアンソロジーは、むしろ読者のほうに作品を読む技術が必要なので、初心者向けには一人の作家の作品の中からベストを集めたものが向いていると思う」と書いた覚えがある。「自分の好きな曲を集めたマイ・ベスト・テープは、たいてい他人には面白くない」とも。
 ましてや、今回は漫画である。見るからに異なるタッチの作品を、まとめて読んでいくにはやはり読者側の技術が要るし、生理的な好き嫌いもあるだろう。しかも、「少女漫画」というお題である。ひと口に少女漫画といっても、それこそ星の数ほどあって、イメージするものは人それぞれだ。なので最初から俯瞰はあきらめ、個人的なものにした。つまり、私がリアルタイムで雑誌掲載時に読んだもの、というくくりで選んだのである(ひとつだけ例外があるが、それを選んだ理由は巻末の解説に書いたので、そちらを読んでほしい)。
 私が読んでいた少女漫画雑誌は、まず長いこと「なかよし」と「りぼん」の時代があり、並行してしばしば「別冊マーガレット」「週刊少女フレンド」「週刊マーガレット」を読んでおり、やがて「りぼん」だけになり、「花とゆめ」「LaLa」が加わった。メインは集英社・白泉社系ということになる。ご存じのとおり、読んでいる雑誌が異なれば文化も異なり、人によって時代背景も記憶しているものも大きく違ってくる。それでも、「花とゆめ」と「LaLa」は、当時少女漫画の間口と概念を最も先鋭的に広げていた雑誌だと思うので、それなりに時代の空気を追えているのではないかと思う。
 ある程度覚悟はしていたが、予想以上に漫画のアンソロジーは難しかった。
 漫画は八の倍数のページ数が基本で、十六ページ、三十二ページ、四十八ページ、六十四ページ、というのがいちばん多い。掲載しようと思った作品は、意外にも六十四ページというのが多くて、あっというまに限界ページ数を超えてしまうのだ。短いものをあいだに挟んでも、十本がぎりぎりというのはつらかった。なにしろ、当初の案として選んだ時点でも(この段階で既にかなり苦渋の選択だった)、二十四人の漫画家の四十三本の作品が候補に挙がっていたのである。また、なんとか十本に絞ってからは、どの順番で載せるかというのも試行錯誤した。読む順番で作品の印象も違ってくるからだ。
 そして、何よりも心残りなのは、内田善美の作品を載せられなかったことだった。
 実は、私はこのアンソロジーに内田善美の「ひぐらしの森」を入れるのが一番の目標だった。悲願といってもいい。
 内田善美が「消えた漫画家」と呼ばれてから久しいけれども、実際に連絡を取ろうとすると、いろいろなつてを辿ってはみたが、本当に「誰も連絡先を知らない」という状況なのだった。最後の禁じ手、「連絡がつかなかったので、これをご覧になった著作権者の方は編集部までご一報ください」という文言を入れて載せる、というのもいっときは考えたほどである。しかし、ご本人が完全に沈黙している以上、その意思を尊重すべきという結論に至り、残念ながら収録を見送った。それでもやはり心残りであること、この上ない。
 私にとって特別な作品である「ひぐらしの森」や「空の色ににている」を新たな世代の読者が読めないのは、大きな損失であるとしか思えない。なので、まだ復刊をあきらめたくはない。もし、このページを読んでいる著作権者の方がいらしたら、ぜひご一報いただき、なんとか次世代の読者にも読み継がれるよう、お手伝いをさせてもらいたいと希う次第である。
 

2021年1月14日更新

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恩田 陸(おんだ りく)

恩田 陸

1964年、宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞を受賞。06年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞を受賞。07年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞を受賞。17年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞を受賞。近著に『祝祭と予感』『歩道橋シネマ』『ドミノin上海』などがある。