ちくま新書

旧社会主義国の激動の30年史を読み解くカギ、「準大統領制」とは何か?

『ポスト社会主義の政治』序章より

†旧社会主義国に広がる準大統領制
 30年前(1989‐91年)、ソ連・東欧の社会主義政治体制は崩壊した。議会制=ソヴェト制の外観の下、一党制またはヘゲモニー政党制(今日の中国のように、単一の支配政党と複数の衛星政党で形成される政党制)を採用していたこれら国々は、複数政党制を前提とする新しい政治体制を選択することを強いられた。
 かつてのソ連・東欧地域には、こんにち28の承認国家、3つの半承認国家(コソヴォアブハジア、南オセチア)、4つの非承認国家(沿ドニエストル、ナゴルノ・カラバフ、ドネツクとルガンスクの人民共和国)が存在する。このうち、2020年10月現在、エストニア、ラトヴィア、ハンガリー、アルメニア、アルバニアの計5カ国が議会制を採用し、トルクメニスタン、ナゴルノ・カラバフ、ドネツク人民共和国の計3カ国が大統領制を採用しているのを除き、27の旧社会主義国が準大統領制と呼ばれる体制を採用している。
 この準大統領制とは、すぐあとに詳しく述べるが、国民が選挙で選ぶ大統領と、首相が併存する体制である。そして、旧社会主義諸国の中で、準大統領制を選んだ国が圧倒的に多いのである。しかも右に掲げた準大統領制をとっていない国の中でも、アルメニアとナゴルノ・カラバフは、一時期は準大統領制であった。本書は、準大統領制というコンセプトを通じて旧社会主義諸国の現代史を考察する。
 とはいっても、34カ国の政治体制について満遍なく論じることは可能でも生産的でもないので、本書は現に準大統領制であるか、かつて準大統領制であった国のうちポーランド、リトアニア、アルメニア、ウクライナ、モルドヴァを事例として選ぶ。

 

 選択の理由は、アルメニア語を除いてこれらの国の国語を私がそこそこ知っているということも大きいが、それだけではない。これら5カ国は、EU、NATOに加盟して久しいポーランドとリトアニア、安全保障上の理由からロシアの同盟者であり続けているアルメニア、ロシアと西側諸国の争奪戦の対象になったウクライナとモルドヴァという形で多様な地政学的条件を代表している。このことは、地政学と準大統領制の関係を論じる各章の後半で特に重要となる。
 準大統領制という概念を最初に提案したのは、フランスの著名な政治学者モーリス・デュヴェルジェであった。彼は、シャルル・ド・ゴールが打ち立てたフランス第五共和制の観察に基づき、従来、政治体制を分類してきた大統領制、議会制という二範疇に加えて、準大統領制という第三の範疇を提唱した。
 デュヴェルジェの主張は、長い間、政治学において多数説の地位を獲得できなかったが、1990年代に再注目されることになった。なぜなら、1990年前後の民主化の波に乗って一党制またはヘゲモニー政党制を放棄した国々、すなわち旧社会主義国、アフリカの旧仏・旧ポルトガル植民地諸国、台湾などのうちの多くが準大統領制を採用したからである。
 こうして、準大統領制は、政治学において人気のあるテーマとなった。なかでもロバート・エルジーとソフィア・モエストルプのグループは、世界各地の準大統領制を紹介する五冊の論文集を1999年から2014年にかけて立て続けに出版した。

