冷やかな頭と熱した舌

第2回 
西野カナの「トリセツ」が選挙の歌に聴こえるぐらい18歳の気持ちになって参院選について考えてみた

全国から注目を集める岩手県盛岡市のこだわり書店、さわや書店で数々のベストセラーを店頭から作り出す書店員、松本大介氏が日々の書店業務を通して見えてくる“今”を読み解く!
さわや書店ホームページ開設されました!
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  さわや書店の売り場作りと「時事ネタ」

 さわや書店に入社して教えられたことの一つに、売り場をいかに現実社会とリンクさせるかということがある。いわゆる時事ネタの扱い方だ。盛岡のお客さんがその時事ネタにどれくらいの関心を寄せているのかを見極めて、迅速に仕入れをすることが重要になる。
 その教えはもちろん今も活かされているが、僕は突発的に起こる事件に比べて、開催日が決まっているイベントの売り場づくりが、いまだに苦手だ。

 直近だと、7月10日に投開票された参院選がそれである。選挙権が20歳から18歳へと引き下げられた、初めての選挙。さわや書店フェザン店でも関心を持ってもらおうと、6月下旬から店頭に「18歳の選挙」というフェア棚を作った。このテーマだけでは引きが弱いので、合わせて展開したのが今年のベストセラー第1位が予想される『天才』(石原慎太郎)を含む「田中角栄」コーナー。次に読む本として『アメリカに潰された政治家たち』(孫崎享)までをセットにし、日中関係の棚を隣に配置した。加えて改憲と安倍晋三の関連本も併売する。特に話題の『日本会議の研究』(菅野完)は外せない。「STORY BOX」(小学館)で連載中の「国会議員基礎テスト」(黒野伸一)が単行本化されていたら売りまくったのにと、少し残念に思う。
 最初よく売れてくれたが、7月に入ったあたりから『天才』以外の売れ行きが鈍る。こりゃ大して投票率が上がらないぞ、と思っていたら案の定、前回の参院選よりは上がったものの、戦後4番目に低い投票率であった。マイナンバーの時に甘利大臣が、関心を引くため替え歌を口ずさんだように、若者を意識したテコ入れがあるかと期待したが結局なかった。そもそも、自公は投票率が上がらない方が組織票で選挙に勝てると言われているので、本気で投票率を上げるようなことはしないか。18歳選挙ということで、広瀬すずがアピールしていたみたいだが、あまり話題にはならなかった。西野カナとか登用すればいいのにと個人的には思う。

 やはりと言うべきか、18、19歳の投票率(選挙区)の速報値においても、45.45%と全国平均の54.70%を大きく下回った。しかし、ここで注目すべきは、さらに細分化した次のデータである。18歳だけに限ると投票率は51.17%であり、おもわず「おっ」と声が出た。なかなかの数字に思えたからだ。それに比べて19歳はというと39.66%で、「おいおい」と思わずズッコケる。
 ん? まてよ。投票年齢が18歳に引き下げられて初めての選挙で、18歳と19歳、たった1歳の差が投票率におよそ11.5ポイントもの開きがあることに、個人的にとてもひっかかりを覚える。まさか「18歳の選挙」と大人たちが煽(あお)ったことで19歳が拗ねてしまったのだろうか。そんなバカな。きっと何か理由があるはずだ。違和感の正体を探るべく、少ない脳みそを使って、思いつく限りの可能性を考えてみる。すると、高校進学者に限れば2種類の18歳がいるということに思い至った。「高校在学中の18歳」と、「高校を卒業済みの18歳」である。
 以下、思いつきで検証など一切していない自説を述べる。

 「18歳選挙」における高校生の「優越感」

 この投票率の差を解くカギは「優越感」と「進学」にあるのではないか。
 今回の参院選は7月10日。1998年4月2日から7月11日生まれの高校三年生が「優越感」の主役である。ここでは便宜上、彼らの学年を「1998年組」と呼ぶことにする。仮に1年=12か月にまんべんなく誕生日が散らばるとすると、「1998年組」のうち参院選の時点で18歳となったのは、4月、5月、6月と7月の初旬までの3か月間とちょっと。およそ25%しかいない「18歳の高校生」だ。
 18歳といえば多感な時期で、自分が他者より秀でた人間であることを信じ、願う年頃である。彼らが、高校という同じ組織に属する同学年のなかで25%しか経験できない一大イベント、しかも初めての18歳の選挙という世間的に耳目を集めるイベントに寄せる関心は高かったはずだ。学校でもおそらく、先生方がホームルームなどで「選挙へ行くべし」と啓蒙活動を繰り広げただろう。
 きっと、すっかりその気になった「18歳の高校生」の8割くらいは、選挙に行ったのではないだろうか。分かりやすく考えるために、各月の誕生日の者が100人いるとして計算すると、4月から7月初旬生まれを333人(=4月100人+5月100人+6月100人+7月33人)、そのうちの8割だから、333×0.8=266.4。266人の「18歳の高校生」が投票に行ったと仮定する。

