地方メディアの逆襲

瀬戸内海放送「調査報道記者」編③「個」の力が報道を強くする

地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 香川と岡山を放送エリアとするKSB瀬戸内海放送による調査報道を取り上げます。

地方局が作る地域の「クロニクル」
 〈善いことの『ちから』に〉。2019年に開局50周年を迎え、KSB瀬戸内海放送が掲げた経営理念だ。放送エリアである香川・岡山で地域に貢献するということだが、報道においてその意味するところを、本山秀樹・報道クリエイティブユニット統括マネジャー(53)はこう説明する。
 「地方メディアは、報道機関であるとともに地元企業の一員でもある。権力監視をしっかりやるのは当然ですが、一方で地元の応援団でもありたいと考えています。地元の行政や政財界でも、おかしいことがあれば批判する。けれども、斬って捨てて終わりではなく、ではどうすればいいのか、解決策を視聴者と一緒に考えていく。答えはすぐに出ないでしょうが、責任を持って伝え続ける。そういう姿勢がなければ信頼されない。ともすれば、『地元を悪く言う』『独善的だ』と受け取られかねません」
 香川出身の本山は、19年にKSBに来るまで朝日新聞に長く勤務した。記者として鹿児島、宮崎、山口で地方勤務を経験し、東京本社では主に社会部に在籍。調査報道班のキャップや鹿児島総局長も務めた。その中で「斬って捨てる型」の報道をしてきた反省があるという。
 「調査報道班などは特にそうですが、大きなネタを出さなきゃいけない。地方でも、一つ書いたら引きずらずに次へ、というところがありました。全国メディアとしてはそれでよくても、地方メディアではそうは行かない。批判的報道であっても、これは地域をよくするためにやっているんだと理解され、地域に支えられなければ、われわれは存続できないので」
 地域の一員でありながら、報道機関として批判するべきはする。これが地方メディアの難しいところであり、「地元権力に弱い」「癒着している」と、しばしば言われる所以でもある。さらに、ネットの隆盛や人口減少とともにマスメディアの力が相対的に低下し、経営が厳しくなる中、企業としての存続も課題になっている。
 朝日新聞時代、デジタル事業に携わり、日本新聞協会の研究チーム座長も務めた本山によれば、ネットのプラットフォーム企業が地方へ〝進出〟する動きが、今後盛んになると予測される。たとえば、新聞社や放送局を買収し、既存の取材網と制作力を生かして地方発のネット記事を充実させるというような形だ。これに対抗するため、地方メディアが地域や系列ごとに統合・再編することも考えられる。

報道クリエイティブユニットの本山統括マネジャー

 報道の独立を保ちつつ、経営とどう両立させるか──。いつの時代もマスメディア企業について回る課題だが、ネット企業との関係やそれに取り込まれない独自のネット展開は、地方・全国を問わず、今後ますます大きな問題になっていくだろう。
 比較的早くからニュースをネット上に提供し、連載第1回で触れた『検証 ゲーム条例』のようにYou Tubeでも番組を公開してきたKSBも、もちろん例外ではない。
 「テレビだけを見ている層は確実に減っていきますから、スマホやパソコン、その他さまざまなデバイスで地域の情報を積極的に発信していく必要がある。ニュースや天気予報などを配信するKSB独自のアプリも始めています。弊社の会長も申していますが、従来のテレビ局から、今後は『テレビもやっているメディア』になっていくイメージですね」
 情報技術の変化に伴い、ニュースを届ける形は多様化していく。とはいえ、地域に根差すメディアにとって変わらない──いや変わってはいけない役割もあるだろう。話は結局、地方メディアの使命とは何か、に戻る。全国紙からローカルテレビ局に転じた本山は、それをどう見ているか。
 「社会の矛盾や課題、これからどう変わっていくのかという兆しは、地方にこそ現れる。それを見逃さず、きちんと気づける感性を持ちたいと思いますし、記者たちにもそう言っています」
 報道クリエイティブユニットに在籍する記者やデスク、アナウンサーは香川に17人、岡山に13人。彼らに向けて本山が示したコンテンツ制作方針には、「地域の民主主義を支えよう」「地元の応援団であろう」など6項目が並ぶ。筆頭にこうあった。
 〈「クロニクル」をつくろう いまという時が歴史の中でどう刻まれるのか──このことを意識してコンテンツを作ろう。視聴者・ユーザーにとって、いまという時が、後々振り返った時に、「ああ、あの時はこういう時代だったんだな」ということがわかるようなコンテンツを作ろう〉
 事件事故や災害、政治・行政や経済などの動きはもちろん、地域で持ち上がった問題、そこに生きる人びとの姿を捉え、記録する。それが積み重なってクロニクル=年代記となり、後世へと伝わっていく。地域社会という具体的な現場を持つ地方メディアの、これこそが重要な役割であり、強みでもあるだろう。
 取材の終わりに本山が語った言葉が印象に残った。
 「根底に地域への愛着を持つこと。それがなければ視聴者に届かないし、人の心を動かさない」