†準大統領制の三類型
 日本が議会制(議院内閣制)を採用し、日本人にとって身近な国であるアメリカが(純粋な)大統領制を採用しているのに対し、準大統領制とは、国民が選挙で選ぶ大統領と、首相が併存する体制である。言い換えれば、三権分立における執行権力が大統領と首相に分割されているところが特徴である。もう少し詳しく定義すると、準大統領制とは、①国民が大統領を公選する、②その大統領が首相を任命する体制である。②にあたって議会がどう関与するかで準大統領制は分類される。本書は、次の分類法を採用したい。
 首相という役職が存在するが、大統領が首相任命にあたって議会の承認を問わなくてもよい場合、その体制を、ⓐ高度に大統領制化した準大統領制(highly presidentialized semi-presidentialism)と呼ぼう。2005年憲法改正までのアルメニア、こんにち(2020年)に至るまでのアブハジア、旧社会主義国以外では台湾、スリランカ、ガイアナ共和国がこれにあたる。ただし、その名の通り、この体制は純粋な大統領制に近いので、高度大統領制化準大統領制という概念を認めず、これを大統領制に含める政治学者も多い。本書では、たとえ大統領に完全に従属するにしても、名目上、首相職があれば高度大統領制化準大統領制、名目上も首相職がなければ大統領制と呼ぶことにする。高度大統領制化準大統領制においては、大統領が閣議を主宰する場合が多く、首相は大統領の助手にすぎない。
 大統領が首相候補を議会に推薦し、議会多数の支持が得られた場合に任命する体制を、ⓑ大統領議会制(president-parliamentary system)と呼ぼう。これは大統領が相対的に強い準大統領制であり、ロシア、カザフスタン、ベラルーシなどに見られる。上記の国々の憲法は、大統領による首相任命に議会の承認が必要といっても、議会が重ねて大統領の首相候補を拒否した場合、大統領に議会を解散する権限を与えているので、それによりますます大統領は強くなる。
 議会の多数派が首相候補を指名し、大統領はその候補を任命する体制、あるいは大統領が首相を指名するにあたって、議会多数派との事前協議が憲法上義務付けられている体制を、ⓒ首相大統領制(premier-presidential system)と呼ぶ。これは議会が相対的に強い準大統領制であり、リトアニア、ポーランドなどに見られる。
 ⓑⓒ間の違いは、大統領と議会多数派の政治傾向が異なる場合に大きくなる。ⓑの場合、大統領は議会に圧力をかけながら、自分がよしとする首相候補を任命することができるかもしれない。しかしⓒの場合は、大統領は、議会多数が支持する首相候補が自分の反対の党派に属していたとしても任命せざるを得ないので、コアビタシオン(共存政権)が生まれる。
 この言葉が政治学用語となったのは、フランス第五共和制において、1986年、社会党のフランソワ・ミッテラン大統領が、議会選挙に勝った共和国連合党首のジャック・シラクを首相に任命せざるを得なかったときである。断っておけば、第五共和国憲法は、条文上は大統領の首相任命権に制限を設けない高度大統領制化準大統領制であり、フランスにおけるコアビタシオンは政治的慣行に基づくものである。

†首相任命権と解任権
 大統領を支持する政党(連合)が議会で安定多数を有していれば、大統領はいずれにせよ自分が推す候補を首相にすることができるので、ⓑ大統領議会制とⓒ首相大統領制の違いは実際にはあまり感じられない。憲法上、大統領が強いⓑの国でも、大統領が議会内の一党優位に支えられていれば、自発的に憲法改正を提案して、ⓒに体制を変える場合もある(アルメニアの例)。
 実は、ⓑⓒを区別するにあたって首相任命権を基準とする説は近年あまり支持されておらず、かわりに首相解任権が誰にあるかを基準とする説が有力になった。大統領が、議会の意向によらず、あるいは議会の意向に反して首相を解任することができれば、大統領議会制である。議会の同意が得られない限り大統領が首相を解任できない仕組みなら首相大統領制である。それならば、議会の信任を失った首相を大統領が解任する義務を負っていれば首相大統領制かといえばそうではない。たとえ解任義務があっても、議会に不信任されていない首相を大統領が自分の判断で解任できれば、それは大統領議会制である。
 このように、首相解任権を基準にすれば、大統領議会制においては首相・内閣の存続は大統領と議会の双方にかかっているのに対し、首相大統領制においては議会にのみかかっている。これは明快な分類法のように見えるが、実は首相解任権の所在を明らかにしていない憲法も多い。そもそも本書の目的は政治体制の分類ではなく、首相任命・内閣形成というプリズムを通じて当該国の政治の動態を見ることなので、本書は首相任命をより重視する。
 なお、ドイツやイタリアのように大統領と呼ばれる役職が存在していても、大統領が国民によってではなく議会によって選ばれる場合は、その体制は議会制の一種とみなされる。本書ではこれを議会大統領制と呼ぶが、上記のⓑすなわち大統領議会制と名称が似ているので、混同なきようお願いしたい。
 日本人が特に注意しなければならないことだが、日本のマスコミの用語法では、たとえ大統領が公選されていても、首相が議会によって選ばれる仕組みなら、それを「議院内閣制」と呼んでいる。「キルギスタンは2010年の政変で議院内閣制になった」、「フィンランドは今世紀初頭の憲法改正で議院内閣制になった」といった文章は新聞で普通に見かける。これは必ずしも政治学的な用語法との食い違いとばかりも言えず、当初、デュヴェルジェも、「大統領が相当の権力を持っている」ことを準大統領制の要件に含めていた。その後の学説の発展の中で、「相当の権力」などという曖昧な基準が入っていると、準大統領制を定義することが不可能になるということで、大統領については公選・非公選のみが基準として残されたのである。