 残りの18歳、つまり「1998年組」より1学年先輩にあたり、すでに高校卒業済みの世代を「1997年組」と呼ぶことにしよう。彼ら「1997年組」は、進学、就職してそれぞれの道を歩み、みな18歳に達し選挙権があるので、優越感うんぬんという状況にはない。
 そこで、「1997年組」の18歳と投票率の低かった19歳のメンタルおよびモチベーションが同じだと仮定して、投票率である39.66%を借りてくる。学年としては1つ上の1997年7月中旬から1998年3月までの9か月間に生まれた「1997年組」の18歳を、これまた計算を簡単にするために毎月各100人ずつ誕生日をむかえた者がいるとして計算すると、867×0.4(39.66%)=346.8。「1997年組」の18歳は347人が投票したと推察する。
 そうすると、先ほどの「1998年組」の18歳266人と合わせて613人(266人+347人)が投票したと仮定できる。現在18歳の者、全部で1200人のうちの613人が投票したということだから、投票率は51.08%(613÷1200×100)である。現実の18歳の投票率51.17%と比べると、結構近似値ではないだろうか。もちろん高校生18歳の「8割」が行ったという根拠はないので、推測にすぎないが、18歳の投票率を上げたのは、真面目な高校生ではないかとの、傍証のひとつくらいにはなりそうである。なお、文科省のホームページによると高校進学率は97%超らしいが、高校未進学者の投票動向については予想がつかなかったため、上記の思いつきには含まれていない。

 19歳の「進学」事情、親心と成人式

 一方、19歳の低投票率には「進学」という事情が関与していそうだ。僕は参院選の翌日、さわや書店フェザン店のアルバイトの子を対象に「選挙に行ったかどうか」を、その理由とともに聴き取り調査してみた。回答を得られた人数は17人。そのうち「選挙に行った」と答えたのは10人で、うちの店に限った投票率は58.82%であった。そのなかで「行かなかった」と返答した人の理由には、ある共通項が見られることに気づいた。
 行かなかったと返答した人のうち4人は学生で、例外なく親元を離れての一人暮らし。そして彼女ら(全員女性だった)は、ことごとく住民票を移していなかったのだ。
 各投票所で受付に提出する投票入場券は、住民票の住所に送られてくる。そのため、大学や専門学校等に進学した彼女らのなかで、地元に住民票を置いたまま現住所に暮らすという人のもとには入場券が届かず、実家のほうに届くこととなる。彼女ら4人は、人生で初めての国政選挙に興味はあったものの、諦めてしまったと話してくれた。
 そこで彼女らに「不在者投票って聞いたことない?」との質問を重ねたのだが、返答はあいまいなもので、内容はよくわからないというのだ。
 確かに、不在者投票を利用する立場になければ、大人だって詳しく知らないだろう。初めて選挙に参加する18歳から22歳くらいの学生が、もしも不在者投票の制度を知っていたとしても、実家のある自治体へとわざわざ不在者投票に関する手続きを請求して、そのうえ最寄りの投票所へと足を運ぶことは、結構ハードルが高い。周りの大人たちが制度について教えず、よくわからないというのであればなおさらだ。
 現住所を移せば問題がないではないか、そう思うのだがどうやら「親の心情」と「若者の風習」の問題が、壁として存在しているようだ。平たく言えば、一つは親御さん(特に男親)の「就職は地元へ帰ってこい」という無言のメッセージ、もう一つは成人式である。
 成人式は本来、大人への仲間入りを祝う目的で開かれるが、いまや過去を振り返る一大イベントである。つまり、地元の友達と朝まで「オール」の同窓会だ。
 その宴の案内状は選挙案内と同様に、住民票の住所へと届く。だから住民票を進学した先の自治体へと移さないという人が、結構いるらしいのだ。

