ちくまプリマー新書

経済はこんなふうに動いている!

『値段がわかれば社会がわかる――はじめての経済学』ためし読み

私たちが過ごす社会生活において「経済」の占める場所は大きい。そのしくみはいったいどのようなものか。読み解くためのカギは「値段」にある――具体的な生活場面に即しながら、経済学の初歩をやさしく解説する一冊『値段がわかれば社会がわかる――はじめての経済学』より「本書のねらい」を公開します。

「値段」がわかれば「社会のしくみ」がわかる

 この本は、経済という複雑な世界の入り口で戸惑っている人のために書いた本です。ビジネスはもちろん、政治、行政等、すべての社会現象の基礎には経済問題が関わっています。しかし、経済、経済学の入門書や教科書には抽象的な概念が並び、私たちの実生活とどう関わりがあるか、はっきりとは実感できません。しかし、経済とは「私たち自身の生活」そのものなのです。この本は、その原点に立ち返り、私たちの社会生活の中で、現実に経済がどう動いているのか、その活きたしくみを解き明かすことがねらいです。この本により、皆さんが経済をはじめてクリアに実感できるようになることをお約束します。

 このように「しくみ」という言葉を聞くことは多くあります。しかし、そもそも「しくみ」とは何でしょうか。しくみとは「ある目的を達成するために組織的に行われる活動」のことです。私たちが、明日の試験勉強の際に教科書の内容を記憶するのは体に備わった「脳の精緻なしくみ」のおかげですが、社会でも、「ある目的」を達成するために、様々な人たちが様々な場所で、政治、行政、経済、あらゆる分野で組織的に活動しています、その活動全体が「一つのしくみ」であり、社会を支えています。政治分野で、選挙によって選ばれた議員によって構成される議会が、私たちのために様々な政策を決めていくのも「一つのしくみ」ですし、例えば、音楽会で、指揮者のタクト(指揮棒)が動くことで、すべての楽器が協奏するのも、タクトに導かれて、各パートの人たちが「演奏するしくみ」が動き始めるからです。

 音楽会では「指揮者のタクト」が演奏会というしくみを動かすキープレーヤーですが、経済では「値段」がキープレーヤーです。「値段」が動くことで、「経済のしくみ」が動き出します。私たちは、普段意識することはありませんが、社会は、それこそ無数のしくみが動くことで成り立っています。

「値段を軸に動く社会のしくみ」を重視した経済学

 とすると、ああそうか、この本はよくある「価格メカニズム」に関わる本だと思われるかもしれません。しかし、この本は、それこそ無数にある「値段(価格)」の本とは別物です。おそらく経済学入門と銘うった本の中ではじめてと言ってもいい「値段を軸に動く社会のしくみ」という視点を重視した経済学の本です。

 もちろん、中学生になれば、価格が需要(買い)と供給(売り)が等しくなるように調整する、といういわゆる価格メカニズムを学んでいるでしょう。そして、それ以降に学ぶ「価格」に関わるほとんどの本は、その価格メカニズムをより詳細に精緻に論じた本です。この本ももちろんそのことは取り扱っています。「価格メカニズム」という「しくみ」は、「経済のしくみ」の根幹にあり、私たちの経済生活とは切り離せないものだからです。

 例えば、店頭にある野菜は元をただせば、一粒の種から始まります。農家が何カ月もその種から育て上げて、市場に出荷して、店頭に出てきます。この間に、商品の値段もどのように生まれ、どうして現在の「値札」になっているのでしょうか。それこそが、解きあかすべき「しくみ」なのです。その中で、価格メカニズムという、経済を動かす絶妙な「しくみ」は現実にはどういう役割を果たしているのでしょうか。

 本書では、その「値段」が商品とともに生まれ、育っていく苦難(?)の「長い旅」をたどりながら、①「値段」の持つ社会的な役割の大きさ、そして、②どのような人々がどう値段を生み出し、創り上げていくのか、その生い立ちにさかのぼって、確かめていきます。全体として、社会に組み込まれた、「値段を軸にした経済のしくみ」を明らかにしていきます。

本書の構成

 この本は、値段の旅の道筋に沿って構成されています。 

 まず、第 1 章で私たち消費者にとっての値段の意義、役割を学びます。

 第 2 章では、この本の予備知識として「価格メカニズム」を学んでおきましょう。

 第 3 章から、「値段」の旅が始まります。最初の舞台は生産者、農家の現場です。ここでは、生産者と値段との関係を学びます。

 第 4 章では、いよいよ出荷された農産物が市場に登場します。「価格メカニズム」を通じてはじめて「市場価格」という「値段」が誕生する瞬間です。

 第 5 章では、「値段」が私たち消費者の目の前に出てきます。小売店がいよいよ、値段をつけて店頭に野菜を並べます。ここでは、小売店の値段に関わる戦略を学びます。

 第 6 章が値段にとって、最後の正念場です。私たちがその値段に納得して買ってくれるかどうか。それも一瞬の勝負です。

 最後の章では、値段にまつわる興味深い話の一端をご紹介しましょう。

 この本を読み終わったあと、店頭でたくさんの「値札」たちを見かけたときには、その値段がたどってきた「長い旅」のこと、そしてその旅には無数の人たちが関わってきたこと、そのおかげで私たちの生活が成り立っていることを思い出してください。