†五つの制度とその間の移行
 ここまでの議論を整理すると次の通りである。

①大統領制︱首相職は存在しない。執行権力は公選の大統領に一元化。
② 高度大統領制化準大統領制︱首相職は存在するが、大統領の判断によって任命され、議会の承認は必要ない。
③大統領議会制︱大統領が、議会の承認を得て首相を任命。
④首相大統領制︱議会多数派が首相候補を指名し、大統領は任命する。
⑤議会大統領制︱議会制の一種である。大統領は公選ではなく、議会によって選ばれる。

 本書では、これらのうち②③④を準大統領制とみなす。この三つの中では、議会が強いという意味で、④の首相大統領制が比較的民主的と一応は言える。しかし、議会選挙が自動的に議会多数派連合を生み出すわけではなく、様々な連合の組み合わせが考えられるので、大統領がこの過程に巧妙に介入し、内閣形成者の役割を果たすならば、政治において主導的アクターであり続けることができる(リトアニアの例)。
 現職大統領が三選禁止条項を越えて権力を維持するために、大統領議会制の憲法を改正して首相大統領制を導入したと解釈しうる例もある(2010年のグルジア=サカルトヴェロ)。つまり、議会権限を強化して、議会選出の首相として国の指導者であり続けようとしたのである。さらに、アルメニアでは、現職大統領が主導して2015年に憲法改正して議会制を導入し、2018年に自分は(憲法上もはや実権を失った)大統領職から首相職に横滑りした。こうした手法に対する市民の憤激から同年の「四月革命」が起こった。
 また高齢の大統領が、自分に比肩するカリスマ的独裁者はもはや現れないだろうと考えて、現行の大統領議会制下で単一の後継者を指名するのではなく、首相大統領制の憲法を採択することで、より集団的な後継体制を作ろうとする例もある(2015年頃のカザフスタン)。
 同じ地域にあるか、似通った建国の文脈にありながら、それら国々の選択が多様化した例もある。中央アジア5カ国は、そのうち三カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン)がCIS(独立国家共同体)に標準的な大統領議会制を選んだものの、トルクメニスタンの大統領制とクルグズスタンの首相大統領制という例外を生み出している。前者は1992年に早くも確立されたサパルムラト・ニヤゾフの独裁の結果であり、後者は2005年、2010年の二度の革命の結果である。
 アルメニアとナゴルノ・カラバフは、いずれもアルメニア人が基幹民族である兄弟国家だが、2005-06年に、前者は首相大統領制憲法を、後者は大統領議会制憲法を選択した。首相大統領制下では、大臣職がしばしば連合形成のための取引材料として使われ、そのため長期にわたる大臣職の空席もまま見られる。これは人口14万人のカラバフには許されない贅沢と考えられたのである。
 ナゴルノ・カラバフの奪還を目論んだアゼルバイジャンとの2016年四月戦争をはさんで、2015-17年、アルメニアは議会制に、カラバフは大統領制に移行し、両国の分岐はますます鮮明となった。アゼルバイジャンとの緊張下で権力分散的な準大統領制はよくないと考えられたのは両国同じであったが、権力を議会に一元化するか、大統領に一元化するかで両国は分化したのである。
 ここでカラバフは大統領議会制から大統領制に移行したと述べたが、1990年代前半の内戦から生まれたその他の非承認三国の選択もそれぞれ個性的であった。南オセチアは議会制が比較的長く続いた後に大統領議会制に移行し、アブハジアは、議会制から高度大統領制化準大統領制に移行した。沿ドニエストルは長らく大統領制であったが、2011年に首相職を導入して大統領議会制に移行した。ウクライナ動乱の中から生まれた新しい非承認国家のうち、ドネツク人民共和国は大統領制を、ルガンスク人民共和国は大統領議会制を選んだ。
 大統領議会制と首相大統領制の間を行き来している国もある。ウクライナとモルドヴァである。ウクライナは、一九九六年にレオニード・クチマ大統領下で大統領議会制の憲法を採択したが、2004年、オレンジ革命中に首相大統領制に移行した。この改正手続きに瑕疵があったことを口実に、2010年にヴィクトル・ヤヌコヴィチ大統領の影響下にあった憲法裁判所が1996年憲法を復活させた。さらに2014年のユーロマイダン革命は、ウクライナを首相大統領制に再び戻した。
 モルドヴァは、当時のCIS諸国の中では例外的に、1994年に(議会が相対的に強い)首相大統領制憲法を採択した。しかし、大統領と議会の間の権限分割がはっきりせず、1998年以降、政治危機に陥ってしまったため、2000年の憲法改正で議会制(議会大統領制)を導入した。しかし、議会が大統領を選出する要件が厳しすぎたため大統領不在の状況が2009年から12年まで続いた。2016年には、2010年のヤヌコヴィチ下のウクライナと同様、2000年の憲法改正手続きに瑕疵があったことを口実に、憲法裁判所が1994年憲法を復活させた。