 1998年、大雪の成人式と選挙デビュー

 アルバイトの子たちの「成人式が」という言葉をきいて、行かなかった自分の成人式のことを思い出す。僕は住民票を、当時住んでいた東京都杉並区へと移していた。だから「成人式のご案内」も、杉並区のものが来た。一浪している僕は、成人式の翌日に絶対に落とせない必修の語学の試験が控えていたため、近くに住んでいた同郷の友人の帰郷の誘いを断り、もちろん杉並区の成人式も欠席してテストに備えた。その1998年(奇(く)しくも今回選挙権を得た彼ら「1998年組」が生まれた年だ)の成人式の日は、東京でも16センチの積雪を記録するなど各地で大雪が降り、交通網にも混乱をきたした。故郷に帰った友人は、成人式の翌日に東京に戻って来られずに、単位を落とした。
 ついでに自分の初選挙の経験を書いておく。在任中に脳梗塞で緊急入院した小渕恵三首相に代わり、密室で決められた森喜朗首相が空気を読まずに失言を繰り返し、衆議院が解散された。2000年のいわゆる「神の国解散」選挙が、僕の選挙デビューだった。投票区である東京8区には石原伸晃氏が立候補しており、前年に都知事に就任した石原慎太郎氏の長男ということで注目を集めていた。ちょっとビビりながら投票所へ行き、想像よりもあっさり終わった覚えがある。政策なんて全くわからず、強者へ弓を引くことが格好いいと思って、野党候補へと一票投じたのだった。懐かしい。あれから20年近く時が経ったとは。
 当時の石原伸晃氏は、親父である石原慎太郎氏が、その身に田中角栄を憑依させて『天才』というベストセラーを書く未来なんて、想像もしていなかっただろう。親父の後継とその次の都知事が、金の問題で任期を全うせずに相次いで職を追われ、自民都連の会長となった自分が小池百合子氏の身勝手な出馬表明に、頭を悩ませることになるなんてことも……。

 都知事選、盛岡より愛を込めて

 今回の都知事選には、元岩手県知事の増田寛也氏も出馬を表明した。参院選開票直後、自民の勝ち馬に乗る形での出馬表明に、乗馬が趣味の増田氏らしいなと思った。
 改革派のイメージが強い彼であるが、12年続いた増田県政下で岩手県の借金は6000億円から1兆4000億円へと倍増したことを、皆さんはご存知だろうか。ちなみに、岩手県知事時代にはファーストクラスで出張していたそう……東京の皆さん、安心してください。岩手県民も払っていますよ。
 彼は『地方消滅』(増田寛也編著)を世に問うた人である。東京一極集中を批判し、総務大臣時代には「法人事業税の暫定措置」を導入した。簡単に説明すると、税収の多い東京などの税金を、税収の低い他の地方へと分配するというスキームを作った。都民の敵、地方民の味方である。この制度がなければ、本来東京に入るはずだった税収は1兆円(東京都報道発表資料H27)。彼がその財源移譲のシステムを作らなければ、都内の待機児童数は減っていたかも知れない。そんな増田氏の選挙演説の第一声は「知事就任後、一か月以内に待機児童解消のプログラムを作成」すること。政治史に残るマッチポンプだ。増田氏が総務大臣になっていなければ、「日本死ね!!」とかブログで書かれることもなかっただろうに。
 ああ、僕に都知事選の選挙権があったら、自分の自治体に厳しく他の地方自治体に優しい自滅型の……もとい、実務型の増田氏に投票したい。いや、僕じゃなくても地方の人は、みな増田氏の当選を望んでいるに違いない。でも、増田氏が当選したらきっと、地方に優しい政策は封印するのだろう。官僚出身だけあって、そのあたりは上手にやると思う。

 いずれにせよ、東京都在住の18、19歳にとっては参院選に続く大型選挙になる。投票率を上げるために、最後にひとつ提案したいのはやはり西野カナだ。各候補が当選した際は、彼女の「トリセツ」を歌うことを必須としたい。一部を「公約保証の私だから」という替え歌にして。そうすれば、当選後の政策に注目が集まって政治へと関心が……向かないか。
 いっそのこと、オリンピックを控えた日本の首都の大事な首長なのだから、日本全国みんなで投票して決めませんか? うちのアルバイトの学生にも不在者投票のやり方を教えておきますから。

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