†準大統領制をプリズムとして政治の動態を見る
 前項で見たように、大統領制、高度大統領制化準大統領制、大統領議会制、首相大統領制、議会大統領制の間の選択は、当該国の政治を生き生きと反映したもので、ある一時点をとって分類するようなアプローチでは、その面白さがわからない。本書は、準大統領制およびその下位範疇を、政治体制を静態的に分類する囲いとしてではなく、当該国の政治の動態を分析するプリズムとして用いる。
 一部の政治学者は、準大統領制の概念は、首相指名と内閣形成手続きに関心を集中しすぎだと批判する。そのため大統領の議会に対する拒否権、議会がそれを克服する手続きなど、立法・執行関係を規制する他の要素を軽視してしまうと言う。その結果、準大統領制の概念は拡散する傾向があり、同じ準大統領制に属するとされる体制が互いに似ていなかったり、マージナルな準大統領制は、むしろ議会制や大統領制と見分けがつかなかったりすると批判する。
 しかし、首相指名と内閣形成が立法・執行関係を規定する一要因にすぎないなら、それが旧社会主義諸国の政治において重要争点であり続けているのはなぜなのか。実際、たんに大統領任期を4年から6年に延ばしたロシアの2008年憲法改正を除けば、21世紀に旧社会主義諸国において行われた憲法改正のすべてが、準大統領制への移行またはそこからの離脱、または準大統領制の範疇内での首相任命手続きの変更にかかわるものであった。モルドヴァにおける2000年と2016年、ウクライナにおける2004年、2010年、2014年、アルメニアにおける2005年、2015年、ナゴルノ・カラバフにおける2006年、2017年、グルジアにおける2004年、2010年、チェコにおける2013年、ロシアにおける2020年の憲法改正がこれにあたる。
 私見では、首相指名と内閣形成の手続きが憲法上の一大争点であり続けているのは、それが政党制と連合政治、エリートの期待と行動、旧体制からの制度遺産、他国の経験からの学習能力、地政学的・軍事的要因など、当該国の政治の特徴やそれを取り巻く環境が集中的に表現される場だからである。だからこそ、本書は、準大統領制をたんなる体制分類範疇としてではなく、政治の全体像と動態を見るプリズムとして用いるのである。

(以下、『ポスト社会主義の政治』に続く)